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第二十三章:全ての始まり
515.精霊士ファイエット
しおりを挟むそうか、魔導団のヘルフラムはイルジナに……。
だからといっておれに責任転嫁というのもおかしな話だ。
そうなるとここでの戦いはおれが相手をしなければならないな。
まずは、
「ミルシェ! 君はルティと一緒に後退してくれ! ジオラスを頼む」
「わ、分かりましたわ!」
「えぇぇっ!?」
ルティだけ驚いているが、ここはミルシェ主導で任せておく。
「アック、シーニャはどうするのだ? 相手をすればいいのだ?」
「いや……」
「ウニャ?」
「シーニャもミルシェたちの方に後退だ。急げ!」
戦いたそうにしているが、まだその時じゃない。
となると、この場に残すのはアヴィオルだけということになるが……。
「よし、アヴィ――」
「アック様が私をこの場にとどめたのは、予感があったからだよね?」
「え?」
アヴィオルの視線の先は、テミドの弟の方では無くもう一人の男にあった。
予感も何もおれにはそんな力は無いが、精霊竜が警戒する相手ってことなのか。
「……そこの赤い髪の女。そいつは精霊竜だな?」
ルティ以外でそう言われるのはアヴィオルだけになる。
アヴィオルを精霊竜と見抜いているということは、この男は魔導士タイプか。
「だったらどうする? 精霊竜とまともに戦うつもりか? あんたは、ファイエット・エグリーだったよな?」
「そのつもりだ。ヘルフラムのかたき討ちはアック・イスティだが、間接的な相手でも十分討てる。そういうわけで、その精霊竜とやらせてもらう!」
大した自信を見せているな。
おれではなくあえて精霊竜との戦いを望むとは。
そうするとブラトの方は――近付いては来ないが、何か言いそうだな。
「そこの化けもん! てめぇだ、てめぇ! ファイエットの戦いに手を出すんじゃねぇぞ? 出したらてめぇの女どもを先に消すからな!! てめぇも黙って見とけよ?」
テミド以上に口が悪い男だ。
精霊竜とファイエットの戦いを黙って見てろというのも意外に紳士的なんだが。
「それはいいが、その代わり……お前も手を出した時点で即座に滅してやる」
「おぉ、怖ぇ」
人化しているアヴィオルがどれくらいの強さを見せるかも気になるが。
それよりもこの男だ。
精霊竜相手にどういう戦いを見せて来るのか。
「アック様~少し本気を出してもいいですか~?」
「……ん? その姿で?」
「やだなぁ~別に竜だとか人だとかで実力が変わるものじゃないんですよ~?」
「そのままでも変わらないならいいと思うけど」
「は~い」
ルティの精霊竜だけあって、性格がのんびりしすぎてるな。
それにしても、今まで精霊竜どころか竜人としての戦いを見たことが無い。
それだけに不安はあるが……。
「アヴィオル。おれはこの場で見てていいんだよな?」
「いいよ~! でも手は出さないでね」
竜人アヴィオルとしてどういう戦いになるのか興味はあるな。
ファイエットの方は――
「精霊〈フラウ〉で様子見だ。行けっ!!」
どういう戦い方をするかと思えば、すでに精霊を出していた。
見た感じはシーニャのような外見をしているが、氷で出来た全身を見る限り氷の精霊ということか。
「炎には氷~! うんうん、分かるよ~」
余裕そうにしているな……。
氷の精霊は人の姿をしながらも、手となる部位を鋭利な武器に変えてアヴィオルに襲い掛かった。派手さは無いが左右から振り回す攻撃。
それに加えて、氷の刃を見せつけながらの連続した突き刺し攻撃でアヴィオルは防戦一方だ。
お互いに属性攻撃をするのではなく、近接攻撃で弱点属性を突く感じか。
「…………」
「うわわ~っと! 言葉が無いと寂しくなるよね~!」
口数が多いアヴィオルに対し、精霊フラウは言葉も無く淡々と攻撃をし続けて来る。
精霊というより召喚に近いが……。
「アック・イスティ!! お前の精霊竜はその程度か?」
「そのままそっくり返す。一応聞くが、あんたは召喚術士か?」
「――召喚術士……違うな。俺は精霊士だ。精霊なら無駄な意思疎通など必要無い! そこの精霊竜のように、言葉を使う精霊なぞ無用だ!!」
ということは、精霊士自身はそこまで警戒する相手じゃない。
炎の反属性で氷の精霊を出したのだろうが。
その程度でアヴィオルを消すつもりなら、まるで相手にならないな。
「アック様~! この子を消しちゃっていいんだよね~?」
「好きにしていいぞ」
「は~い! それじゃあ、次の攻撃でバイバイ~!」
「…………」
やはり言葉そのものが無い精霊か。
精霊士からの命令で動いてはいるが、意思は感じられない。
「〈フラウ〉より氷雪……氷雪の上位に君臨せし魔狼〈フェンリル〉! 炎竜を消せ!!」
むっ?
精霊を瞬時に消してフェンリルを呼び出したか?
おれが魔獣化したのとはまるで異なって、外見も何もかもが違うな。
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