474 / 577
第二十二章:果ての王
474.劣勢の勝機
しおりを挟むウルティモの言葉通り、精霊竜が広間に侵入すると急に戦闘が開始された。おれとルティも戦闘に参加しようと敵に近付くが、
「わわわっ!? だ、駄目みたいです~。どうしましょう?」
「癪だけどこのまま抜け切るしか無いな」
「はぇぇ……大丈夫なんでしょうか? ウルティモさんとアヴィちゃん」
「……分からないな」
離れた所から支援するという手もあるが、見えない障壁が邪魔して一定の距離以上近付くことが出来ない。おそらくこれが魔王と種族ごとの盟約によるものに違いない。
ウルティモは時空を操る時空魔道士。そして精霊竜は属性に特化した竜だ。対するシャドウドラゴンは、闇属性のみの攻撃を繰り出している。
おれが戦ったシャドウドラゴンとは性質が異なるようで、やたらとブレス攻撃を連発して来るようだ。
「――むっ? アックくん、何をしている! ルティシアさんとともに早く先に進みたまえ」
ウルティモはブレス攻撃を避け切っているが、精霊竜はまともに受けていて苦戦しているように見える。特にアヴィオルは火炎竜でもあるので、相反しない属性相手には厳しそう。
「あんたの実力は分かってるつもりだ。だが、精霊竜は分が悪いんじゃないのか? 何かおれに出来ることは無いのか?」
「そ、そうですよぉぉ! わたしも何かお手伝いをしたいですっ!! アヴィちゃんが大変そうで~」
おれたちの声を聞きつつ、一切干渉させるつもりは無さそうだ。ウルティモが一瞬こちらに顔を向けるも、敵は間髪入れずに漆黒のブレスを連続して吐き出している。
「…………く!」
本当に大丈夫なのか?
敵はシャドウドラゴン一体とはいえ、戦闘出来るのがウルティモとアヴィオル率いる精霊竜だけだと厳しすぎるだろ。
「どどどど、どうしましょどうしましょ!! アック様ぁぁ」
「――って言われても制限下のバトルフィールドっぽいし、強制的に参加するわけにも……」
「わたしの拳で破壊すれば入れそうですよ! やっちゃっていいですかっ?」
「いや、待て!」
そもそも精霊竜ならともかく、何でウルティモが含まれているのか。
そう思っていたら、障壁を隔てた所で何かを言っている。
「……アックくん、案ずることは無い。劣勢の中にも勝機は必ずあるのだよ。それと――」
言っている間に、精霊竜アヴィオルの巨躯が床に叩きつけられている。
「あぁっ! アヴィちゃんが痛そうです~!! やっぱり障壁を破壊しましょう!」
「だから待てっての!」
見えているのに参加出来ないというのは、確かにもどかしい。しかし先に進めることが出来る以上は彼らを信じて進むしか……。
ウルティモは連続ブレス攻撃を受ける寸前で、バックステップして避けている。少なくともブレス攻撃を浴びることは無さそうだ。まともに受けているのは物理攻撃だけのように見える。
攻撃軌道をわずかにずらしつつ弱点を狙っているようにも……。
しかし武器を持たないウルティモが、どうやってとどめを刺せるのか。
「アックくん。われは時空魔道士であるが、かつてはこちら側の存在だったのだよ。だからこそ、魔王による盟約が生じているわけなのだが……」
グライスエンドにいたウルティモは妙な技を使っていて、初めだけ苦戦した。他の魔導士たちはともかく、町の入口にはドラゴンがいたのも妙だった。
そして途中の教会にスフィーダがいたがそういう繋がりか。
「……あんたは魔王に仕えていたってことか?」
「えぇっ!? ウルティモさんが?」
時空を操ることが出来るのはウルティモしかいない。そのうえ、この場所を知っていたのも彼だけ。おれに負けてあっさりと味方になったのも……。
「うむ。そうとも言える。魔王の目覚めを待つ前にわれは君に屈した。今はその償いのようなものを終わらせる必要があるのだよ」
途方も無い衝撃音が聞こえて来る。遠目でしか見えないが、アヴィオルと精霊竜に勝ち目が無さそうな感じだ。
そうなると未だ見せていない強さがあるのか。話を聞く限り、ウルティモ自身がシャドウドラゴンを倒す必要がありそうだ。
「……話し合いをするんじゃなかったのか?」
「盟約は別ということ。故に、君がこの戦闘に参加することは否。急ぎ、先へと進まれよ!」
おれたちには見せられない技でも繰り出すつもりがあるってことか。ルティが拳を繰り出しそうだし、先に進むしか無いな。
「分かった。死ぬなよ、ウルティモ!」
「アックくんとの盟約もあるし死ぬことは無い。無論、ルティシアさんの創作料理も制覇しておらぬゆえ。では行きたまえ!」
何を言っても無駄ってことか。魔王の元に近づいているようだし、進むしかない。
「アヴィちゃんがアヴィちゃんが~……ほえっ!? あああぁ、アック様!? いきなり抱え出してどう――」
「走るぞ。落ちるなよ、ルティ」
「ひぃえええぇぇぇ!!」
0
お気に入りに追加
569
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる