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第二十三章:全ての始まり
510.パレージ水門通路の異変
しおりを挟む水門を守る水棲の魔物に対し、シーニャとルティの攻撃は全く通用しなかった。
しかしそんな魔物に対し、経験豊富なミルシェがあっさり撃退。
難なく片付けたことで、おれたちは滝の奥に隠れていた水門前に着いた。
水門を開くと目の前には細長い通路。どうやら人の手で作られた通路らしく、数メートルごとに設置された松明が点々と続いていた。
そんな矢先、シーニャが何らかの気配に気付く。
通路の奥を指差しながら、
「ウニャ? アック! 通路の奥で何かがうずくまっているのだ!」
シーニャの視力が高いだけあって、おれたちでは見えない存在を見つけたらしい。
「……人か?」
「見てくるのだ! 魔物だったら倒すのだ~」
「あっ」
――という間にシーニャが走って行ってしまった。
毎度のこととはいえ行動が早すぎる。
仮に敵だとすればあっさり倒すはずなので、黙って行かせるしか無かった。
「強さを得たからといってあまり調子づかせるのは、賢いとは言えませんわね。それでもあの虎娘だからと止めもしなかったのですか?」
「そんなんじゃないけど、魔物だとしても大丈夫だろうな、と」
「お甘いことですわね。先ほどのような魔物ばかりとは限りませんのよ?」
「いや……うん」
手厳しいな。
「シーニャなら平気ですよ、きっと~! そうですよね、アック様っ?」
「そうだな」
ミルシェだけ手厳しかったが、ここはルティの甘さに救われた。
「アックアックアック~!! 早く来るのだ!」
魔物でも無かったのか?
そうかといって危ない感じでも無さそうだし、とにかく行くしか無いな。
シーニャがいる所は通路の一番奥で、しかも松明の明るさがある位置だった。どうやら魔物ではなく男の人がうずくまっているようで、しかも弱っている様子を見せている。
「シーニャ、この人は?」
「ウニャ、顔が分からないのだ。何かに怯えているみたいなのだ」
「震えてるな……」
攻撃を受けたのか、あるいは魔物と遭遇して怯えて逃げて来たのか。装備がきちんとしているということは、どこかの兵士かもしれない。
「アック様、よろしければわたしが様子を見ましょうか?」
「ルティがか?」
「こう見えてもわたし、回復魔道士だったんですよ! 忘れちゃいましたか?」
「……」
自称だったし魔法すら使えないけどな。
まぁミルシェも回復系統が使えるし、2人で見てもらうか。
「あたしも加わりますわ」
「ぜひぜひっ!」
結局回復魔法はミルシェがかけ、ルティはひたすら声をかけているだけだった。
「アックさま。回復はしましたが、衰弱が酷いですわ。一定時間経過後に睡眠状態になりますので、要点だけでも聞いておくべきかと」
「分かった」
しばらくして、意識を正常に戻したのか怯えていた人が顔を見せた。
「あ……アック……さん?」
顔を見せるなり"彼"は周りを気にしながら、恐る恐るおれの名前を呼んだ。
しかしおれのことを弱々しく呼ぶ人じゃなかったはずなんだが……。
「あ、あんた……何でこんな所にいるんだ? ジオラスですよね?」
「ほぇ? ジオラスさんって、レイウルムの盗賊の~?」
おれとルティが初めて地下都市レイウルムに行き、そこで世話になった盗賊の頭でもある。
レイウルムには回復士のアクセリナや、弟で剣士のデミリスもいたわけだが。
しかしジオラスしかいなく、しかもただの一人で怯えていたなんて驚きでしかない。
「何があったんです? 盗賊の頭のはずなのに、どうしてそんな――」
「ひ、人のように見えた……で、でも違った……。もしかしたら、あれが……人間を滅ぼす魔王……」
「――魔王!? え、まさかレイウルムが魔王に襲われたんですか?」
魔王スフィーダが滅ぼそうとしていたのはザームの人間のはず。
全てを信じたわけじゃないが、レイウルムをわざわざ壊滅させたっていうのか?
「……レイウルムの……盗賊は全部、やられた……あ、あいつらはあれを追って、この先へ……」
あいつらということは、アクセリナとデミリスってことが予想されるが。
「そいつはこの先に?」
「あ、あぁ……そいつ……は、俺たちを使って……ここを作らせた。みんな、あれの言うとおりにした……それ、が……このざまだ」
なるほど。レイウルムの連中を使ってここを作らせたわけか。
「盗賊じゃない人たちと、アクセリナやデミリスはどこへ?」
「…………ザームの……」
眠ってしまった……。
まさかレイウルムの人たちを襲うなんて。
「アック様……ど、どうしましょう」
「……」
「他に助かった人がいて、ザームに向かったってことですよね?」
「多分な」
おれとルティにとって、レイウルムへの思い入れはかなり深い。
それだけにこの状況はなかなか理解が追い付いて来ないし、魔王スフィーダが地下都市を襲ったというのも考えたくないが……。
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