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第二十章:畏怖
399.迷いの騎士との交え
しおりを挟むスフィーダが慌てる客ということは。
得体の知れない敵、あるいは予定していた敵か。
「あの男は放っておいても問題ありませんわ。それよりもアックさま。お気付きですわよね?」
「……まぁな」
「あたしたちは問題ありませんけれど、問題はルティですわね」
「属性の相性はどうしようもないけどな」
ミルシェとフィーサが姿を見せた黒門周辺。
よくよく探ると、このエリアは闇属性でまみれていることが分かった。
黒門と向こうに見える黒門。
ここは闇耐性が弱ければ心が蝕まれるといった、特別なフィールドらしい。
ミルシェが心配しているのは、闇属性とは無縁のルティの状態についてだ。
「ルティ! こっちに来てくれないか?」
おれを含め、シーニャ、フィーサ、ミルシェは闇属性が強い。それだけにルティの精神状態が気にかかるわけだが。
「はいっ! 何でしょう~?」
呼ばれたルティがすぐにやって来た。
見た感じいつもと変わっていないが……。
「何かおかしなことは無いか?」
「はぇ? あぁ! 黒門の裏にいた辺りからですけど、無性に戦いたくてたまらなくなってまして~。アック様、良かったら私と一戦交えてくれませんかっ?」
「……戦いたいのか?」
「ぜひぜひっ!!」
性格は元々こんな感じだし、何かが変わったようには見えない。
しかし自ら戦いを望むのは変だ。しかもおれに対して挑んで来るのは。
「アックさま。普通なら精神的に来そうですけれど、この子は違う方向に向いたのでは?」
「……かもな。ミルシェは何とも無いんだよな?」
「当然ですわ」
幸いにして黒門街区であるこの場所にはひと気が無い。
戦闘特区になっていた所でもあるし、ルティを暴れさせるにはちょうどいいと言える。
「あっ! アック様、向こうの黒門で誰かが剣を手にしてますよっ! きっと敵です! 行って来ますよー!!」
「こ、こらっ――」
拳をぶんぶんと振り回しながら、ルティは向こう側の黒門に向かって走って行ってしまった。
どれだけ戦闘したいのか。
「ウニャ? ドワーフはどうしちゃったのだ? ものすごい勢いで走って行ったのだ……」
シーニャが不思議がるほど異様なテンションのようだ。
やはり闇属性が関係しているか。
「シーニャ。ルティの暴走を止めてくれるか?」
「ドワーフと戦えばいいのだ?」
「そうだな、ルティが戦っている相手ではなくルティを止めてくれ」
「分かったのだ! ウニャッ」
ルティはすでに向こうの黒門に到達。すぐさま剣を手にしている相手に殴りかかっている。
敵かどうかはここからでは判断出来ないが、戦いを誘発されて剣を振っているようだ。
「イスティさま、わらわたちも行くなの?」
「もちろん行くよ。ルティが心配だからね」
「小娘が戦いたいならそのままでもいいような気がするなの。でもでも、何とも言えない気配が漂っている感じがするなの」
ルティ以外の彼女たちに変化は無い。
そうなるとルティだけが興奮状態になってしまったと考えるべきだろうか。
向こう側まで大して離れてもいなかったので、おれたちもルティがいる所に追いついた。
「ぬぅぅっ……! ドワーフの娘がこれほどまで強いとは……くっ!」
ルティの拳をかろうじて防いでいる騎士の姿があった。
騎士の顔はどう見ても――
「アックさま。あの騎士……とても見覚えがありますけれど。アックさまもそうなのでは?」
「しょっちゅう遭遇してる。レイウルム半島で別れたきりだが……」
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旧グライスエンドから来た形跡が無いのに、どこからシンザ帝国に来れたのか。
様子を見る限り彼も正気のように見えるが。
「やあぁぁぁぁぁっ!! 敵は許しませんよぉぉぉ!」
「ま、待てっ、ドワーフの娘。俺がいるべき場所はここでは無い。拳をおさめてくれ!」
ルティの攻撃はまともに当たっていないが、無理やりにでも止めてアルビンを助けるべきだろうか。
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