409 / 577
第二十章:畏怖
409.憂国の傀儡師
しおりを挟む――シンザ帝国・玉座の間。
「潜んでいるのは共和国の鼠と、イデアベルクのアレらで違いないのだな?」
「はっ。ザームの鼠らはアック・イスティが片付けることでしょう」
「……残党は将軍に任す。それから、ドワーフの娘は守れ。よいな?」
「ご御意に」
姿無き皇帝との話を終えた男は、静かにその場を離れた。煌びやかな帝国とかけ離れた閑散の宮殿。そのことに憂いても、状況は一変しない。
宮廷道化師と言っても、今や憂国の傀儡に過ぎないことを思い知った。気落ちしたところでどうにもならないと思いながら、男は数少ない兵に命令を下す。
「魔物は手筈どおりに放て! アック・イスティらは魔物の方が戦いやすいはずだ」
「分かりました。魔物はAランク程度でよろしいですか?」
「Sランク以上だ。あの男に弱いのを差し向けても意味が無い。仲間の彼女たちも同様だ」
「――! Sランク以上となると……合成獣しかありませんが、しかしスフィーダ様……アック・イスティに効かなくても仲間なる者には影響が!」
「ドワーフの娘以外は傷ついても構わん。理解したならば行け!」
憂国の中に身を置きながら、兵にはそれを見せてはならない。
――という現実に、道化師改め傀儡師スフィーダは心を隠して憂うしかなかった。
「将軍? 貴様が帝国の将軍だと?」
「いかにも。正気を取り戻した感想はいかがです? 第一王女様?」
「小賢しい男め。ザームごとき小国と組み、わたくしを連れ去りシーフェル王国を滅ぼした男が何をほざくか!」
スフィーダは帝国屈指の将軍。
人心を意のままに操り、まんまと誘い出すことを得意とする男だった。イデアベルクのアック・イスティを操ろうと企み、帝国に誘い出したが……。
「王国はザームとは目と鼻の先。第一王女のあなたが残っていても、滅ぼされただろうね。第二王女さえ残っていれば話は違っていただろうけど、仲が悪いのは仕方ないね」
「エドラと仲良くなどと、くだらない。消えてくれてせいせいしてる! まぁ、エドラに成り代わった女とは上手く出来そうではあるけれど?」
「……それなら、あなたにも"力"、それも強化を与えて働いてもらおうかな」
シーフェル王国の第一王女は精神が安定し、自分を取り戻していた。そしてその場で、王国が滅ぼされていたことを知った。
「何……? ただの人間であるわたくしをどう――!?」
「第一王女様、まずはお眠りくださるよう……目覚めた時、成り代わり王女に会えますよ……」
第一王女は謎の女に触れられた時点で意識を閉ざした。抵抗も無く、諦めたかのように。
「ピティラス。第一王女の処理はお前に任せる。生きるも死ぬも王女次第だ。くれぐれも、ヴァンピールのような失敗作は作るなよ?」
「ワタクシに限って、二度目はありません」
宮殿を目指すアック・イスティたち。
そんな彼らとは別に、ザーム共和国とは別の思惑がもうすぐ始まろうとしていた。
0
お気に入りに追加
564
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。
克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる