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第二十章:畏怖

417.シンザ魔塔 4

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 魔塔の中とは思えないうっそうと茂る木々。そして行く手を阻むかのような入り組んだ道。未だ第一階層から出られないところを考えれば、広大な構造物といえる。

「ウニャ、虎人族だからとアックから離れて進むのはあり得ないのだ」

「その意気なのー! 後ろはわらわに任せるなのー!!」

 シーニャは虎人族に置いて行かれないように注意しながらも、おれのそばを離れず歩いている。フィーサは人化して、殿しんがりになることを買って出た。

 ルティはともかく、他の彼女たちは警戒を強めようとしているに違いない。

「アックさま。この魔塔はもしかして……」
「思った以上に複雑な構造かもな」

 おれたちはザームの奴らの話に聞き耳を立てた後、難なく進もうとした。しかし家具部屋に時間をかけすぎたせいで、全く別の場所に迷い込んだ。

 アルビンの話では、第一王女は宮殿の最上階にいるらしい。ところが宮殿では無く魔塔だったことに加え、敵が多数潜伏する場所だった。スムーズに進めないとは思っていたが……。

「いえ、そうではなく、あたしたちにしてる気がしますわ」
「対応?」
「最初はルティでしたわ。次に虎娘。このまま行くとそれぞれの"弱点"を突いて来るのでは?」
「おれの弱点じゃなくて、彼女たちのってことなら厄介だな」

 獣たちを倒しまくっていた時、ミルシェがそんなことを言っていた。これ自体に意味は無さそうだが、この期に及んで帝国がおれたちを試そうとしている気がしてならない。

 小賢しい真似をされるのは正直面倒すぎる。しかし皇帝に会わないと終えられそうにない。

「アック様、アック様。木々の間に道が見えますよ? 結構な森林だったりするんですかね~」

 魔塔の中あるいは、知らぬ間にどこかの森に"転送"されたかは不明だが不気味なのは確かだ。ルティが言うように茂る木々の隙間には、先の見えない道が続いている。

 どこに続いているか気にはなるが、だからといってそこに進む理由は見当たらないが。

「勝手に行くなよ?」
「行きませんよー! アック様から離れるつもりは無いんですからっ!!」
「……だよな」

 そう思いつつも、ルティは好奇心旺盛な女の子。家具部屋のこともあるし油断は出来ない。

「アック、アック!! 何だか明るくなって来たのだ!」
「おっ?」

 シーニャを導いていた虎人族の男の姿は無く、代わりに物々しさが見えるバリケードが見えて来た。薄暗さを出していた入口と違い、空に近い明るさだ。

 バリケードは錆びた鉄で出来ていて、高さこそ無いものの段差が後ろにそびえている。恐らく侵入者を阻むものなのだろう。

「どうするつもりです? バリケードも段差も簡単に突破出来そうですけれど?」
「シーニャは歓迎されてたけど、おれたちはな~……」
「アック様、ここに何か文字が見えますよー」
「うん?」

 勝手に動き回ることは無かったが、さっそくルティは近くをあちこち見て触っている。彼女に大人しくしていろと言う方が厳しいか。

「ほらっ、ここの錆の辺りに……!」

 文字に関してはよほどの古代文字でも読める。だが所謂いわゆる獣文字だとさすがに理解の出来ない場合もあったが、これはまさしくそれだ。

「虎人族独自の文字っぽいな。獣人だけが分かる言葉のようだが……ミルシェは――」
「あたしも長いこと生きてますけれど、獣の文字までは分かりませんわ」
「わらわも同じなの!」

 別に書かれた文字が読めなくても問題は無いが、気にはなる。

「そうだよな~……ん?」

 さっきからぐいぐいと体を引っ張られていると思っていたが――
 どうやらずっとおれを呼んでいたようで、シーニャが不貞腐れた顔でおれを見ていた。

「シーニャ、分かるのだ!! アックはシーニャを何だと思ってるのだ!」
「分かるって、書かれてる文字が?」
「そうなのだ! シーニャ、虎人族なのだ!」

 普通の虎人族よりも上位種のワータイガーだが、独自の文字は読めるということか。それなら彼女を頼るしかない。

「じゃあ頼むよ。シーニャ」
「ウニャッ!」

 そう言うとシーニャは、錆びたバリケードに近付いてウニャウニャと呟きながら何度も頷いている。虎耳と尻尾が調子よく動いていてすごく気になるところ。

「なんて書いてる?」
「ウニャ、シャ……シャエラン村……なのだ! 虎人族の村があるのだ」
「やはり村か。しかしバリケードと段差を突破していくってのはいいのか悪いのか」

 そうかといって破壊するわけにはいかない。面倒だが登って行くしか無さそうだ。
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