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第二十二章:果ての王

476.シーニャと魔王 2

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 分かっていたこととはいえ戦いづらい……。

「――くっ、《ハイドロショット》!」

 魔王に操られているとはいえ、姿はミルシェとフィーサそのものだ。意識しなくても思いきりやることが出来ない。

「フフフフ……人間ごとき弱者が水属性、それも弱体含みの攻撃だなんてやるじゃない! それならこれでいかがかしら?」

 ミルシェの攻撃は水属性のみだが全てが強力な威力となっている。それに加えてフィーサの強さが厄介だ。魔法剣としての威力はもちろん、自在に形を変えて繰り出して来る剣技が面倒すぎる。

 さらに厄介なのが、おれの強化が全てはがされていることだ。通常時は神の加護や精霊と霊獣の加護、ルティから受けた永久的バフにより、おれはダメージを受けない体となっていた。

 しかし今はそれが消えた状態だ。

「人間のアックくん。人間として状態を楽しんでいるかな? もっとも、はがしたのはダメージ吸収と無効化だけだから、今のままでも彼女たち程度は軽く消せるはずだよ」

 ちっ、うるさい奴め。出来ないと分かっててそういうことを。

「最弱と言いながら攻撃力をそのままにしたのはそういうことか?」
「よく分かってるじゃないか。でも本来の人間は君のように無敵状態では無いんだよ。ここにいるドワーフの薬だけじゃなく神族まで得た君には、初心も忘れたようだけどね」
「……お前が見たいのは、おれがダメージを受ける前に彼女たちを消せるかどうかなんだろ? 違うか?」

 今の状況は玉座にふんぞり返るスフィーダによって、操られたミルシェとフィーサがおれに攻撃して来ていることだ。ルティとシーニャは意識が閉ざされていて動く気配が無い。

 操られている2人はおれの仲間になる前の記憶に戻っている。つまりおれを知らない状態にあって、一切の遠慮が感じられない。おれがダメージを受けても何とも思わない状態にある。

 今のところどちらも本気で来ていないので、簡単に受け流してはいるが……。

「いいや、どちらでもない。僕の望みは最弱だろうとそうでなかろうと、人間を滅ぼすことにある。残念だけど、アックくんはどれでも無い」

 ウルティモが言っていたが、おれを人間として認めないとか言うつもりか?

「魔物、ドワーフ、エルフ、ゴブリン……欲しいのは人間を超越してしまっている存在さ! だが人間である弱い部分がまだ君の中に残っている。そんな君を一瞬で跡形もなく木っ端微塵に消し去ってやりたい」 

 魔王の本音が出たな。

「それなら今すぐ消せよ! 魔王のあんたなら簡単だろ?」
「――と思っていたんだけど、勇者を消し去ってくれた君を気に入ってしまったんだ! ずっと君を見ていたが、実に面白い存在となった……だから確かめたくなってね」

 魔王が話してる間はミルシェたちの動きを止めるとか、やりたい放題だな。

「おい。彼女たちを人形のように扱うのは止せ!」
「君と話をするのに邪魔されたくないものでね」

 それにしても、Sランクの勇者なんか魔王にとっては何てことは無い存在だったはず。それなのに勇者ではなくおれに興味を持って、ずっと追いかけて来たってことか。

「おれじゃなくて、勇者と賢者。それと聖女との戦いの方が面白かったんじゃないのか?」

 3人とも性格が悪すぎたが、あの時点でかなり強かったと記憶している。おれが覚醒ガチャをしなければ勝てないままだった。

「そうと言いたいところだけど……君がラクルにいた頃の僕は、まだ深い眠りから目覚めたばかりでね。その頃に襲われていたら勇者には勝てなかったと思うよ。多分」

 一番初めにスフィーダに会ったのは、グライスエンドに着いた時だな。その頃はまだそこまで脅威と感じなかったが……。

「勇者の話はどうでもいい。あんたは結局何が目的だ?」

 回りくどいことで誤魔化すつもりらしいが、こいつの性格の悪さも大概だろ。

「圧倒的な強さを持つ存在のアック・イスティ。君だけの力で、水棲怪物と神が創った剣を破壊しろ! それが出来ないなら――相当なダメージを負ってもらう。もっとも、最弱な人間ごとき君がそれを選ぶとは思えないがね」

 こいつにとっておれも彼女たちもどうでもいいってわけか。

「もし耐えたらどうするんだ?」

 強化がはがされてる以上どうなるか。だが彼女たちを消すことなど出来るはずが無い。

「……どちらにせよ、僕の答えが変わることは無い。答えは君次第だよ、アック・イスティ」
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