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第二十二章:果ての王
492.ルティシアの強化特訓 3
しおりを挟むいくつかの永久強化をスフィーダから教わり、魔力をかなり消耗した。後は強化を展開するだけとなったが、ひとまずイデアベルクに戻って来た。スフィーダは森林区が落ち着くとかでそこで別れた。
森林区には不機嫌なサンフィアの姿があったが、特に何も言われなかったので部屋に戻ることに。
「ふぅ、ただいま」
もしかしたらルティが戻って来ているかもしれない――そう思って部屋に入ると、
「ウニャーー!! アック、大変なのだ大変なのだ!」
「イスティさま! やばいなの!!」
ガァン、とした衝撃とモフッとした感触が体当たりして来た。
何やら慌てふためいているようだが、おれがいない間にシーニャとフィーサに何かあったか?
ルティの姿は無いようだが……。
「どうした? 何が大変なんだ?」
「あの女が消えたなの!! 知らないうちに消えてしまったなの!」
「あの女……って?」
「ウニャッ! ミルシェに決まっているのだ!! 消えたのだ。消えていなくなったのだ!」
どうやらこの部屋に珍しく3人でいてくつろいでいたみたいだな。といっても、ミルシェは話に加わらずに黙って待っていたかもしれないが。
しかしこれだけ騒ぐということは、一緒に部屋にいたのは間違いない。
「それで、ミルシェを探し回ったのか?」
「探してないなの」
「シーニャ、部屋から出てないのだ」
目の前からいなくなって動揺しただけで探しにも行って無いのか。シーニャとフィーサは誰かを頼ることもしないし、仕方ないかもだけど……。
もしイデアベルクにいるとしたら、どこに行くくらいは伝えるはず。
そうなると思いつくのは、ルティ絡みか。
「アックくん、ここに戻って来ているか?」
――この声はウルティモか。
ウルティモが帰って来ているということは、何か知っていそうだな。
「あぁ、今戻って来た。部屋の中にいるよ」
「おぉ! では今すぐ外に出て来てくれぬか?」
「ここにはシーニャとフィーサもいるけど、おれだけか?」
ルティと行動を共にしていたというわけじゃないのか?
しかしウルティモにしては焦りを感じさせている気がするな。
「うむ。今はアックくんだけで構わぬ」
何かありそうだ。
おれだけってことだろうし、2人は置いて行くしか無いな。
「シーニャとフィーサはここで待っててくれ。ウルティモがおれに用があるらしいから」
「分かったのだ」
「イデアベルクから出なければ、部屋の中じゃなくてもいいなの?」
「それでいいよ」
部屋を出ると、ウルティモだけ立っていた。表情からは何とも言えないが、焦りがあるように見える。
「アックくん。すまぬが、急ぎわれと転移してくれぬか?」
「転移? どこに?」
ルティともミルシェとも違うのか?
「行けば分かる。われの連続転移も限界があるのだよ。故に、アックくんを連れて行くとしばらく使えぬ。帰りはアックくんの転移で帰って来てもらいたい」
連続ということは、おれの前に誰かをどこかに連れて行ったってことだな。
「それはいいけど……どこに――」
「では行く!」
珍しく相当焦っているようで有無を言わさずに、場所が切り替わっていた。
「……ここは?」
どこかに着いたようだが、辺り一面真っ白でどこに何があるのか全く見えない。
「すまぬがわれは疲れた……後はアックくんだけで進んでもらいたい。この先にミルシェ殿がいるはずである。では!」
「ミルシェ!? ミルシェがここにいるのか? って――!」
よほど離れたい場所なのか、それとも単に帰って休みたいだけなのか。ウルティモはさっさと帰ってしまった。近くに敵もしくは獣の気配を一切感じなく、見事に何も見えない。
霧が濃くて前も後ろも何も確認出来ないが、脅威となるものは無い感じだ。
このままではどうしようもないし、風で吹き飛ばすか。
「おりゃぁっ!」
フィーサを連れて来ていないので、ここでもやはり魔剣ルストで一振り。本来の使い方とは異なるが、魔力を使わずにただ剣を振ってみた。
思いのほか威力を発揮してくれたようで、何も見えなかった景色が一瞬で晴れた。
するとすぐに声が聞こえて来た。
「アックさぁ~ん、魔剣を使って霧を勝手に消すなんて困りますよ~! 今すぐ魔剣を置いて言うことを聞いてくださぁい~」
どこかで聞いた声だが姿が見えない。声自体ルティの声に似てもいるが……。
「悪いが魔剣はおれの武器だ。その辺に置くわけにはいかないな」
「それは困りますねぇ……武器を手にするなら、攻撃させて頂きますからね?」
穏やかじゃないな。
「やれるものならな! こっちも反撃させてもらう」
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