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第二十二章:果ての王
471.闇の予感
しおりを挟むエルフの長ニーヴェアはウルティモの言うとおりに動き、ダークエルフに近付いた。その途端、結界らしき障壁が急に晴れた。
「――ぬ! そこに見えるのは人間アック! 何故我が方の領域にいる!?」
直後、ダークエルフのリーダーらしき男がおれに気付き、驚きの声を上げた。
「ふむ、そういうことであったか」
「何か分かったのか?」
この場にいるメンバーの中で、やはりウルティモだけが詳細を知っている感じか。
「この地はかつて存在したバラルディア。イデアベルクのように種族に際限の無い王国だったのだよ。王国の主が絶えて滅んだはずだったのだが……魔王の帰還で戻りつつあるとみえる」
以前来たときはひと気も無く廃城だった。しかし魔王が戻ったことで種族を再集結させているということだろうか。しかもダークエルフたちというのが気になる。
「我が方に答えを求める! 人間アック!」
暗礁域にいたダークエルフと魔王が繋がっていたかはさておき、ここに何でいるのかなんておれが聞きたい。
「あんたはルミカ・リオングの手下だよな? おれに帰順してイデアベルクにいたはずだ。それなのに、何で果ての王国にいるんだ? どうやってここに?」
「馬鹿を言うな! 我が方たちは確かに人間アックに帰順した。だが妙な呪術が広がると同時に、我が方たちの一部を残してここへ飛ばしたではないか!!」
ダークエルフの首長であるルミカたちは、シャドウドラゴンを倒したことで降伏しその時一緒にイデアベルクに連れて来たはずだった。
しかしここにいるダークエルフたちは、呪術のせいで飛ばされたと言っている。
一部を残してというのは、おそらく力を持つルミカ以外の者たちだな。
「アックさま。呪術というのはあの時のでは?」
「……だと思う。魔剣で呪術を消したとはいえ、消す前に影響を及ぼしてたんだろうな」
「ではこの者たちはどうされるおつもりですか?」
よりにもよって首長以外のダークエルフたちが飛ばされていたなんて。しかし彼らの様子を見る限り、焦りや戸惑いは感じられないどころか居心地を良くしているようにも見える。
「お前たちはここに囚われているわけじゃないのか?」
「我が方……オレたちは、ここが過ごしやすい。お前の国は獣人、人間が多すぎる。オレたちは闇が深い土地にいるのが好きだ。ここから出ようとは思わない」
今のところ闇の力を感じないが、魔王が支配してるならあり得るか。
ここにいた方がいいという者を無理に説得するのは厳しそうだな。
「ウニャ、ウニャ! アックアック!! モルアスの子どもたちの気配を感じるのだ。会いに行くのだ!」
「――シーニャ! まだ行ったら駄目だ!!」
ダークエルフたちが攻撃して来ないとも限らない中での単独行動は、あまりに危なすぎる。
シーニャには嗅ぎ付けがあるし、城の中から気配を感じ取ったかもしれないが……。
「あたしとフィーサの小娘がついて行きますわ! アックさまはルティとこの場に!」
「ミルシェとフィーサ。頼む!」
「分かったなの!!」
ここに来てから急に慌ただしくなったな。シーニャの言うモルアスの子どもというのは、シーニャと最初に出会った迷いの森の虎人族のことだ。
そうだとしてもシーニャがいきなり動くのは今まであまり無かった。
あったのは、シーニャが自我を失って攻撃して来た時くらいだ。
「ほぇぇ……どうしちゃったんでしょう? シーニャが興奮してましたよ」
「…………シーニャが闇化した時のことを覚えてるか?」
「ええと、確か神族国に行った時でしたっけ? あの時のシーニャは変なことを言ってましたねぇ」
「邪神さまとか言ってたな。そういうのは神族国の神の中にいないってフィーサも言ってたが……まさか――」
嫌な予感がするな。
とはいえ、今はダークエルフたちをどうするべきか。
「アックくん。ダークエルフたちは正常であり、出て行く意思を持たない。これ以上の話し合いは無用なのではないか? 双方害は無く、与えられることも無い」
ウルティモの言ってることは確かなようで、ここにいるダークエルフたちからは敵意がまるで感じられない。それでも無理矢理イデアベルクに引き戻すとなれば、一変するおそれがある。
しかしそれは賢明じゃない。
「それならこの場はどうするんだ?」
「エルフ同士留まってもらうのみ。われらは城の中へ進まねばならぬ。それに――」
「……城の中が何か気になるのか?」
「虎娘の行動が気にかかる。最悪な状況を作り出さないためにも、アックくんは急ぎ進むことを勧める」
ウルティモもおれのように、シーニャの行動に何かの予感を感じているのか。
「分かった。城の中へ急ごう」
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