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第十九章:帝国の望み
393.シンザ帝国:戦闘誘発特区(3)
しおりを挟む「お待たせ、ベイジル!」
「――カミラ! た、助かった……」
どんな無属性魔法を繰り出すのか――と、期待していたら魔導士の女が戻って来た。
確かもう一人いる仲間のところに加勢しに行っていたはずだが。
「何であいつ魔法壁を破ってるの……? あれはそう簡単に破れるものじゃないのに」
「拳で崩された……まずい相手だ。だけど準備は出来た。いつでも出来る……」
ローブ姿の二人がおれを見ながら、様子をうかがっている。
無属性を放てる奴は彼女を待っていたようだ。
「魔法で攻撃して来ないのか? 来ないなら……」
シンザ帝国内で戦闘に誘われたまではいい。
しかしこんな入り口付近で遊んだところで意味は無いはず。
「いいわ、ベイジル! 今っ――!」
「くらえ! 《エナジー・ティルト》だ!」
(この魔法は確か――!)
記憶が正しければ、一見すると無属性の黒い影……これは爆発を起こす魔法。
分かりやすい球体をさせ、黒い影を地面に這わせて波状攻撃させる魔法のはずだ。
(確かザルクとかいう魔導士の魔法だったか)
「仲間の敵討ちか」
一度くらった魔法攻撃をもう一度繰り出されても、ダメージを負うことは無い。
「ザルクは力を過信しただけだわ! これは私たちの意地! やって、ベイジル」
「はぁぁぁっ……アック・イスティ。お前を影に落とす!」
ベイジルと呼ばれている魔導士は地面を這う影を増幅させるつもりなのか、魔力を込めた手の平を地面に振り下ろした。
単なる衝撃波を生み出す魔法では無く、影を強めて影に攻撃させるつもりのようだ。
「……なるほど。連携強化で完成させる魔法か」
意思を持ったかのように影は黒みを色濃くさせ、おれの眼前で顕現し始めた。
魔力強化をされているおかげか、影から感じる魔力はかなりのものだ。
「影にのまれて無に落ちろ!!」
増幅して膨れ上がった影がおれに倒れ込んで来る。
――斬るか、それとも受けたうえで消滅させるか……。
寸前までどうするか迷っていると、おれの前にフィーサが割り込んで来た。
人化フィーサでは魔法剣としてのスキルは使えないはず。
「イスティさま。この影……わらわが全て喰らっていい?」
「喰らう……って、どうするつもりなんだ? その姿では――」
「見てて!」
剣の姿ではなく、人化したままのフィーサ。
そんな彼女の形態変化した姿を見るのは初めてかもしれない。
フィーサの両腕が鋭利な刃に変化している。この姿から感じられるのは、全身全て凶器であるということだ。その姿となっている間に、影はおれたちを覆い尽くしていた。
「……っ!」
視界全てが影、闇に包まれたかに思えた。
しかし、フィーサの姿がどこにも見えない……そう思っていた次の瞬間。
ビシッ、とした音とともに影全体がひび割れたような気がした。
「無の力は全て、全て……全て――わらわのモノとなる……」
フィーサの連呼する声からは不安定な力を感じた。
神剣にしては闇深い、そんな気配。
その直後、視界がひらけた。
――とはいえ、魔導士たちとは見えない壁があるのか彼らには気付かれていない。
「フィーサ……? 今のは――」
まさかと思うが、魔剣以上の魔を備えてしまったのか。無属性の影を全部吸収するとは思わなかった。神剣だからと光に満ち溢れた剣だとばかり思っていたが、実は闇が強いのか。
「イスティさま。驚いた?」
「いや……影は君の中にあるのか?」
「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるなの。イスティさまにはこの力をいずれ見せなきゃって思っていたから、丁度良かったなの!」
正しき光の神剣では無く、影をものみこめる闇の剣……だったようだ。
「その力は誰も知らないのか?」
「シーニャには一部を見せてあるなの。虎娘も闇が強いから問題無かったなの」
いつの間に見せていたのやら。
影にのみ込まれたあとにどうやって出ようか考えていたが、フィーサに取られてしまったか。
「なるほどな」
「イスティさまには、影なんかより人間相手に思いきり戦って欲しいなの! ファイトなの!」
「……そうするよ」
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