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第二十二章:果ての王
494.ルティシアの強化特訓 5
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これは――どういう状況なんだろうか。
「アック・イスティさん、お砂糖は1個で足りてますか?」
「まぁ……」
「ネローマ様。もしかしてお砂糖が足りないんじゃないでしょうか?」
「でしたら、リリーナ。奥からお砂糖をお持ちして」
ネーヴェル村へ案内されてしばらく経った。
すぐにルティたちのところに案内されるものとばかり思っていたが……。
エルフの女性とハーフエルフの女性に囲まれながら、何故かおれはお菓子とお茶をご馳走になっている。こんなことをしている場合じゃ無いのに。
「そうじゃなくて!! 砂糖とかそんなことより、ここで無駄な時間を過ごす余裕なんて――」
「……無駄ですか? 全能を得たあなた様が何を焦るのですか? それと、ルティシアを信じて待つことも出来ないほど余裕もなく怯えているのですか?」
ネーヴェル村の長である彼女は凍るような視線をおれに向け、テーブルとカップ全てを一気に凍りつかせた。攻撃的な感じじゃないものの、おれの態度に腹を立てた感じか。
「怯えてなんていませんよ。そうじゃなく、イデアベルクに余裕の時間があるとでもお思いですか?」
「それなら心配は無用です。ここは幻霧の村。時間の流れはかなり緩やかなのです。外に出たとしても、それほど経過しているわけでは無いのです」
そうだったのか?
それを教えてくれれば外のことで焦ることも無かったな。
「ルティの特訓もそういう空間ですか?」
「はい。ですので、アック・イスティ様がご心配することは何ひとつ無いのです」
もしかして、前に聞いたことがあるエンシェントエリアというやつだろうか。そこでなら時間の流れを気にすることも無く、年齢を重ねることも無いらしいが……。
「心配なんて何ひとつ無いんですよ~! アックさん、理解しましたか? ネローマ様も落ち着いて~!」
律儀に砂糖を取りに行ってたのか。
「理解はしましたよ。それで……、ルティは強くなるんですか? 何故かミルシェも付き合ってるみたいですが……」
ルティだけなら分かるが、ミルシェと同時に鍛えているように見えた。あの2人はお互いに信頼しているし、連携も上手くいきそうではあるからな。
「ミルシェ様はルティシアと相性が良いみたいですので、一緒に特訓して頂いています。ルティシアも彼女がいることで張り切って特訓出来るみたいですし、調子が出るみたいですので」
最初はそうじゃなかったが、すっかりパートナーになってしまったわけか。
「それはいいんですが、おれが手伝えることは無いんですか?」
「ルティシアはアック・イスティ様がどこにいるかも聞かされていません。ですので、ルティシアの特訓が終わるまでは会うべきでは無いかと」
「ネローマ様の言うとおり、それがいいと思うんだ~! それともルティちゃんに会いたい~?」
姿を見せてやれば安心するはずなのに、それを止められるとはな。それならせめて特訓に付き合ってやりたいところだが。
「壁だと思って攻撃されてましたんで、どうせなら最後まで特訓に付き合ってやりたいなと」
「……なるほど。では次の段階で登場してもらうとしましょうか」
「次の?」
「そろそろ壁を破壊出来そうなので、次は実戦訓練になります。その際、魔剣はお返しいたします。存分に力をお出し頂ければ、強さを得ることでしょう」
強さを得るのは2人ということか。
「つまり、おれを仮想の敵として見せる感じですか?」
「ええ。アック・イスティ様のお強さでしたら、とてつもなくおそろしい魔物に見せることが可能ですから。その姿で彼女たちに攻撃を仕掛けて頂きたいのです」
「そうそう。それをしてくれたら、アックさんにはご褒美をしちゃうよ~!」
「ルティたちが強くなったご褒美で何かくれるんです?」
そう言うとエルフの長であるネローマは、手の平から何かを現した。
「……見えますか? アック・イスティ様」
「いや、何も……」
「これは幻霧の村を覆っている霧そのものです。この霧も永久強化にお使い頂いて構いません」
永久強化のことも知っていたか。魔王が絡んでいるのも承知しているってことだな。
「イデアベルクを守る強化に過ぎないのに、……いいんですか?」
「他の永久強化と違い、幻霧は役目を終えれば自然に消滅いたします。もちろんその役目はお分かりでしょう?」
ザームからの脅威が去るまで、か。
「そういうことだったら喜んで特訓に付き合いますよ。ルティの為にもなるし、イデアベルクの為にもなるので」
「それではリリーナ。アック・イスティ様を次元空間へ」
「は~い! それじゃあ、アックさ~ん。私について来てくださいね~!」
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