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第二十三章:全ての始まり

516.精霊士、灰に消える

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 精霊士が出した精霊は上位精霊であるフェンリル。
 フェンリルの出現でアヴィオルはすぐさま反応を示し、

「アック様。領域を作るから、覚悟してね」
「ん? あ、あぁ」

 アヴィオルは、自身の範囲を含めた高位戦闘領域を展開。
 その直後、後方に退かせたミルシェたちの姿が全く見えなくなってしまった。

 おれとアヴィオルそして精霊士ファイエットは、領域の空間に閉じ込められる形となったようだ。

「……そうだ。それでいい……精霊同士の戦いで邪魔はされたくないからな……くそ、フェンリルさえまともに動けば――」

 まるで覚悟を決めていたかのように、ファイエットは納得した表情を見せている。
 しかもどうやら呼び出した精霊を上手く動かせずにいるようだ。

「もしかしてあんた、ここで――」

 命令を受けて、ブラトとともにここにいるというのは間違い無さそうだが……。
 おそらくここで果てるつもりがあって現れたはずだ。

「……ふん。決めつけられても困るな。だが、あそこにいるブラトもそうだが、いい加減得体の知れない奴に従って生きるのに嫌気がさしただけのことだ。ヘルフラムがアレにやられたのも油断に過ぎなかった。それはそれに過ぎない」

 教えてはくれなさそうだが、やはりイルジナという女の正体については何か感じるものがあるらしい。

「アック様。今から竜化するんだけど……」
「うん?」
した姿のことはルティちゃんには内緒にしてね? 約束だよ~」
「それはいいけど……この領域にしたのもその為なのか?」
「うんうん。それと~アック様のことも容赦なく攻撃するから、自分で何とかしてね!」

 今まで精霊竜アヴィオルとしての戦いは、魔王の城の時に見たくらいだ。
 それでもはっきりとした攻撃は見てもいない。 
 普段の竜人娘としての姿や、赤い竜としての姿しか見たことが無かったのだが……。
 
「――! なっ、あぁぁぁぁ……!?」
「お、おいおいおい……まさかアヴィオルなのか?」

 おれはもちろん、ファイエットも驚きの声をあげた。
 奴の傍らにいるフェンリルは微動だにしていない。

 ファイエットは、魔狼フェンリルを出してすぐに攻撃を仕掛けようと思えば出来たはず。
 だが、上位のフェンリルと意思が伝わらず、魔狼は身動き一つ取っていない。

 そして肝心のアヴィオルだが、

「フーシュゥゥゥゥ……全てを無に、全てを灰に……我が領域を害する全てを……灰に!!」

 赤い竜の姿なのは確かだが、似て非なる三つの頭を持った怪物として現れた。
 同じ領域にいることで彼女の名前が示されているが――

「――アジ ダハーカ……?」

 まるで別の竜にでも変わってしまったくらい、姿そのものが邪悪な感じを受けている。
 それは精霊士である奴も感じているようだ。

「……まさかそんな邪竜を隠していたとはな。初めから叶う相手では無いと知っていたとはいえ、上位精霊を呼んだことでの方が現れてしまったか」

 邪竜だったことも知らなかったんだが。
 だが魔王の城のことも知っていたし、魔王もアヴィオルには手出ししてなかったからそんな感じか。

 ――うぉっ、と。
 アヴィオルの言うとおり、邪竜となったアヴィオルは後ろにいるおれに攻撃をして来た。

 刺々しい尻尾で目がけて来ているが、邪竜自身はその場から全く動いていない。
 要するに領域内ではどこにいても攻撃されるということだな。

 おれが攻撃を受けることは無いが思わず避けていたら、

「撃滅しろ……《フローズバイト》!」

 上位フェンリルを動かす奴の姿があった。
 下位精霊は問題無く命令していたが、上位となると意思はもちろん、ある程度以上の精神力が必要だ。

 奴を見ると、戦ってもいないのに全身には無数の傷が現れ始めている。
 フェンリルの氷雪攻撃は、邪竜に対し全く通じていない。

 それにもかかわらず精霊士本体である奴の肉体は、至る所から傷が出来上がっている。
 この場にルティたちがいなくて良かったと思うくらいの凄惨さだ。

「がはぁっ、はぁっはぁっはぁっ……ぐぅぅ、こんなにも何も出来ないとはな……」
「……精霊を呼べる代わりに、あんた自身は何も出来ずに終わるってことか?」
「そうだ。俺は弱い。お前のような奴以外となら精霊だけで事足りる……しかしまさかフェンリルを出したことがアダとなるとはな……」

 少しの会話の直後だった。
 邪竜からの燃え盛る炎が領域範囲内を包んだ。

 そしておそらく奴もろとも状態異常と弱体化とさせ、逃げられない炎の渦を作り出した。範囲内にいるおれにも尻尾を激しく振り回す攻撃。

 バフの恩恵が無ければ、領域の壁に何度も叩きつけられているところだった。

 そして、そう時間も経たないうちにファイエットの気配が一切感じられなくなった。
 魔狼フェンリルも一瞬で消え、奴が苦しんで立っていたところには灰だけが残されていた。

「…………」
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