上 下
492 / 577
第二十二章:果ての王

492.ルティシアの強化特訓 3

しおりを挟む

 いくつかの永久強化をスフィーダから教わり、魔力をかなり消耗した。後は強化を展開するだけとなったが、ひとまずイデアベルクに戻って来た。スフィーダは森林区が落ち着くとかでそこで別れた。

 森林区には不機嫌なサンフィアの姿があったが、特に何も言われなかったので部屋に戻ることに。

「ふぅ、ただいま」

 もしかしたらルティが戻って来ているかもしれない――そう思って部屋に入ると、

「ウニャーー!! アック、大変なのだ大変なのだ!」
「イスティさま! やばいなの!!」 

 ガァン、とした衝撃とモフッとした感触が体当たりして来た。
 何やら慌てふためいているようだが、おれがいない間にシーニャとフィーサに何かあったか?

 ルティの姿は無いようだが……。

「どうした? 何が大変なんだ?」
「あの女が消えたなの!! 知らないうちに消えてしまったなの!」
「あの女……って?」
「ウニャッ! ミルシェに決まっているのだ!! 消えたのだ。消えていなくなったのだ!」

 どうやらこの部屋に珍しく3人でいてくつろいでいたみたいだな。といっても、ミルシェは話に加わらずに黙って待っていたかもしれないが。

 しかしこれだけ騒ぐということは、一緒に部屋にいたのは間違いない。

「それで、ミルシェを探し回ったのか?」
「探してないなの」
「シーニャ、部屋から出てないのだ」

 目の前からいなくなって動揺しただけで探しにも行って無いのか。シーニャとフィーサは誰かを頼ることもしないし、仕方ないかもだけど……。

 もしイデアベルクにいるとしたら、どこに行くくらいは伝えるはず。
 そうなると思いつくのは、ルティ絡みか。

「アックくん、ここに戻って来ているか?」

 ――この声はウルティモか。
 ウルティモが帰って来ているということは、何か知っていそうだな。

「あぁ、今戻って来た。部屋の中にいるよ」
「おぉ! では今すぐ外に出て来てくれぬか?」
「ここにはシーニャとフィーサもいるけど、おれだけか?」

 ルティと行動を共にしていたというわけじゃないのか?
 しかしウルティモにしては焦りを感じさせている気がするな。

「うむ。今はアックくんだけで構わぬ」

 何かありそうだ。
 おれだけってことだろうし、2人は置いて行くしか無いな。

「シーニャとフィーサはここで待っててくれ。ウルティモがおれに用があるらしいから」
「分かったのだ」
「イデアベルクから出なければ、部屋の中じゃなくてもいいなの?」
「それでいいよ」 

 部屋を出ると、ウルティモだけ立っていた。表情からは何とも言えないが、焦りがあるように見える。
  
「アックくん。すまぬが、急ぎわれと転移してくれぬか?」
「転移? どこに?」

 ルティともミルシェとも違うのか?

「行けば分かる。われの連続転移も限界があるのだよ。故に、アックくんを連れて行くとしばらく使えぬ。帰りはアックくんの転移で帰って来てもらいたい」

 連続ということは、おれの前に誰かをどこかに連れて行ったってことだな。

「それはいいけど……どこに――」
「では行く!」

 珍しく相当焦っているようで有無を言わさずに、場所が切り替わっていた。

「……ここは?」

 どこかに着いたようだが、辺り一面真っ白でどこに何があるのか全く見えない。

「すまぬがわれは疲れた……後はアックくんだけで進んでもらいたい。この先にミルシェ殿がいるはずである。では!」
「ミルシェ!? ミルシェがここにいるのか? って――!」

 よほど離れたい場所なのか、それとも単に帰って休みたいだけなのか。ウルティモはさっさと帰ってしまった。近くに敵もしくは獣の気配を一切感じなく、見事に何も見えない。

 霧が濃くて前も後ろも何も確認出来ないが、脅威となるものは無い感じだ。
 このままではどうしようもないし、風で吹き飛ばすか。

「おりゃぁっ!」

 フィーサを連れて来ていないので、ここでもやはり魔剣ルストで一振り。本来の使い方とは異なるが、魔力を使わずにただ剣を振ってみた。

 思いのほか威力を発揮してくれたようで、何も見えなかった景色が一瞬で晴れた。
 するとすぐに声が聞こえて来た。

「アックさぁ~ん、魔剣を使って霧を勝手に消すなんて困りますよ~! 今すぐ魔剣を置いて言うことを聞いてくださぁい~」

 どこかで聞いた声だが姿が見えない。声自体ルティの声に似てもいるが……。

「悪いが魔剣はおれの武器だ。その辺に置くわけにはいかないな」
「それは困りますねぇ……武器を手にするなら、攻撃させて頂きますからね?」

 穏やかじゃないな。

「やれるものならな! こっちも反撃させてもらう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~

ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて… たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。 なろう、カクヨムにも投稿しています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。 その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。 そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。 神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。 同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。 シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。 彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。 またも冒険者になるか?それとも・・・ 拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。 「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」 いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。 そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。 しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。 ※カクヨムでも掲載しています。 ※R18は保険です。多分

処理中です...