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第二十一章:途切れぬ戦い

436.転移のシーフェル王国 転移バトル編

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 な、何だ……? 足元全体に妙な振動を感じるな。
 シーニャだけが耳を押さえてるが、違和感のある音でも感じているのか。

「ウ、ウウゥゥ……アック、アック!! おかしいのだ、おかしすぎるのだ!」
「何がおかしいって?」
「分からないけど動いている気がするのだ」

 空間が歪んでいるでも無く、何らかの罠が発動しているようでも無さそうだが……。

「アック様っ!! わわわわわわ……!? ゆ、揺れ揺れ揺れ、揺れてますよぉぉぉぉ!!」
「ア、アックさま、辺りの様子が!」

 ルティとミルシェがいる辺りの方が揺れが激しいな。ここはシンザ魔塔の中のはずだ。それなのに揺れるということは、またスフィーダが仕掛けを施そうとしているのか。

 それとも、ザームの魔導士を殲滅させた時の衝撃で魔塔に悪影響を及ぼした……?
 どちらにしてもこの揺れはただ事じゃない。

 それに階層が変わるにしても、空間を揺らすといった変化じゃないはずだ。
 だとすれば――

「イスティさま!! この揺れは空間転移現象……だ、駄目なの、ど、どこかに転移してしまうなの!!」
「――なにっ? 転移!?」
「と、とにかく何が起こるか分からないなの。防御態勢で待ち構えておくしか――あぁっ!」
「フィー……くっ!!」

 どうやらおれたちがいる空間ごと、どこかに転移させるつもりのようだ。それがどこなのか分からないが、フィーサを始めとしておれ以外の彼女たちが次々と転移している。

 個人差が生じているが、恐らく同じ所に飛ぶはず。
 どこに転移されてもいいように防御を高めておくしかない。

 ◇◇

「……ハハハッ! Sランクパーティーだった面白そうな"敵"を石にしたまま片付けるなんて、アック・イスティもひどいね。あなたもそう思うだろう?」
「ギギギ……」
「あぁ、もう言葉は話せないか。まぁいいや。アック・イスティはあなたの妹である元と競い合って、故郷で存分に戦ってくれていいよ。掘り出した甲斐も無くなるからね」

 ◇◇

 空間の揺れと同時に、おれたちは抵抗間もなくどこかに転移した。おれだけが最後に転移したが、立っていた場所が違うだけという、時間のズレに過ぎなかった。

 着いて早々、見渡す限りのもやがかかっているせいか視界がはっきりせず、音も遮断されているようだ。それにもかかわらず、おれの体には何かが何度もぶつかって来ている。

「ウニャ、ウニャ! アックアック! 反応して欲しいのだ。もう一度ぶつかるのだ」

 視界不良のおれに早くも攻撃か?
 ――かと思ったが、感触が明らかに柔らかい。柔らかさで判断すれば、この感触は……。

 恐らくルティ辺りだな。それなら次の体当たりで彼女の腰を掴んで――

「おりゃっ!! 捕まえたぞ! さっきから何度もぶつかったところで痛くも痒くも……あれっ!?」
「ウニャゥゥ……何をするのだ、アック……早く放して欲しいのだ」
「のわっ!? シ、シーニャだったのか!」
「アックに触られるの嫌じゃない。でも、シーニャ、獣扱い嫌い。早く放せなのだ!!」

 てっきりルティ辺りがいたずらで体当たりして来たと思っていたのに。シーニャだったとは。
 ルティの姿を探すと、ミルシェと一緒に割とすぐ近くにいてきょとんとしている。

「はぇ?」
「……全く、このを差し置いてまた虎娘を構っておいでですのね」

 そんなつもりは無かったのに、ミルシェは相変わらず厳しいな。
 
「い、いや……これはその」
「アック!! 放せなのだ!」
「おっと、ごめん」
「ウニャ。フィーサはどこなのだ? シーニャ、フィーサを探すのだ」

 確かにフィーサだけ姿が見えない。人化していたし、近くにいればすぐに分かりそうなものなのに。
 
「分かったよ。おれも一緒に探すから」
「当然なのだ!」

 シーニャに勝手に動かれても困るので一緒に辺りを見回そうとしていると、ルティとミルシェが突然騒ぎ出した。何やら発見したらしいが……。

「――なるほど。見覚えのある造りかと思えば、空間転移させられたということですわね」
「えぇぇぇ?」
「間違いありませんわ。あたしは何度もこの城に出入りしていますもの。見間違うはず無いわ」
 
 ルティの騒ぎ方は、どうやらミルシェが言ってることに対し驚いてるようだな。彼女たちの驚きはこの場所に対してのことらしい。

 彼女たちとさほど離れていないが、おれがいる所からその光景が見えない。そろそろ靄が晴れて来ても良さそうなのだが。

「アック! フィーサの気配を感じるのだ!」
「おっ? どこだ?」
「ドワーフたちがいる辺りなのだ。ウニャ、でも変なのだ……」
「うん?」

 シーニャが落ち込んでいるが、フィーサの身に何か起きているのか。
 この場所が関係しているとすれば――

「アハハハハッ! これが荷物持ちアック・イスティの武器ってわけ? アック・イスティ! 近くにいることは気配で分かっている! 隠れてないで、出てきたら?」

 この声……まさかな。しかしフィーサを人質にしてるということは……あの女が復活したのか?
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