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第二十章:畏怖
408.クリミナル・ゲート 5
しおりを挟むフィーサの言うように、光を喰らったアルビンは苦しみながらその場に倒れ込んだ。彼の状態が心配だが、悪魔の影響下から逃れたようにも見える。
「闇属性はどこに使ったんだ?」
光属性は目に見えて分かった。
しかし闇属性の魔力をかなり注いだ割に、消費されていない気がする。
「もちろん、わらわの攻撃力に割り振ったに決まってるなの! 見せかけの錫杖には何の力も備わってないなの。騎士を叩いて悪魔と分離させる必要があったなのっ!」
――なるほど。
納得に欠けるが、フィーサの攻撃力に加えたということなら仕方が無い。
「……ここはもう大丈夫だろう。悪いが、シーニャのところに行っててもらえるか?」
「小娘の気配を感じるし、そうさせてもらうなの!」
錫杖姿のフィーサだったが、人化してシーニャのいるところに走って行く。自在に変形出来ることを知ったとはいえ、やはり彼女の使い勝手は難しい。
「あああぁぁぁぁ~アック様ぁぁぁぁ!!!」
大して距離は離れていないが、ルティの声が聞こえたと同時に腹部に強い衝撃が走った。
「げふっ……あ、相変わらずの突進力……ぐぐぐ、わ、分かったから落ち着け」
「嫌です嫌です!! 本当にもう、どうなることかと心配したんですよぉぉぉ!」
「し、締められ……」
凄まじい握力すぎる。魔力消費で疲れたわけじゃないのにルティから抜け出せないとは。
これはまずい……。
「ルティ!! アックさまを困らせるよりも先に、やることがあるのではなくて?」
「……あっ! そ、そうでした!」
ミルシェの声が聞こえたかと思えば、ルティはおれをすぐに解放してくれた。やることがあるというのは、もちろんアルビンのことだろう。
「……とにかく、アルビンの様子を見ないとな」
「はいっっ! 今度こそわたしの実力で回復をしますっ!」
「あぁ、頼む」
腕組みをして待ち構えているミルシェのところに行くと、アルビンは意識を回復していた。
どうやら自我を取り戻したらしい。
「む、むぅ……すまぬな、アック。まさか意識を乗っ取られるとは……」
「気にするな。突然のことだったろうし扉の仕掛けにも驚いただろうから、畏怖を感じるのは無理も無いと思うぞ」
「畏怖……それもあるが、王女をまんまと皇帝の下に預け、俺だけが外に出たことに罪悪感もあった。それが俺の罪であり、悪魔に支配された原因だったようだ。アックは問題無いか?」
「罪はしょっちゅう感じるが、恐れを感じることが無いからな」
地下書庫で感じていた寒気の正体。
それはデーモン族によって仕掛けられた、負の感情を具現化されたものだった。
アルビンは騎士であり、正しい行動を取って来た人間だ。
恐らく人間相手にそういう意識を持たない。彼にとっては不利な場所だったに違いない。
「そうか……。恐れを感じてしまった俺はこれ以上進めん。すまないがアック。俺の代わりに皇帝の下に行って、シーフェル王女を連れ戻してくれないか?」
遅かれ早かれだったが、アルビンを同行させたままでダンジョンは厳しかった。
彼には安全な場所で待っててもらうしかない。
「もとより皇帝のところに行くつもりだったから、王女一人を連れ戻すくらい問題無い。王女に抵抗されなければいいけどな」
「ふっ、彼女がいれば問題無いだろう」
どうやらミルシェに対し全幅の信頼を置いているようだ。ミルシェとアルビンは、シーフェル王国での戦いで長い間協力していた関係。第一王女のこともミルシェなら何とか出来るのだろう。
「それで、アックさま。彼はどうされます? 怪我の具合は、ルティが持って来た草で大分良くなっているみたいですけれど」
「ここは図書館の地下だからな。自力で上がってもらって、休んでてもらうよ」
「何ならあたしが地上まで連れて行っても構いませんわ」
地下書庫の外れとはいえ、人の出入りがある場所だ。ここからならミルシェの助けが無くても戻れるはず。
「……いや、それには及ばん。お前たちはこれからが大変なのだろう?」
「ええ」
「それならば、まとまって動く方がいい。俺も騎士のはしくれ。多少のことなら自分で何とかするさ」
「あなたがそう言うなら……」
貴族騎士との付き合いが長いだけあって、ミルシェも彼のことを良く分かっているようだ。
「ええと、アルビンさん。回復草を何本か渡しておきますので、遠慮なくお使いくださいっ!」
「……む。ありがとう」
「いえいえいえ」
(ルティもたまにはいいことをするな)
「アック・イスティ。ダンジョンについて教えておくが、地下書庫から上に向かって行く必要がある。皇帝がいるのは最上階と聞いている。そこまでこらえてくれ」
「地下じゃなくて上? もしかして塔なのか?」
「うむ。宮殿をかなり見上げたから間違いない。そして戦う相手は兵士ばかりになるはずだ。人間相手との戦いは厄介かもしれんが、頼むぞアック!」
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