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第二十一章:途切れぬ戦い
442.第一王女との戦い:2
しおりを挟む「……ルティが殴ってる間に、蛹の状態になっていたみたいだな」
「ええぇぇ!? 虫がやるあれのことですか?」
「そうとしか見えない。ミルシェならあれが何となく分かるだろ?」
「まぁ、虫のそれとは異なりますけれど、あたしも脱皮していた時はじっと動かなかったですわね」
一見すると人の姿を保っているように見える。
だが体表は頑丈な殻のようなものに覆われていて、恐らく今から攻撃してもダメージを吸収するはずだ。
スフィーダが施したことは、まさしくこれのことだった。
人の言葉を話していたが、その時にはすでに手遅れだったということになる。
「アック、あれは人間じゃないのだ?」
「元は人間だったと思うぞ……」
恐らくスフィーダと会っていた時までは、意識があって人として保たれていたはず。
しかしこれはあまりにも――
「ウニャ。あれは倒していい相手なのだ? 攻撃はいつやっていいのだ?」
「うーん……ああなってしまうと、羽化を待つしかないな」
「つまらないのだ~」
どれくらい時間がかかるものなのか不明だが、ルティの攻撃で反応が無いことを考えると……。
◆
「退屈なのだ、退屈すぎるのだ!!」
時間の流れはつかめないが、かれこれ数時間は経っている。
おれたちは蛹状態の第一王女に注意をしているが、全くといっていいほど動きが無い。
殻に包まれている状態に対し、何をすれば正解なのか。
色々試してみるしか無いな。
「そういえば、ルティ」
「ほえ?」
「ここにアヴィオルは呼べるか?」
「アヴィですか? どこにいたって、わたしが念じれば飛んで来てくれると思いますよ~」
アヴィオルは火炎の精霊竜だ。普段はイデアベルクにいるが、契約者のルティが呼べば呼べるはず。
「じゃあ頼む」
「お任せ下さいっ!!」
そう言うとルティは、自分の赤毛を触りながら「うーんうーん」と唸り始めた。
「アック、ドワーフは何をしてるのだ?」
「……召喚のようなものだな」
「ふんふん?」
召喚といえばおれもいくつかの竜や悪魔を呼ぶことは出来るが、手段が定まっていない状態では呼びたくないのが正直なところ。
「ルティの精霊竜を呼んでどうされるおつもりです?」
「火炎竜の火力を使えば、一気に羽化させられるかなと……」
「でも転移した所に呼べるのです? ここが仮にシーフェル王国だとしても、上空から光も注がれていませんし、歪みのような感じを受けますわ」
ミルシェの言うとおり、ここはシンザ帝国から転移して来た場所だ。シーフェル王国らしいが、もしかしたら存在していなく幻かもしれない。
もしくは以前行った、南アファーデ湖村のような存在しない場所に近い可能性もあるな。
「空間に歪みがあることに気付いてたのか?」
「ルティを応援していた時は気にしてませんでしたけれど、こうも退屈な時間を過ごせばさすがに気付きますわ」
「それで、君はどう思ってるんだ?」
「……帝国の男が何をしたかは知りませんわ。ですけれど、時空を歪ませているのは確かかと」
時空か。こうなるとウルティモを頼りたくなるな。
しかし都合よく甘えてもいられないけど。
「アック様ぁぁぁ~」
「ルティ? アヴィオルはどうなった?」
「呼べませぇん……声も聞こえて来ないし熱さも感じなくて、忘れられちゃったのかもしれないです……はうぅ」
やはり別の空間に来てる感じか。
神族国の時は悪魔召喚が出来た上、ミルシェの所に行かせることが出来たからな。
「な、泣くな。試してくれただけでいいよ、ルティ」
「はいい~」
羽化するのを待っていても仕方ない……強制的に起こすしかない。
魔剣に覚えさせたことだし、やってみるか。
「精霊竜は無理でしたわね。どうされるおつもり――あら? アックさまが動くことにするのです?」
「試したいことがあるからな。時空魔法と違うが、状態異常を起こさせるにはこれが手っ取り早い。そういうわけだから、ルティとシーニャも動かずにいてくれよ」
魔剣を使って体表部分に斬り込めば行ける気がする。
「ウニャ?」
「はぇ? アック様が動くんですか~?」
「ルティと虎娘。アックさまがすることを大人しく見ていることね!」
蛹と化した第一王女に向かって突っ込み、
「――ら、あっ!」
テラーを備えた魔剣で、思いきり上段から振り下ろした。
ガガンッ、とした派手な音をさせると同時に、確実にダメージを与えた手ごたえがあった。
ルティの手ごたえはどうだったか不明だが、これで羽化もしくは何らかの動きがあるはずだ。
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