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第二十章:畏怖

406.クリミナル・ゲート 3

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 とっさの判断になるが、魔剣ルストが手にしやすい位置にありすぐに振り抜いた。
 魔剣は対魔物相手では威力が倍増するだけに、かなり使い勝手がいい。

「……ギャッ!? ニ、人間……ソレハナンダ!?」
「デーモン族だろうと関係無く効く技だ。すぐに効果が表れるから心配するな!」
「グギャギャギャ!! モ、モドサレ……」
「――! 黒色扉の奥が深淵か?」

 まともに当たったグレーターデーモンが、出て来た扉に引き戻され始めた。
 扉の向こう側というよりは暗黒世界への入口にも思えるが。 

(あっさりすぎるが……こんなもんか?)

 ズズズズ、といった感じで扉の向こう側に沈んでいく。
 我ながら魔剣の威力が凄まじい。

 どうやらアルビンを負傷させた割には大したことが無かったようだ。
 そう思っていたが――

「ウニャ!! アック、アック! こっちへ来て助けて欲しいのだ!!」

 黒色扉からは何の動きも見られず、魔物の気配も感じられない。
 しかし後ろの方に待機していたシーニャから、救援要請が聞こえて来た。

 目の前の扉にばかり気を張っていただけに不意を突かれた形か。
 後ろといっても通路の角を曲がるだけなので、すぐに向かった。

 戻ってすぐシーニャの後ろ姿が見えた。
 何故か彼女だけのようだが……。

「どうしたんだ、シーニャ?」
「ウニャ、アック! あの人間を何とかして欲しいのだ!!」
「あの人間……?」
「ドワーフも口うるさいミルシェも、あの人間に必死なのだ! シーニャ、何も出来ないのだ」

 シーニャの指差す方に目をやると、そこにはアルビンを抑えている二人の姿があった。
 しかしアルビンの力が強いのか、耐えている状態にしか見えない。

「アルビン!! どうした? 何が起こってる?」

 おれの声に対し、アルビンからは返事が無く彼女たちの声だけが届く。

「ああぁ~!! アック様、大変なんですよぉぉぉ! アルビンさんが~!!」
「アックさま! アルビンのこの強さは普通じゃありませんわ! ど、どうすれば!?」

 声だけ聞いても二人の必死な防戦状態が分かる。
 いくら実力を上げていたとしても、普通の人間である彼が彼女たちを苦戦させるのはあり得ない。

 そうなると原因は――

「さっきまでドワーフも口うるさいミルシェも、人間を回復していたのだ」
「それまでは話をしていた?」
「ウニャ。苦しそうにしてても元気だったのだ! それが急に暴れ出して止まらなくなってしまったのだ……あの人間、アックと仲いい人間。戦うに戦えない相手なのだ……」

 ついさっき……ということはデーモンを沈めた直後か。
 アルビンは胸の辺りでまともに攻撃を喰らっていた。

 考えられるとしたら憑依的な何かだ。
 とりあえず、

「シーニャはおれがいた所で扉の様子を見ててくれるか? アルビンはおれが何とかするから」
「分かったのだ!」

 黒色扉から目を離してしまったが、また何が起きるか不明だ。
 手の空いているシーニャに見ててもらう方がいい。

 そして問題はアルビンへの対処だが、彼は正気を失っている。
 手負いが完全に回復していない状態での暴走となると、やり合うのは危険だ。

「ルティ、ミルシェ! 何とかこっちに来れるか?」

 ここの通路は両側に鉄格子があって、それほど広くない。
 しかし防戦一方な彼女たちでも、こちらに避けて来るくらいは出来るはずだ。
 
「だっ、駄目ですわ! この男、アルビンは声を全く発しないですけど、動きが早すぎてこの場から抜け出せそうにありませんわ」
「はひぃぃぃ!! アック様、アック様ぁぁぁ!」

 アルビンの意識は無いようだが、その場に留めておこうとする意思が残っているのか。
 彼を傷つけまいとしながらの防戦。それだとさすがに苦戦必至だ。

「おれがそっちへ行く! すぐに解放するから耐えててくれ!」

 油断による手負いだったとはいえ、アルビンの精神を乗っ取っての強化。
 デーモン族が帝国と関係あるかは不明だが、厄介な状況であることは間違いない。

 アルビンと彼女たちのいる位置は十数歩程度。
 やろうと思えば駆け抜けて行くだけで勝負はつく。

 乗っ取られて強化された彼を大人しくさせ、正気に戻すとすれば解呪系の技しかない。

「……ふわぁぁ。あれ? イスティさま。まだダンジョンに着かないなの?」
「フィーサ!? 寝てたのか……いや、それよりも――」
「ふふーん! なるほどなの! 騎士はきっと畏怖心を抱いたことで、悪魔に従っているに違いないなの! わらわが何とかするなの!」

 本当に眠っていたかはさておき、すぐに状況を理解してくれた。

「それなら頼むよ、フィーサ!」
「任せるなのっ!」
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