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第二十一章:途切れぬ戦い
428.ザーム教導魔導団 1
しおりを挟む――因縁のザーム魔導士。
様子を見るに、ミルシェとルティに攻撃を仕掛けつつそろそろでかい動きがありそうだ。
その動きと同時にこっちも動く。魔導士の攻撃が彼女たちに命中する前に飛び込む算段。だがまだ動かず、その時を待つのみ。機をうかがうに留めている最中だ。
「ウニャ? どうしてすぐに行かないのだ?」
シーニャの言うとおりさっさと乱入すれば済む話だが、魔導士ヘルフラムが何も対策してないはずが無い。ルティはともかくミルシェの弱点が問題だ。
ミルシェに攻撃魔法を放つ前におれたちが姿を見せたとすれば、敵は攻撃手段を変えて来るはず。厄介な魔法を組み合わされるのは明白。おれだけならいいが、範囲魔法だと彼女たちの動きを封じられる恐れがある。
「シーニャ。君はフィーサを手にして大人しく待機だ。おれの合図を待ってから動いてくれ」
「シーニャは動いちゃ駄目なのだ? アック、シーニャの動き信用してない?」
同時に動けないことが寂しくなったのか、シーニャは耳をへたらせて落ち込んだようだ。
魔導士一人だけなら良かった。しかしヘルフラムという女魔導士。
あの女の動きは警戒しなければならない。
それに、
「敵は卑怯な手を使うのが得意なんだ。だからこっちもそれに備えないと何が起きるか分からない。シーニャはおれにとって、とっておきの戦力だ。だから――」
小賢しい動きをさせるよりも、正攻法で攻めさせた方がシーニャには有効だ。
「ウニャッ!! アックが言うことなら間違いないのだ! フィーサを使ってシーニャ、暴れてやるのだ!」
「その意気だぞ!」
ミルシェに弱い攻撃魔法を放っていた魔導士。
攻撃に対し、防戦一方な状況を作っていたミルシェだったが――
魔導士たちの攻撃が突然止まり、一人の魔導士を中心とした陣形を取り始めた。
「――! 痺れを切らしたようね。延々といたぶるよりも、圧倒的な力で消し去りたいタイプのはずですもの」
「ど、どういうことなんですか?」
「ルティ。あなた、雷と氷は得意?」
「はぇ? 寒いのは嫌ですよ。雷って、どんなんでしたっけ?」
水を得意とするミルシェにとって対となる属性は雷。氷も得意ではないものの、まだ耐えられる属性であり苦手でもない。
そんな弱点を持つミルシェに対し魔導士の動きは、
「あれれれれ!? ミルシェさん、上空に黒い渦が出来てますよ? 何なんでしょう、あれ……」
「……やはり容赦なく突いて来るといったところね」
弱い攻撃魔法が止まり敵の動きを気にしていると、いつの間にか上空に黒い雲の渦が出来ていた。ミルシェたちが立っているこの場所は、外では無く間違いなく魔塔の中。
しかしそう思わせない空間の中にありながら、外の気象のように魔導士たちは雷雲を作り出している。
「ルティ。あの渦から落ちて来るのは雷よ」
「ええっ!? 建物の中なのに?」
「そしてアレが落ちて来るところはあたし。だからその前にあたしから離れることね。そうしないとあなたも痛い目を見ることになるわ」
雷雲は力を溜め込んでいるかのような黒い渦。攻撃の合図を待つかのように、急激な雷鳴を上空で轟かせている。
それに対し、ミルシェは特別な動きをする気配が無い。
「で、でも……ミルシェさんはどうなるんですか!?」
「……その時はその時よ」
「駄目ですよ!! そんなことになったら……ミルシェさん……グズッ」
「――全く、しょうがないわね」
ドンッ……。
鈍い衝撃音と同時に、短波の光線である青紫色の光が周りを包む。
その光とともに、魔導士が彼女たちの正面に姿を現わした。
「くっくくくっ……、あの男では無く、ドワーフと亜種の女か。下位の生物相手に雷光は勿体なかったか?」
ミルシェとルティを見下すように眺め、見下しの言葉を投げた。女魔導士の脇には、護衛と思しき魔導士が防御態勢を見せている。
「……ふん。下位の生物……? そんなのは見たことが無いわね。ねえ、ルティ。あなたも見てないわよね?」
「あわわわ……ミルシェさん、どうしましょう?」
ミルシェはてっきり上空からの攻撃で済むかと思っていた。しかし姿を間近に現わされると思っていなかっただけに、ルティを逃がす初動を失わせてしまう。
「ふぅ、そう来るとはね。上空に神経を逸らせておいての油断……確かにその辺の魔導士では無さそうね」
ミルシェが考えていた手段は、自身が攻撃を受け止めつつルティを逃がしてからの反撃。しかし魔導士の仕掛けた雷雲は威嚇に過ぎなかった。
「アック・イスティの取り巻きどもをそう簡単に逃すとでも思ったか? クククッ」
「逃げる? 確かにその辺の魔導士では無いけれど、所詮人間。いいわ、あの方が来る前にあたしの力を特別に見せてあげるわ!」
「亜種ごときが!」
ルティを逃してからの反撃。その目論見が崩れたミルシェだったが――
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