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第二十二章:果ての王

484.魔王と帰還そして、

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「早く水属性を!」
「来て早々、すでに始まっていたとはね……《アクアウォール》でどうかな?」
「魔王のあんたがいるとは想定してなかったかもな。とにかくあんたは森林区にいてくれ!」
「エルフの森ならたやすいことだよ」

 居住区、森林区、ゲート、ヒューノスト区域、そのどれもに攻撃の痕跡があった。そして今、森林区の一部が延焼中だ。

 魔王スフィーダの魔力を借りて、おれたちはルティ抜きでイデアベルクに戻って来た。だがイデアベルクに広がっていた光景は、敵の遠隔魔法であちこち攻められていたものだった。

 ここにはサンフィアと若いエルフ、それと白狼騎士団くらいしかいない。要するに主力を欠いたところを見事に突かれた形だった。

「我の風では火は消すことが出来なかった。アック、貴様! 帰って来るのがもう少し遅かったら――」
「分かってる。サンフィアはこのまま彼と森林区を防げ! おれはギルド街区に向かう」
「何? 彼……彼だと? こいつは確か――」

 サンフィアはスフィーダとはあまり面識が無いはず。いずれ分かるにしても今は味方で良かったと思うしかない。

 ミルシェとフィーサは居住区に向かってもらった。
 そして、

「アック! シーニャ、攻撃系の魔法も使えるようになっているのだ! これもアックの印のおかげ。ウニャッ」
「それは何よりだぞ。でも今はギルド街区にいるシャトンたちの元に急げ!」
「分かったのだ!」

 ギルド街区に着くと、やはり海崖寄りの建物を中心に何らかの攻撃を受けた痕が見える。

「ウニャ! アック、ここのニオイが変なのだ。鼻が曲がるのだ」
「…………腐食系だな」

 それぞれの区ごとに属性を変えて攻撃を飛ばして来たようだが、ギルド街区には釣りギルドがあるということを知ってのことか、腐食系の魔法がこびりついている。

「アック~! 戻って来たニャ? ここはまぁまぁ大変だったニャ~」

 ギルド街区には釣りギルドの他、それぞれの建物に職人がいてそれらを学ぶ人らが足を運んでいたが……。

 今はシャトン以外、ひと気がまるで無い状態だ。

「被害は?」
「魚が腐ってしまっただけニャ~。他のみんなにはこぶし亭の守りを固めて貰ってたニャ」
「……ルティのこぶし亭を? 何でまた……」
「何をするにしても美味しい料理が基本ニャ。何だかんだでイデアベルクの食事は、こぶし亭で持っているといっても間違いじゃないニャ!」

 そうだったのか……ルティ本人がいなくても繁盛してるなとは思っていたが。ネコ店員たちの癒し効果は半端無いというわけか。

 料理のバフ効果はさすがにおれ限定だと思われるが。

「ウウウ~ウニャッ!!」
「――! シーニャ、その属性は光じゃないのか?」
「そうなのだ。シーニャ、今まで闇しか使えなかったのだ。回復はもう使えない。でもアックと刻んだら同じのが使えるようになったのだ」

 シーニャに軽い傷をつけられ、その時に牙による印をつけられた。今まではおれの力を少しだけ使えるといった感じだったのが、今のシーニャはおれが有する力の大半を使えるようになっている。

 おれの不得意属性は光、聖属性で回復魔法は使えない。以前のシーニャは回復が使えたが、今のおれと全く同じ強さを得られているようで回復は使えないようだ。

 ルティとは火と炎で共有しているが……シーニャはほとんど使える感じだろうか。

「ところでアック。マスタールティはどこにいるニャ?」
「マス……あぁ、釣りマスターだったな。ルティは……別行動中だ。多分ウルティモたちと一緒だと思うぞ。何かルティに用でも?」
「そうじゃないニャ。腐った魚はいいとして、備蓄の魚がそろそろ満杯になるニャ。あの子ならたくさん食べてくれるから助かっているニャ!」

 ルティはあまり大食いじゃないと思っていたけど、実は食べまくっていたのか。

「そういや若いエルフたちはあまり魚を食べないんだっけか?」
「エルフは木の実とか、果物とかしか食べないニャ。釣り上げるだけしてちっともニャ~」

 ――よし、と。
 シーニャの光属性もあって早く浄化出来たな。

「シャトン。ここは任せていいかな?」
「ありがとニャ~! マスターが戻って来たら、焼きまくって食べてくれニャ~」
「分かったよ」

 ルティシア……今どこにいるんだろうな。
 ウルティモたちといたとしても、どこかで泣いて無きゃいいけど。
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