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第二十一章:途切れぬ戦い
453.無灯の回廊 2
しおりを挟む「とおぉぉぉ……っ!!!」
ズガッ、とした鈍い音をさせ、ルティの拳が水棲の魔物に命中する。
灯りの無い回廊ということもあり、魔物の姿は音が近づき目の前に現れるまで見えなかった。
魔物の姿こそ捉えられないが、やる気に溢れたルティのおかげで次々と魔物が撃破されている。
少し前まで聞こえていたミルシェの呼びかけはすでに無く、彼女だけが先に進んでしまっているようだ。
エドラと戦うことを志願した彼女なので、おれたちを置いて先に戦闘を始めているかもしれない。
それにしても、
「シーニャ、どうした? 魔物が目の前にいるけど戦わないのか?」
「…………ウニャ」
「ルティと一緒に戦いたくないかもだけど、体を動かすことが出来るぞ」
「ドワーフだけで十分なのだ。シーニャ、今は動きたくないのだ」
すでに回復しているが、シーニャは"テラー"を2回ほど喰らった。
ここの回廊には、恐怖の植え付けの記憶が残ったまま進んで来た。
もしかしたら、それが関係しているかもしれないな。
「でやぁー!」
回廊になっている両側の壁はごつごつとした岩壁。
そこに、ルティに殴られたカニや魚、さらには小さめのクラーケンなどが叩きつけられている。
ガンッ、ズガガッ! といったやや激しい衝撃音が響きまくりだ。
水棲の魔物が近づく音はとても分かりやすくそれほど強さも無いので、ルティにとっては戦いやすい相手なのかも。
「ルティ! あらかた片付きそうか?」
「はいっっ!! こんなに爽快感のある戦いは久しぶりですっ!」
「おれとシーニャは手伝えないけど、全部任せていいよな?」
「お任せ下さいっ! 残る魔物は目に見える範囲だけなのです」
まあ、この調子なら苦戦することも無くミルシェに追いつけそうだな。
相変わらず灯りの無い状態が続いているが、一本道でもあるし問題無いか。
しかし――
「アック。音が響いて来るのだ……うるさい音なのだ」
「うん? うるさい音?」
おれの腰に顔をうずめていたシーニャだったが、遠くの音に反応したのかようやく顔を上げた。
彼女の虎耳がぴくぴくと動き、尻尾も警戒の動きを見せている。
ルティが戦っている魔物とは別の、何か異なる存在のお出ましか。
「アック! 押し寄せて来るのだ!! シーニャ、アックとドワーフを掴んで動くのだ。我慢して欲しいのだ!」
「――え」
よく分からないまま、シーニャの強い力で腕を掴まれていた。
ルティも同様に訳が分からず放心状態で、シーニャに引っぱられている。
さっきまで甘えまくっていたシーニャ。
そんな彼女がおれたちを掴みながら、器用に岩壁を蹴り上げて前へ前へと駆けて行く。
「ほえぇ……アック様、これは一体どういう状態なんですかぁぁ」
「いや、おれにもさっぱり……音が奥から響いているらしいけど」
おれとルティの体勢は、お互いに回廊の後方を向いている。
さっきまでいた魔物はすでに倒され、追って来る気配も無い。
だが前へと駆けるシーニャとは別に、おれの耳に届いて来たのは――
「わわわっ!? アック様、アック様!! もしかしなくても、み、水が向かって来てるんじゃ……」
「おれも感じてる。暗くて見えないが、岩壁にぶつかって響いてる激しい音は水が流れ込んでいるせいだろうな」
「でもでも、シーニャに引っ張られているわたしたちには、どうすることも出来ませぇん」
暗くて見えない回廊のはず。
それなのに危機的回避スキルが発揮したのか、シーニャは後ろを気にすることなく前に向かっている。
この調子なら、水に巻き込まれることなくミルシェに追いつけそうだ。
「ああぁぁ……あのあの、アック様」
「ん?」
「み、みみみ、水と一緒に何か流れて来てる気が~」
てっきりルティの見間違いかと思っていたが、
「――ルティ。そのままシーニャと一緒に先に進んでてくれ!」
「ほえ? アック様、何を~?」
「……置き土産のようなものだ。とにかく、ミルシェの元に急げ!」
シーニャに掴まれていた状態から離れ、水流を前にしておれだけがその場に留まった。
迫り来る水流に乗って、恐らくスフィーダが残して行った巨大な海蛇。
……それも召喚で呼べる怪物が牙を向けて来るとはな。
やはりここはすでにシーフェル王国ではなく、かつてスキュラが棲んでいた海底遺跡のようだ。
おれと怪物を戦わせて、彼女たちと引き離すつもりらしい。
海底遺跡の怪物を仕向けて来たなら、こいつらを全て倒す。
それもあっさりと倒せば、奴も思いどおりには行かないと気付くはずだ。
まずは水流の行き着く先で戦うか。
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