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第二十章:畏怖

398.リシェン黒門街区

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 ウルティモに加えサンフィアが来てたことに驚いたが、彼らを見送って洞窟トンネルへ。
 
「物は試しだな。ルティ、避けるなよ?」
「はぇ?」

 石に触れただけでは効果が分からない。
 ――ということもあり、歩きながら試しに投げて確かめることにした。

 ルティに対し、ウルティモから託された丸い石をぶつけてみた。
 しかし――

「あのぅ……痛くも痒くもないですよ? アック様、その石って~?」
「何も起きてないんだな? お腹が空いたとか、体が熱いとかそういうのは無いんだよな?」
「それはもう!」
「…………」

 見た感じおかしなところは見られない。
 丸い石を渡された時に言われたのは確か、「困っている相手に投げつければいい」だった。

 それを考えると、ルティはもちろんシーニャに投げても変化しないということになる。
 この先においてそういう相手に出会う……ということなのだろうか。

「ウニャ、アック! もうすぐ外に出るのだ」
「……ん、そうか」
「フィーサが待っているところに行くのだ?」
「ミルシェもな。トンネルを抜ければ、目印となる黒門が見えるはずだ」

 丸い石を含め、サンフィアの魔石も使うことが無ければいいが。

「フギャニャッ!?」
「どうした?」
「先に進もうとしたら何かにぶつかったのだ。何なのだ!?」

 洞窟トンネルを抜け外に出ようとしたら、そこには壁が出来ていた。
 戻る前はスムーズに移動出来たはずだったが……。

「はぇ? 壁が出来てるんですか~?」
「そうみたいだな」
「ではでは、私が破壊しましょう!」
「ちょっと待った。この壁……黒いよな?」

 薄暗いトンネルの内側から見ているので何とも言えない。だが確かに黒い壁のような。

「ウニャ、真っ黒いのだ」

 シーニャも壁の色が黒ということを認識しているようだ。

「……もしかしてこれが黒門か? ルティはどう見えてる?」
「ふおぉぉぉ……! 私はいつでも拳を出せますよぉぉ」
「だから落ち着けって!」

 油断も隙も無い。
 もしこれがスフィーダのいう黒門だとすれば、ミルシェたちは向こう側にいることになる。

「壁だけで何も無いのだ。どうやって行くのだ?」
「うーん……」

 真横ではルティが拳を突こうとしているが、ここは恐らく――
 そう思っていると、黒い壁だと思っていた所から何かが動いた。

「あら? アックさまじゃありませんか!」
「ミルシェ! え、どこから入ったんだ? 壁にしか見えないぞ?」
「あぁ、それでしたらこちら側に来れば謎が解けますわよ?」

 洞窟トンネルを抜けようとしたところで、おれたちは黒い壁に阻まれた。
 戻る前は戦闘特区として見えていたのどかな田園風景。 

 しかしミルシェの後をついて歩き、後ろを振り返るとそこには黒門があった。

「トンネル側が裏側だったのか……」
「ええ。アックさまたちが戻った後、侵入者を防ぐ為の黒門が現れましたわ。戦闘魔導士たちが残っていた時は隠していたようですけれど」

 ――リシェン黒門街区。
 黒門を背にして、前方に続いているのは敷き詰められた敷石が細長く続く一本道。

 一本道の先にはまた別の黒門が見えているが……。

「じゃ、じゃあ、牛さんはいないんですか~?」
「そんなのは初めからいないわ」
「そんなぁぁぁ」

 ルティだけは相変わらずだ。
 
「スフィーダの姿が無いな。フィーサがついているのか?」

 道化師スフィーダを見張っていたはずだったが、奴の姿が無い。
 信用出来ないあの男から、目を離すわけには行かないと思っていたのだが。

「……小娘ならずっとアックさまの後ろに立っていますわよ」
「えっ?」

 黒門の表側……といっても、中央部分に扉が見えるだけで特段変わったところは無い。
 そんなところにずっといたのか、フィーサがムスッとした状態で立っていた。

「遅い、遅すぎるなの!! イスティさまは、いつもいつもいつもーー!」
「ご、ごめん」
「何をしていたかなんて聞いてあげないなの!!」

 どうやら相当長い時間ここで待っていたようだ。
 人の気配がまるで無いが、何も問題は起きなかったということか。

「落ち着くのだ、フィーサ」
「む、むむむ……シーニャになぐさめられたなんて微妙過ぎるなの……」
「ではでは私もなぐさめを~」
「小娘はあっちへ行け! なのっ!」
「ええぇぇ~」
 
 怒りまくっていたフィーサだったが、シーニャたちによって落ち着いたらしい。
 それはそうと――

「ところでスフィーダはどこにいるんだ?」
「あの男でしたら、客が来たとかで慌てて皇帝の所に行きましたわ」
「……客?」
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