506 / 577
第二十三章:全ての始まり
506.進撃開始!
しおりを挟むフィーサの言葉通り、レイウルム半島の森に行くとおれたちを待っていた魔王の姿があった。
レイウルムの森は砂地が広がる中に唯一存在する場所だ。
かつてここでルティの負傷を治したり、水棲のラーナと出会った湖があった思い出の場所でもある。
「……アック・イスティくん。その剣を見るに、整えて来たようだね」
「まぁな」
魔王はおれたちのパーティーに入ったわけではなく、あくまで目的の為に同行しているに過ぎない。だがこの男には永久強化はもちろん、フィーサが覚醒をするというきっかけを作らせた借りがある。
お互いに手助けなど無用だが、ザームの傭兵や魔術師といった純粋な人間相手には本領を発揮するはずだ。全ての人間が対象とは限らないとはいえ、こちらとしても存分にやれる。
ルティたちは後方を歩かせて周辺の景色を眺めさせている状況だ。精霊竜アヴィオルは遥か上空に待機させながら、いつでもルティの元に帰還させられる準備をさせた。
ミシックとなったフィーサは今は眠らせた状態だ。
魔王曰く、
「そろそろ始まるねぇ。僕は勝手に動くけど、アックくんは神剣とともに休んでおくといい。どうせ数に任せた者どもしか出て来ないだろうからね」
「魔法戦闘になることが無いからか?」
「人格のある魔法剣よりも意思疎通の出来る魔剣にしておく方が、君の負担が減るはずさ。覚醒したての神剣は隠し玉として使うべきだよ」
――という魔王の言葉を聞き、フィーサを眠らせている。今は魔剣ルストが使える状態だが、使うまでも無い戦闘になるはず。
森林を難なく抜けしばらく歩くと、以前砦があった場所に何層にも築かれた土塁が見えた。
砦は以前壊しているので跡形も無いが……。
「おやおや、人間じゃない奴を召喚してるようだねぇ……」
「……何が見えている?」
「人間の傭兵かと思っていたのに残念なことだよ。しばらく僕の出番は無いかな……そういうわけで、僕は手を出さない。アックくんが勝手に楽しむといい」
おれのサーチスキルが微妙な状態になっている中、魔王だけが敵を察知出来た。だがそれをはっきりと言わず、魔王はおれたちの前から姿を消しどこかにいなくなってしまった。
「ちっ、勝手な奴だ」
しかしそれが魔王との盟約である以上、奴に命令といったことは一切出来ない。ザームとの戦いはあくまでもおれたちの問題。そういう意味で余計なことをしてもらわなくても問題無い。
「いいじゃありませんか。魔王と行動するのは好きじゃありませんし、かえって邪魔でしたわ」
「まぁ、それはな……」
「それにどんな敵だろうと片付けることに変わりないのでしょう?」
「ああ」
ミルシェは魔王を疑りつつ、共闘することを拒んでいる。水棲怪物だった時も魔王という存在と交わることは無かったらしいので、そのせいもあるかもしれない。
「ウニャ! アック、シーニャが先に突っ込むのだ!!」
シーニャは絶対的な自信と強さが備わった。
それもあってか、敵がどういう存在なのか知らずに駆けだした。
どのみちすぐに始まることもあり、彼女を止めることはせずに突っ込ませた。
「ほえぇぇ!? わ、わたしも行った方がいいですか?」
「このまま全員で突っ込んだ時に敵が残ってたら戦ってもいいと思うぞ」
「は、はいいい~」
――直後、複数の巨体の獣人が目の前に姿を現した。
シーニャは手前に見える巨体には攻撃をしておらず、奥の方にいる獣人と戦闘を始めたようだ。
「見たことが無い獣人のような気がするが……」
巨体でありながらも堅固な鎧を着込み、人間が持つ武器とは比べ物にならない巨大な斧などを手にしているのが見える。
全て近接物理をして来る個体だけでなく、中には魔導士が着込むローブのような獣人も。
「アックさま。あれはトロール族ですわ」
「あんなにでかいのか……」
「動きは鈍いですから恐れる心配など無用ですわよ」
恐れてはいないが、人間の傭兵かとばかり思っていたから意表を突かれた感じだ。
「あの鎧は破壊出来るのか?」
「それでしたら――」
――と思っていたら、ルティの背中が見えた。
シーニャに張り合いつつ、ルティの破壊力が発揮しそうな戦いになりそうだ。
0
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~
木嶋隆太
ファンタジー
親友の勇者を厄災で失ったレウニスは、そのことを何十年と後悔していた。そんなある日、気づけばレウニスはタイムリープしていた。そこは親友を失う前の時間。最悪の未来を回避するために、動き始める。最弱ステータスをもらったレウニスだったが、、未来で得た知識を活用し、最速で最強へと駆け上がる。自分を馬鹿にする家を見返し、虐げてきた冒険者を返り討ちにし、最強の道をひた進む。すべては、親友を救うために。
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる