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第二十章:畏怖

402.リシェン開架書庫・LBF

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 アルビンの協力のもと、おれたちは黒門を通り抜けて市街地を歩いている。
 最初にいた地区とは打って変わり、そこには多数の人間や家屋、それに商店があった。

 騎士の姿をした彼を先頭に歩いていたが、おれたちの中でも特にシーニャはかなり注目を集めた。
 ミルシェやルティは、見た目だけならその辺の人間と何も変わりは無い。

 しかしシーニャは色々と隠しようが無かった。
 虎耳と尻尾はともかく、黒一色の装束は黒門の存在以上に目立っている。

「ウニャ……人間の視線が気になるのだ」

 フィーサは剣の姿に戻り、腰にぶら下げた魔剣の隣で大人しくなった。
 先頭はアルビン、おれは最後列。

 彼女たちはその間を進んでいるがそれにもかかわらず、シーニャだけがさらされている状態だ。
 
「アルビン。どこまで歩くつもりなんだ?」
「もうすぐ目的地に着く。なに、心配するな! ここの人間たちは外の来訪者を物珍しく見ているに過ぎぬ。襲って来ることもないし、危険なことにもなることはない」

 シンザ帝国内のリシェンという街はかなり広く、人口密度も相当なもの。
 帝国に暮らす人間はおれたちのような外の"客"を見る機会が、ほとんど無いらしい。

 それを考えると旧グライスエンドの戦闘魔導士たちは、市街地には入れなかったということになる。
 
(ちっ、スフィーダめ。初めから彼らを見殺しにするつもりだったのか)

 水に流さなければ彼らがどうなっていたか。
 ウルティモたちが来なければ、処遇がどうなるか分からなかったかもしれない。

「アック様、アック様! 聞いてもいいですかっ?」
「どうした、ルティ?」

 市街地の通りを歩いているだけだが、ルティだけ元気だ。
 シーニャは恥ずかしがっているし、ミルシェは表情を変えずに淡々と歩き続けている。

「お腹が空きませんか? ぜひぜひどこかで料理を振る舞いたいですっ!」
「……いや、それはまだお預けだ。まずはアルビンの案内に従って動く必要がある」
「ええぇぇ、そんなぁぁ……」

 何かと思えばお手製料理がしたくなっただけらしい。

「アック。着いたぞ! リシェン開架書庫だ」

 そうこうしているうちに、アルビンが手招きをしていた。
 どうやら皇帝のもとへ行くに着いたらしい。

 おれたちはすぐに巨大建築である書庫に入り、アルビンを後ろにつかせた。
 中に入るとそこはロビーがあり、そのすぐ近くには食事をするテーブルなどがあった。

「ここはどういう構造なんだ?」
「まず今いるのはロビー階だな。食事も出来るし人も多くいる場所だ。上に上がると一階になるが……、上はただの書庫に過ぎん」
「それにしては自由に書物を手に取っているようだけど?」

 外観で判断すれば、かなり厳重な図書館のように思える。
 しかしロビーの雰囲気を見ると、何とも拍子抜けだ。

「さすがだな! ここは開架書庫といってな、特に許可も要らずに本を手に出来る所だ。普通なら皇帝の許可が必要になるが、帝国の皇帝は書物に関心が無いらしくてな。だからこそ見つけられたわけだが」

 ――なるほど。
 ここに何かの秘密が隠されているわけか。

「フフッ。アルビンの言うとおり、足下から気配を感じますわ」
「そうなのか? ここですでに感知を?」
「ええ。剣の小娘もそうなのでは?」

 チラッとフィーサを気にするも、彼女は沈黙している。
 ここに人が多くいることを察して、口を開かないようにしているようだ。

「アック様~、何か食べませんかっ?」
「ウニャ、シーニャはお肉がいいのだ!」
「……アルビン、少しだけいいか?」

 彼は時間が無いと言って案内をしてくれた。
 それなのにここに来てのんびりとさせてしまうのは……。

「その方がいいだろう。話しておくが、書庫の地下は魔物が巣食うダンジョンだ。力を発揮するにしても、腹ごしらえは大事だろうな」

 すでに知っていての態度らしい。
 もっとも彼の場合、深くまで行かずに様子見で終わった可能性が高いが。

 せっかく自由に書物を見れることだ。
 帝国のことを調べてから地下へと進むことにする。

「アック様~! こっちですよ~! こっちに座ってくださーい」
「ウニャゥ~!! アック、隣に座るのだ~!」

 休けいがてら、まずは食事してそれからだ。
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