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第二十五章:約束された世界
後日譚5 シーニャのたどり道3
しおりを挟む襲いかかる無数の魔法の矢。
これに対しウルティモが放った魔法は、その場にいる誰もが目を覆い隠すほどの眩しい光の壁だった。
「フギニャッ!? 何も見えないのだ~!! 何が起こっているのだ?」
「ひええぇ~わたしまぶしいのは駄目~」
「まびしいニャ~!!」
何が起こったのだ?
あの男は大丈夫なのか分からないのだ。
まともに光を浴びたとはいえ、アヴィオル、シャトンよりは耐性を持つシーニャは少しだけ閉じた目を開けることが出来た。
おそるおそる目を開けると、自分の足下には折れ曲がった矢が落ちていた。
その矢からは魔力が感じられず、シーニャは思わず首を傾げる。
「ウニャ? 魔法の矢じゃなかったのだ?」
「ふむ……シーニャさんには魔力感知の能力が備わっているのだな」
「よく分からないのだ。それよりも敵はどこなのだ?」
「敵というような存在は見当たらなかった。魔法による攻撃はここへの侵入者に対する遠隔攻撃か、あるいは……。いずれにせよ、脅威となるものではなかったのだよ」
ウルティモの言ってることが全く理解出来ないシーニャは何度も首をかしげるも、大したことがないことが分かり、近くを歩き回ることにした。
「シーニャさん、危険は無いと思われるが気をつけるのだぞ」
「何てことは無いのだ。男……オマエも気をつけるのだ、ウニャッ」
「……ふ。オマエ呼びに変わったか」
魔族の村はさほど大きくなく、歩き回るにしてもかろうじて朽ちていない家々を見ることしか出来ない。シーニャは少しだけ注意を払いながら、一軒ずつ家の中を確かめることにした。
ここにはアックもドワーフもいないのだ。
だけど変なのだ。アックに似た気配を感じてしまうのはどうしてなのだ。
ひと気の無い家の中には家具はおろか、道具といったものは一切残されていない。シーニャは微かに感じる気配を探して家の中をくまなく探した。
すると、腐った床の下から石があることに気づく。
「ウニャッ? アックが持ってた石がどうしてこんなところに落ちているのだ?」
石を手にすると、わずかながら魔力の流れを感じたシーニャは急いでウルティモの元へ急いだ。
「どうなのだ? その石はアックが持っていたのに似ているのだ」
「――ぬ? こ、これは魔石? しかし魔力はほとんど含まれておらぬな……」
「魔石……アックがぐるぐる回してぶん投げてた石のことなのだ?」
「う、うむ」
シーニャの言葉にウルティモは動揺を見せるも、ウルティモは今一度魔石に触れてみた。
「むぅ、ほんの少しだが火属性が含まれているやもしれぬ。アックくんが持っている魔石とは性質が異なるようだが……」
「ここに落ちてたということはいらない石だったのだ?」
「魔族の村ではあるが、神族国に近い場所であるし住人が使っていたものかもしれぬな」
「あっ! それ、アグニ様の落とした火打石! こんなところにあったなの~」
ウニャニャ!?
この声、どうしてここにいるのだ……?
でもそんなはずがないのだ。
光によって身動きが取れなかったアヴィオル、シャトンが驚く中、久しぶりに聞こえた声にシーニャは自分の耳を疑って耳を手でふさいでしまう。
「もう! 久しぶりなのにシーニャはわらわを忘れてしまったなの?」
「フィ、フィーサなのだ? 消えてどこかにいなくなったんじゃなかったのだ?」
「失礼しちゃうなの。相変わらずで安心したなの」
剣の姿のままのフィーサの出現にウルティモも言葉を失うが、
「そなたはアックくんの剣であったな? なぜ急に現れたのか説明を頂きたいのだが。それと火打石とやらのことも……」
「あっ、そうだったなの」
ウルティモの言葉にフィーサは人化。
少女姿に人化した状態でフィーサは姿勢を正し、ウルティモに頭を下げる。
「いきなりでごめんなさい。わらわは今までずっと神族国で修業をしていました。でもでも、ひと段落出来たから地上へ降りてこれました。驚かせてごめんなさい。その石は魔石に似てるけど、ただの火打石なんです」
「む、むぅ……」
「神剣少女が成長してる~」
「アックの剣が成長したニャんて驚きニャ」
礼儀正しい少女に対し、ウルティモ、アヴィオル、シャトンは驚くばかりだった。
「ウニャ、魔石じゃなかったのだ? アックが持っていた石じゃなかった……ウニャ」
「誤解させちゃってごめんね、シーニャ」
「石のことはどうでもいいのだ。それよりも、これからは一緒に動くのだ?」
「うん。シーニャのことが心配だから降りて来たし、シーニャの気持ちが痛いほど分かるからね!」
「やったなのだ~! アックにもっと近づけるようになるのだ!」
石は魔石ではなく、アグニが落とした火打石だった。
お騒がせをした詫びのつもりなのか、シーニャの元にフィーサが降って来た。
アック探しの手がかりではなかったものの、フィーサと再会。
それだけでもアックに近づける――そう思いながら、シーニャは気を取り直すのだった。
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