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第二十五章:約束された世界

566.ルティ専用魔石の行方

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 ロキュンテに着くと、目の前にはすでにルティの両親とドワーフたちが出迎えていた。
 父であるテクスはおれに睨みを利かせ、ルティをすぐに連れて行こうとする。
 
 これにはミルシェやアヴィオルが抵抗を見せるが、それに対しルティの母親であるルシナさんは――

「――アックさんが悪いわけでは無いですし、争いはやめにしましょう! それに……」
「母様。わたし、眠くなりました。横になって来ていいですか? それにこの人たちは悪い人じゃないので、父様にも説得をお願いします」
「そうね、ゆっくり休んできて。この場のことは私が収めておくから」

 故郷に帰って来たのが嬉しいのか、おれたちに頭を下げてルティはさっさと家に戻ってしまった。やはり何かが変わるわけじゃ無いようだ。アグニも一応呼び出したが火の神もどうにも出来ず、火山を見に行くと言っていなくなってしまった。

 一方、家に入って行くルティを見送ったドワーフたちもこの場から解散。
 そして、ルシナさんがようやくおれたちに口を開いた。

「私には全て見えていました」
「! それも占星術の?」
「ええ」

 ルティの母ルシナさんには星を見る力がある。
 主にルティのことばかりだが、先のことが分かる不思議な人だ。

 ルティが持っていた石の欠片のことを話すと、すぐに分かった顔を見せる。

「アックさん。ルティシアが大事に持っていたその欠片は、ドワーフの印章……お守りです。それを持っていたからこそ、辛うじて魂までは奪われることが無かったとみていいでしょう。ですけれど、このままここで静養させてもあの子の記憶が戻ることはありません。アックさんはそれでいいとお思いですか?」

 ルティの印章の欠片――ドワーフのお守りだったか。

 強化訓練後に大事そうに持っていたのをちらりと見たことがある。まさかあれが過去で手に入れたとされる救いのアイテムだったとはな。

「――じゃあどうすればいいっていうんですか? どうすれば!」
「ウ、ウニャ、アック、落ち着くのだ……怒ったら駄目なのだ」
「……うぅっ、アックさま」

 シーニャは案外落ち着いていて、おれを慰めながら落ち着かせてくれている。
 ミルシェはおれ以上に気落ちしているせいか、泣いているだけで顔も見せない。

「くっ、どうすればいつものルティに戻るんだ……おれに教えてくださいよ、ルシナさん」

 ルシナさんに詰め寄ると、意外な言葉が返ってきた。

「アックさんともあろうお方がご自分の力、石にも頼らないんですか? 困ったことがあったら石に聞く。今までそうしてきたはずです」

 石に聞く……魔王もそんなことを言っていた。
 
「あなたには特別なスキルがあるじゃないですか! 今は全く使わなくなったみたいですけど、そのスキルを使ったことであの子に出会えたのをお忘れですか?」
「特別なスキル……『レア』確定のガチャ?」
「ええ。それを使えば完全じゃないにしろ、あの子の記憶を取り戻せるんじゃありませんか? 確か専用の魔石をお与えになったと聞きますけど?」

 魔石は単純にガチャをする為の魔石と専用魔石の二種類が存在する。
 専用魔石なら彼女たちの最強装備やアイテムなんかを出すことが出来たが、サンフィア以外の専用魔石は彼女たちに預けていたはず。

 シーニャの顔を見るが、

「ウニャ? 魔石は持ってきてないのだ」

 そう言ってシーニャはすぐに顔を左右に振った。
 ミルシェの方も見るも、

「あたしは大事な物は体に入れておりますので、このようにいつでも……」
「わー!? 急に胸をはだけるのは駄目だって!!」
「あら、あたしを意識するのは違うのでは?」

 ミルシェがいつもの調子を取り戻してくれたのはいいが、ルシナさんの前でその行動はどうなんだ。
 意識したくなくてもそれはまずいだろう。

「と、とにかく、専用魔石は彼女たちに持たせていました。でもルティが持っていたのはその欠片だけで……」
「ドワーフのお守りですね。しかし魔石といえども、アックさんから授けられた魔石ですし大事な物としての認識を持って、もしかしたら別の場所に隠しているのではありませんか?」

 ルティが隠す場所か。
 
「シーニャ。シーニャは魔石をどこに置いてるんだ?」
「アックの部屋なのだ! そこに置いているのだ」
「部屋に? ということは、ルティも自分の部屋に置いている可能性がありそうだな……」
「いいえ、あの子の部屋にはありませんわ」
「ええ?」

 ミルシェはルティと部屋を近くにしていた。
 その彼女が見ていないとなると、探しようがない。
 まさかこぶし亭に飾ってるでも無いだろうし、どうしようもないじゃないか。

「アックさん。そういうのも石に聞けるんじゃないんですか?」
「――あ」

 まずは普通の魔石でガチャをする。
 久しぶり過ぎるが、多分何とかなるはずだ。

「……出たか?」

 魔石を手にしてガチャをすると、出たのはおれにしか見えないルーン魔法文字だった。

 【倉庫の思い出】【初めてのお買い物】【初めての稼ぎ】

 何だこれ……。
 こんな謎解きみたいなことを見せられても困るんだが。

「ウニャ? 何が出たのだ? シーニャは何も見えなかったのだ」
「アックさま、どうでした?」
「よく分からないけど、倉庫の思い出とかってのが浮かんできた」
「倉庫ですか? どこの倉庫のことです?」
「それが問題なんだけどね……」

 倉庫で思い浮かぶのはラクルとイデアベルク、それにレザンスくらい。
 どこの倉庫に思い出があるのか、それはルティしか分からないことだ。

「アックさん。それ以外は?」
「後は、初めてのお買い物とか、初めての稼ぎですかね。ルティってどこで最初に買い物をしましたか?」
「……ふぅ。鈍いにも程がありますよ、アックさん」
「え?」

 見るとルシナさん以外にミルシェも呆れた表情を見せている。
 ――ということはもしかしなくても、あそこか。

「あの子はアックさんに呼ばれ、あなたを助けました。外に出たのもその時が初めてです。その意味が分かりますよね?」

 Sランクパーティーにやられ、ワイバーンにやられたあの場所だな。
 それはさすがに分かる。

「しかし初めての思い出となると、アックさんとあの子にしか分からない場所です。それが分からないあなたに対し、今回限り特別に使います。早く行きなさい!! 《テレポート》です!!」
「え、あっ――」

 有無を言わさず、ルシナさんによって飛ばされてしまった。

「うぉっ!? お、お前、アックか? いきなり現れて仕事の邪魔してんじゃねえ!!」
「どけどけっ! 邪魔だ!!」

 着くなりすぐに声をかけられ怒鳴られるとは、この町は相変わらずだ。
 ここにはもう来ないと思っていただけに何とも言えないが、全く変わってないようで安心する。

 倉庫の港町ラクル。
 ここが始まりだし、ここで色々あった。

 ルティの思い出の倉庫は、おそらくあの倉庫のことを指している。
 そこに行って、ルティをガチャで呼んで記憶を戻す――そう信じるしかない。
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