498 / 577
第二十二章:果ての王
498.ルティ&ミルシェ極める 中編
しおりを挟む「ひ、ひぃええぇぇ~!! な、何とかならないんですかぁぁ」
「落ち着いて反撃の隙を見つけるしかないわね……」
「まさかまさかですよ、こんなに強かったなんて~」
ここまでだとは思ってなかった――というと、シーニャに怒られそうだが。おれに傷をつけそれを印とした彼女の力が、どこまで跳ね上がるのかにわかには信じていなかったというのが正直なところだ。
今の時点でルティとミルシェからは、全く攻撃を受けるに至っていない状態にある。普段からおれの近くにいたシーニャは、かなりの実力を秘めているということは知っていた。
だが、強さのレベルが思っていたよりも格段に上がった感じがある。
◇ ◇
数十分前。
「――おれがシーニャになって、ルティたちに攻撃を仕掛ければいいってことで合ってます?」
色々"変身"させた割にあまり訓練にもなっていないおれに対し、リリーナさんはシーニャになれと言って来た。シーニャは確かに強いが、2対1でどこまでやれるのか。
「そのとおりです。ワータイガーである彼女は、アックさんと印を繋げたことでより最強になってしまいました。その力を一部でも見せることでルティシアの強化が近づくはずです」
「ダメージを与えることになっても?」
「はい、存分に」
「……何を企んでいるかは知りませんが、おれもシーニャを知ることが出来るので思いきりやらせてもらいますよ!」
シーニャの姿に変身した直後、変わった姿に思わず絶句した。
その姿はおれが思っていた彼女ではなく、明らかに凶悪な虎人族を表すものだった。
自由に伸ばせる鋭い爪に一回りほど大きくなった体つき。彼女が捉えている視界がかなり先の方まで見渡せること、そして圧倒的なのが秘められた魔力量だ。
おそらくこれこそが、魔王が欲していたワータイガーの真の姿なのだと納得するしかなかった。
「ウウゥゥ……! フウゥ!! 負けない……倒す……!」
変身するまでは霧に紛れたルティたちの姿が見えていない状態にあったのだが……。今のシーニャからすれば、もはや幻霧などまるで関係無くなっているようだ。
「えっ? あ、あれれ、シーニャ!? ミルシェさん、そこにいるのってシーニャですよね?」
「――えぇ……だけれどあの姿は、ウニャウニャ言ってた虎娘とはまるで異なる気がするわ……あれが真の姿のワータイガーということになるのかしらね」
「でもシーニャには違いありませんよ? シーニャと戦わないとここから出られないってことなんでしょうか……」
「おそらく……」
なるほど。
次々と現れる天敵との戦いに勝つことで強化を高め空間から出られる感じか。
彼女たちを探るに、おれが変身した者以外にも戦っていたのが分かるくらいには力が上がっているな。
シーニャとの戦闘が最終試練ってやつか。
それなら少しだけワータイガーとしての力を使わせてもらう。ミルシェとの連携でルティがどこまで強くなり、どこまで動けるようになったのかを見せてもらうとするか。
「フウウウウーーーーー!!」
特に力は込めていないが、鋭い爪を立てた状態で2人に対し振り下ろしてみた。
すると攻撃による威力が凄まじかったようで、2人とも途端にバランスを崩し地面に激しく転んでいた。
「ひえええ!! い、今の風は!?」
「ワータイガーの振り下ろし攻撃。それだけであたしたちをいとも簡単に……」
攻撃が一切命中していないにもかかわらず、振り下ろしの動作だけでまるで近づくことが出来ないようだ。これがワータイガーとしてのシーニャの力ということになるわけか。
「ルティ。振り下ろしが確かに脅威だけれど、それ以上はして来ないように見えるわ。あなたは次の動きのタイミングを見定めながら後ろに。拳に力を溜めながら行って! 連携の合図は――」
「はいっ! お待ちしていますっ!」
2人ともシーニャの動き自体は見えているようで、風圧への耐性はすでにつけたようだ。そして勝負の付け所を決めたような気配を漂わせ始めた。
シーニャの姿で本気を出してしまうと、おそらくルティたちはただじゃすまない状態になる。訓練である以上そこまでするつもりは無いが、今の状態で2人の攻撃を受けるわけにはいかない。
そうなるとやることは一つ。
ワータイガーに備わっている闇のオーラを出して、攻撃を"無効化"すればいいだけ。
今のシーニャの秘められし強さが圧倒的過ぎるし、それだけでも十分な結果になるのは明白だ。
「……全ての攻撃、シーニャに効かない。何をしても効かない……!」
無意識化で出ているシーニャの言葉だが、迷いの無い言葉のように聞こえる。
こんな圧倒的なシーニャに対し、果たして2人の連携から何が繰り出されるのか。
正面に見えていた2人のうち、ルティの姿が見当たらない。
「フフフ。真のワータイガーといえども、死角からの粉砕攻撃はどうかしらね? いいわよ、ルティ!」
「ウウゥ!」
ミルシェから感じる気配は水と氷の属性だ。属性そのものを自分の手段とせず、背後に回ったルティに付与したことくらい把握済み。
だがそれを知りつつ、どれくらいの威力があるのか喰らってみることにする。今のシーニャの強さなら、ルティたちのいかなる強力な攻撃も効かないはずだ。
「隙ありーー!!」
――背後からボウッという轟音とともに、ルティの拳圧が流れて来る。
拳は水属性によって滑らかな動きを得たようで、闇のオーラにかき消されることなく向かって来ている。氷属性は拳から放たれ、一本ずつ独立した尖った刃と化して頭上で静止しているようだ。
つまりルティの拳が命中したと同時に、氷の刃が上から降り注いでくるという連携技で間違いないな。
ともかくどんなものか受けてみるか。
0
お気に入りに追加
564
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。
克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる