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第十九章:帝国の望み
390.シンザ帝国:戦闘誘発特区(0)
しおりを挟むザーム共和国と交渉決裂したとされるシンザ帝国。
道化師スフィーダに案内され、おれたちはそのシンザ帝国に入った。
「どうだい? のどかなもんだろう?」
入ってすぐ襲撃されるはず――と期待していた。
だが何かが起きる気配を感じないほど、のどかな田園風景が広がっている。
農地に水を汲み上げる水車、自然に放たれた家畜。
帝国が広大な土地にあると聞いていたが、拍子抜けもいいところだ。
「おおぉー!! アック様っ! ここならたくさん草が育ちそうですよっ!」
やはりというべきか、ルティだけが興奮状態。
落ち着いたシーニャとフィーサ、ミルシェはつまらなそうに周辺を眺めている。
「洞窟トンネル前で言ってた戦闘魔導士ってのは、どこにいるんだ?」
「ハハハッ……、彼らもバカじゃない。早々に姿を見せるなんて、そんなに愚かじゃないよ」
味方としてみても嫌味な奴だ。しかしルティはともかく、彼女たちも気付いているはず。一見すると確かにのどかな風景だ。
だがこの景色には違和感がある気がしてならない。ミルシェにでも耳打ちして様子を見てみるか。
「……ミルシェは気付いてるよな?」
「ええ、まぁ。ですけれど、アックさまはルティのことも注意して見るべきですわ。いくら何でも、あの子だって何の警戒も無く近付くわけがありませんわ」
やはりミルシェは、のどかな風景に疑いを持っていた。ルティもそうらしいが、とてもそうは見えないほどはしゃいでいる。
「水に近付いて、何かが起きることを見越してるとでも?」
ルティには魔力感知が無い。精霊竜を宿してからも、状態スキルに変化があったように見えなかった。うかつに近付いて何かあっても遅いのではないだろうか。
「……ま、まぁ、何かが起きてもあの子なら問題は無いと思いますけれど……」
どうやらミルシェも自信が無いらしい。
「ウニャ、ウニャゥ……」
ミルシェと話をしていたら、ぐいぐいと腕を引っ張られた。
やきもちで掴まれたかと思ったが、何か言いたげなシーニャの顔が目の前にあった。
「ど、どうした?」
「アック、シーニャをおんぶして欲しいのだ……」
何とも素早い動きだったが、ここに来て甘えたくなったのか。特に断る理由は無いので、少しかがんで背中を見せた。
待ち望んでいたのかシーニャは勢いよく、おれの背中にくっついた。
「よしよし……寂しくなったんだな」
「違うのだ。アックに耳打ちするのはこれが一番いいのだ」
「耳打ち?」
ミルシェとフィーサを見ると、ルティがいる場所に警戒をしている。彼女たちを気にしていたら、ウニャウニャと耳元から聞こえて来た。
「……! この姿勢のままで突っ込みを?」
「ウニャ。ドワーフが素早く動けるとは思えないのだ。シーニャがやればすぐ終わるのだ」
シーニャの耳打ちの内容はこうだ。
ルティが立っている畑はカモフラージュで、そこに見える農民も実体は無い。もしルティが近づけば、その時点で何らかの魔法が発動する。
発動魔法がどんなものかはまだ不明だ。だが、それを誘発の合図とするのは間違いないという。
要するにルティの動き次第で、状況が一変することを意味する。
違和感に気付いているのかいないのか。
「全てルティ次第か……」
フィーサなら人化状態でも魔力感知が可能だ。それに気づいていても動こうとしないのは、そういうことらしい。
「ああぁ、アック・イスティくん。君に聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
警戒と緊張が走る中、空気の読めないスフィーダが口を開く。
むしろ気付いていて話を始めようとしているとしたら、こいつも面倒なままだ。
「――腹なら空いてない」
「それは何より。君は魔法と拳……剣術。どれが戦いやすいのかな?」
ここでそんなことを聞いて来るということは、それ次第か。
「……さぁな。試してみたらどうだ?」
「そう言うと思ったよ。それじゃあ、あの子からそうさせてもらうとするよ」
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