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第二十三章:全ての始まり

517.追跡・ザーム秘密訓練所A

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「灰と化した……何とも凄まじいな」

 まさかアヴィオルの真の姿が邪竜だったとは。
 確かにあの姿といい、容赦ない攻撃はルティには見せられないな。

「ほへ~どうだった~? アック様~」
「……あの姿には滅多にならないのか?」
「そうだよ~。だって、いちいち領域展開しないとだし、都合よく行かないことばかりだし。そもそもアック様ってば、私をちっとも呼んでくれないもん」

 精霊竜を使って戦うとなると攻撃が広範囲に及ぶからな……。
 竜人のままで戦えるのを知っても、どこで動いてもらうかは悩みどころだ。

「――って、領域は解除したのか」
「うーん。もう必要無いし、あの姿はなるべくならなりたくないしね! ふわぁぁ……」

 本人はいつもの呑気な感じに戻っているが、案外消耗が激しそうだな。
 あの精霊士が望んだ最期だとしたら、アヴィオルなりの本気だったかも。

 眠そうにしてるし、アヴィオルにジオラスを頼んで戻っててもらうか。

「アックさま~!」
「ウニャ!! アック、アック大変なのだ~!」 
「はへぇぇぇぇ」

 何やら騒々しいな。
 そういえばもう一人、ブラトの姿が見えないが……。

「みんなで慌ててどうした?」

 てっきりジオラスに何かあったかと思ったが、良かった……ミルシェに寄りかかっているな。
 慌てているのはシーニャとルティか。

「ウニャ、アック! モシャモシャ男が逃げてしまったのだ!」
「モシャ……何だって?」
「ヒゲが凄い人間だったのだ! 何もして来なかったけどいなくなってしまったのだ!!」

 そうなるとアヴィオルが領域展開している最中に逃げたな。
 精霊士と戦ってる間に逃げる真似をするとは、テミドそっくりなことをするものだ。

「ほぇぇぇ……わたしよりも凄い力をしてて、引っ張り続けられなくて~……」

 なるほど。ルティが捕まえてたけど結局逃げられたわけか。

「ルティを責めないでやってくださいます?」
「途中まではルティが拘束してたってことだろ? しかし何でまた……」
「あの髭面の男の逃げる力に、執念があっただけの話ですわ」
「す、すまん……俺がいながら……」

 目を覚ましたとはいえ、ジオラスでは無理だったろうな。
 ランク的にもブラトという男の方が上だろうし……。

 追う前にジオラスをどうにかしておくか。

「ジオラスは気にしなくても大丈夫ですよ。とにかく今は、別の場所で体を休ませた方がいい」
「……い、いや、しかし……」

 全回復しても戦いについて来れないはず。
 早いうちに避難してもらった方が行動に移せる。

「アヴィオル! ジオラスを連れて、イデアベルクに戻ってくれないか?」
「ふわぁぁぁぁ……ん~? いいよぉ。眠たくなっちゃったところだから、私もどうしようかなぁと思ってたし」
「えっ……アック、いいのか?」
「今のままではついて行くのも厳しいはずです。こちらもアヴィオルが戦えない状態になったので、一度安全な場所へ行くのがいいかと」

 多分ジオラス本人も気にしていたはず。
 ブラトを追うだけならともかく、戦闘が続くとなれば後々厳しくなる。

「――分かった、そうさせてもらう。アクセリナと、弟のことを頼む!」
「もちろんです」

 デミリスの行方も何とか探すしかない。

「アヴィオル、頼むな!」
「はいは~い! それじゃ、ルティちゃん! 気を付けて頑張ってね~!」
「あうぅぅ、グズッ……アヴィちゃん、またねぇぇぇぇぇ!」

 何で泣いてるんだか。
 ルティの精霊竜だし、呼ぼうと思えば遠方でも呼べそうなのに。

「アック、これから追うのだ?」
「……う~ん」

 急いで追わなくても、どのみちザームの禁域に逃げているはず。
 傭兵連中を巻き添えにして襲って来るタイプだろうな。

「ルティ、あの男が逃げたのはザームの方角だな?」
「はいい~」
「どうします? 追うならあたしのしもべを使うことも出来ますけれど」
「しもべ?」
「ええ、海蛆フナムシですわ。触角のあるものなら言うことを聞いてくれますから」

 見た目が人間な状態で慣れてしまったが、ミルシェはやはり水棲怪物。
 海の生物を使うのはお手の物ってやつだな。

「……この先は海底で岩石も多くありそうですし、逃げて行った男が海賊風情でしたら都合がいいですわ」
「正確な場所が分かるってことだよな?」
「それもありますけれど、ちょっとした毒も使えますので」
「じゃあ頼む」

 やはり海に近いところでの動きはミルシェが有利か。
 追跡はミルシェのしもべに任せ、おれたちは先を急ぐことにした。

 レイウルムから離れザーム禁域に進むと、魔法文字による道しるべが浮かんだ。

「――この先、【秘密訓練所A】……か」

 Aの意味が不明だが、ランクだとすればさほど気にすることでも……。

「アック様、どうされます?」

 一気に襲って来るにしても、岩だらけで戦いにくい場所ではあるが。
 魔物でも人でも何が出ても問題無いな。

「このまま進もう。いつでも戦えるようにしておいてくれ」
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