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第二十章:畏怖

421.彼女たちの心 シーニャ編

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 ルティたちとゴブリンが戦いを始めた時、シーニャだけが虎人族に迎えられていた。
 ゴブリンをエサに、彼女たちが個々で動くのを見計らっていたようだ。

「ウニャ、どこまで行くのだ? シーニャもゴブリンと戦いたいのだ」
「もうすぐダ。もうすぐ行けばナカマがいるゾ」

 シーニャには決まった故郷が無い。迷い森モルアスでアックと出会ったものの、そこが故郷というわけでは無くそのままついて行っただけだった。

 親はもちろん、どこで育ったのかを気にしたことが無かったのである。
 そして、

「ホラ、ナカマがいるゾ。みんな、シーニャを知ってる」
 ――シーニャ、オカエリ。
 ――シーニャが戻って来た!
 ――シーニャ! シーニャがいるゾ。

 シーニャを出迎えたのはほとんどがオスの虎人。彼女は自分のような上位種が見当たらず、メスの虎人を見ないことから素直に喜ぶ感じにはならないようだ。

 その中の一人、最初にシーニャに気付いた虎人の男が見かねて声をかけてくる。

「シーニャ。何故オレたちの元に帰らず、人間のそばにいる? シャエラン村に帰って来い!」
「ウニャ……シーニャ帰らない。シーニャ、アックに必要とされてる。シーニャ、アックが好き」
「そのニンゲンは帝国の敵。オレたちの敵。虎人族の敵ダ。シーニャも敵になるゾ?」

 虎人の男が言うと同時に、周りの虎人が途端に牙をむき出しにする。
 返事次第ですぐに始末するのか、シーニャの周りを数十以上の虎人が囲み出す。

 そんな状況の中、シーニャが出した答えは。

「シーニャはアックのシーニャ。この村知らない。帰る場所、アック。虎人、仲間じゃない……ウゥぅ」

 シーニャの答えを聞き、虎人の男は眼を見開く。
 そして"敵"と認めたのか、仲間とともに反り幅の広い刃である戦斧を一斉に構え出した。

「同族だと思ったがそうじゃなかったようダ。人間に惑わされ弱くなった虎人など、無用! 我らの手にかかってここで果てろ!!」

 シーニャからすれば、囲む虎人族はそのほとんどが見上げるほどの体躯。腕も足も盛り上がった筋肉の塊のようなもの。そんな虎人族が戦斧を一斉に振り下ろされてしまえば、どうなるか分からない。

「人間に味方する虎人族はコロス!! オマエに逃げ場などナイ。どうするか決めろ!」
 ――コロセ、コロセ!!
 ――シーニャは敵、敵!
 ――シーニャは無用!!

 すでに戦斧を構えている虎人族は、合図を待っている。
 それでも、

「ウニャ……シーニャ、弱くないのだ。シーニャはいいところをみてもらうのだ」

 シーニャはこの場にいない"アック"の為に、虎人族との別れを固めるのだった。
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