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第二十一章:途切れぬ戦い
460.邪悪聖女の最期 後編
しおりを挟む失速の矢を受けたエドラだったが、元々効果時間が短かったことで回復も早かった。
鈍化の足を徐々に速くして、ミルシェがいる所に向かい始めた。
「魔物女を先に先に先にいいいいい……!!」
おれから技を喰らっておきながらもミルシェを倒すことで精一杯か。
そうなるのも原因があるけど……。
ミルシェの横には力を持て余したルティとシーニャがいて、空っぽの宝珠をエドラに向けている。
当たったところで何のダメージも与えられないはずが――
「ウウゥ!!! こっちに来るななのだ!!」
「でぇいでぇい!!」
2人から力の込められた宝珠は見事、エドラに命中。
とりあえず抑止力が発揮されてる感じだ。
おれには目もくれて無いようなので、この隙にデバフ効果を込めたエン系宝珠を作り出す。
作る必要は本来は無いものの、とどめを刺す時に思い切りやれるので今回限り使う。
そもそもミルシェの手持ち宝珠には限りがあるし、エドラとの戦い限定になる。
◇
――よし、これくらいでいいか。
エン系デバフは宝珠が標的に命中した直後に発動される。
あくまでデバフなのでエドラには大した攻撃じゃないと思われてしまうが、これで問題無い。
「おのれ、おのれおのれ……! 魔物ごときがちょこまかと!! この聖女様に向かって雑魚がぁぁぁ」
ルティたちの宝珠投げはさすがにすぐに尽いたか。
「そんな単純攻撃なんかに当たりませんっっ!」
「ウニャ、攻撃しちゃ駄目なのだ?」
それにしてもエドラの攻撃を上手く避けているな。フィーサを抱えたままのミルシェがいるから仕方が無いとはいえ、ルティたちの挑発が成功した感じか。
「エドラ!! おれは完全に回復したぞ! 彼女たちの前におれと決着をつけた方がいいんじゃないのか? グルートの仇を取ってみろ!」
異常な精神状態のエドラに大声を張り上げても通じそうに無いが、"グルート"の名を出したことですぐに気付くはず。
「グルート……グルート様!! ふん、荷物持ちアックごときが生意気なことを言うものね! グルート様が出来なかったことをわたくしが果たせば、きっとわたくしの前に現れてくださるわ!! そこでわたくしからとどめを刺されるのを待っていることね!」
――やはり執念深いな。
かつての師匠バヴァルが生き返らせようとしたのも、こういうことか。
ルティたちに対していたエドラはその場で反転し、真っすぐおれの元に向かって来る。
すでに人の姿から崩れ、地面を這いずりながら向かって来るその姿は、蛇のように見えた。
分かりやすく真正面から接近して来るエドラに対し、デバフ宝珠を投げつける。
宝珠はそこそこの大きさなので、一つずつ投げる感じだ。
「おりゃっ!!」
エドラの"外側"に向けて投げたことで、投げた宝珠がことごとく外れていく。
「クククッ! 当てることも出来ないなんて、所詮荷物持ちアックね! すぐに、すぐに殺してやるわ」
一つも宝珠が当たらなかったことで、エドラは速度を緩めず勢いよく向かって来る。
「あー!? 何やってるんですかぁぁぁ!! アック様のへたくそーー!」
「駄目なのだ! アックは投げる才能が無いのだ!! ウニャー!」
この光景に彼女たちから怒りの声援が飛んで来た。
遠目から見れば確かにその通りだが、これには狙いがあった。
普通の戦いならあっさり片付けている所だが、相手は因縁のエドラ。
あえて失敗を見せつけたうえで片付ける。
そもそもガチャが上手くいかなかった時に馬鹿にしていたのも、エドラが筆頭だった。
同じことをやって、そのうえで――
「フフフフフフ……! アック・イスティ!! 覚悟はよろしいかしら?」
「……いつでも」
「くたばれ!! グルート様の仇!!!」
呪い属性をその身に込めたエドラは、自分の手を後ろに大きく振りかぶらせ、間髪入れずに振り下ろした。武器の無いエドラだが、その手に全てを込めたようだ。
だが、
「ググゥゥ……!? な、何故、当たらない。アック・イスティごときにぃぃぃぃ!!」
大きく外した宝珠だったが、これはすでに発動済み。
それにより、エドラの動きを完全に封じている。
5個の宝珠全てがエドラの両手両足、頭に命中。
砕けた欠片がものの見事に突き刺さった状態となっている。
「……かつておれに喰らわせた弱体を受けた感想は?」
「だからどうした? わたくしには麻痺も猛毒も、耐性弱体も全て効かないいいい!! こんなくだらない弱体しか出来ない貴様ごとき、すぐに――ウゥ、ウウウ……う、動けない!? 馬鹿な、何故……」
「それはただの弱体じゃない。……四肢と神経全てを麻痺させてやったからな。これ自体ダメージも無いし大したことは無いが、気付かない間に徐々に蝕んでいく」
エドラに喰らわせたデバフは、失速、耐性解除、属性解除、視覚聴覚、徐々に石化などなど。
直接の痛みを伴わないものだけに限定して喰らわせた。
気付かないうちに、痛みさえも感じない感覚となっているだろうな。
そしてそれらを失ったエドラに対し、放つのはたったの一振り。
魔剣で全て終わる。
なすすべがないまま、最後の一撃を受けた直後。
エドラは一瞬だけ正気を取りもどし、起きたことを全て思い出すはずだ。
「……ぐぐぐ――何故、何故なぜなぜ……こ、こんな――こんなこんなこんな!!!」
魔剣ルストを中段に構え、
「――闇に生き、闇となって全てに沈め! 《闇の領域・ヴィクティムエンド》」
「こ、この……こ――ごあぁぁぁぁぁ…………!!! あぁぁ、グルート……様」
一瞬の意識を思い出させ、そのまま闇へと葬った。
これでようやく――
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雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
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