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第二十二章:果ての王
480.果ての王の答え
しおりを挟む動きを封じられ、頭ごと喰われる――そう覚悟していた。
だが感じたのは苦痛ではなく、切り傷をつけられた頬を少しだけ噛まれたような舐められたような、そんな感触を受けただけだった。
「……んん?」
「アック、シーニャのになった。これでドワーフだけのアックじゃないのだ。ウニャ」
ほんのり頬に熱さを感じただけで、特に何か変わったわけでは無さそうだな。むしろ戦う前よりも魔力や力が上がった気さえする。
「シ、シーニャ? おれを喰うんじゃなかったのか?」
「シーニャのアックに戻したのだ。ドワーフだけのアック、嫌い。でも今は嫌いじゃないのだ」
「ドワーフ――ルティのことか。ルティだけの……あー……」
「ウニャ。アックと戦って傷をつけた。シーニャの印、アックに刻んだ。これで本当にシーニャのアック」
やはりルティとのことを気にしていたわけか。それで魔王側についてバフをもらっておれに傷を……。なるほど、敵になったわけじゃなかったか。
「イスティさまっ! 大丈夫だったなの?」
「あぁ、大したことない。というより、何てことなかったよ」
「シーニャがイスティさまに牙を向けるなんて、わらわは気が気じゃなかったなの。でもでも、何も無くて安心なの!」
おれにデバフをかけ、シーニャにバフをかける……そうまでしないとおれを傷をつけることは出来なかった。シーニャにとっては覚悟でもあったと思うが、ルティとのことが関係していたとはな。
そういやミルシェは――
「――あなたの答えを聞かせて頂くわ。回りくどいことをして、結局魔王は何をしたかったのかをね!」
腕を鋭利な刃に変えてスフィーダに詰め寄っているな。
ミルシェの実力ではすぐに返されそうだが……。
「…………はははっ。別にどうもしないさ。ワータイガーの始祖とは何かの約束をしたわけでも無かったからね。ただ、アック・イスティに印をつけたいと頼まれたら断るわけにはいかないだろう?」
シーニャの強い意志を聞いてそれに応えただけか。そうなるとやはり当初聞いていたとおり、話し合いで事が済むということになりそうだな。
いや、その前にまだ片付いてないことがあるような気が……。
「魔王、いやスフィーダ! お前はおれたちを滅ぼそうとしていたわけじゃなかったんだろ?」
「僕が滅ぼしたかったのは人間さ。それも強い力を持って徒党を組もうとした連中をね」
「おれではなかったってことか?」
おれ以外の仲間は人間じゃないし、ルティも半分はドワーフだしな。
「アックくんの力は神の力を有しているからね。かろうじて人間という存在を保っているに過ぎない。だが、あの連中は滅ぼさなければならない。子孫、末裔……それら全てが王国を滅ぼした元凶だ!」
バラルディア王国が滅んだ原因が人間にあるというのを聞いてはいたが、それが真の敵って奴か。そうなるとその敵がいるのは間違いなく――
「ザーム共和国にいるってことか」
「そういうことだ。もっとも、君が勇者を滅ぼしてくれたおかげで僕が出て行くことも無くなってしまったがね。まだ勇者なる存在が残っていれば非常に厄介だっただろうな」
「お前は魔王なんだろ? 勇者だろうがなんだろうが、すぐに滅ぼせるんじゃないのか?」
とはいえ、おれがウルティモに初めて会った時の魔王は、まだそこまで力を取り戻したわけじゃなかったらしい。一度王国が滅んだ時に長い眠りについていたようだし。
「君も知っての通り、僕の力は闇を持つ種族を多く従えていることで増大する。しかし半分を君に取られてしまった。魔王と言っても、今や脅威と感じる者などいないのさ」
その割にはテラーを使ったり、過去の兵士を連れて来たりして好き勝手に力を使っていたと思うが。
「……で、魔王の望みは人間を滅ぼすだったか?」
「そのとおり。しかしその辺の人間のことじゃない。君も分かっているだろう?」
「普通の人間を滅ぼしてもここが戻るわけじゃないってわけか」
ダークエルフたちを従えても他が揃うわけじゃないし、王国再建は難しいだろうな。
「戻りはしない。だが、ここではない違う国が滅亡から見事によみがえった。そして異種族国家として出来上がりつつあることも知っている。そっちに期待を寄せることは出来るだろう?」
「その国ってのはつまり――」
「イデアベルク。君の国がそうなってくれることに期待している。アック・イスティ」
まさか魔王に期待されるとは。
「魔王に言われるまでも無い。しかしイデアベルクもザーム共和国に狙われているが?」
「これまで僕と遊んでくれたせめてもの礼に僕も力を貸そう。どうだ、悪くないだろう?」
――なるほど。
魔王の力も得た上でザーム共和国を滅ぼせってことか。
おれたちを散々騙して試して来たのは気に食わないが、断る理由も無い。
「……裏切ったら魔王でも消す。それでいいんだよな?」
「もちろんだよ! 君に消されたらそれまでさ!」
「よし。それなら、今すぐルティを解放してやれ! ルティに何をしようとしていたかまでは聞かないが、もういいだろう?」
「そのことなんだけど、残念ながらあの子はとっくに僕の支配下から離れている」
この期に及んで……かと思っていたら、近くにいたはずのルティの姿がどこにもない。
全く、次から次へとやってくれるもんだ……。
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