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第十九章:帝国の望み

388.宮廷道化師のいたずら

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 精霊魔法により扉が開いたことで、誰よりも先にシーニャとルティが先に行ってしまった。扉の中は洞窟トンネルになっていて、向かい風が吹いている。

 勢い任せで二人が先行したが、彼女たちはすぐに戻って来た。

「だ、駄目です~……行けませぇん~」
「ウニャニャ……アックに何とかして欲しいのだ」

 ルティもシーニャも、全身をガタガタと震わせて寒そうにしている。
 シーニャに至っては顔中が濡れてしまったのか、体をブルブルと動かしまくりだ。

 どこまで進んだか分からないが、この先は極寒の地なのだろうか。

「ん? 何か問題があったのか?」

 進行方向から風が来ているということは、行き止まりなはずが無い。
 そもそも帝国へ繋がる魔法扉だったわけだし、どこかに出るのは確かのはず。

「吹雪が酷くて、とてもじゃないけど前に進めないです~……」

 寒さに弱いルティは仕方が無いとして、シーニャまでもが弱音を吐くのは珍しい。
 やはり未開の地に進む時は全員で行くのが良さそうだ。

「アックさま。魔法が関係しているとしたら、あたくしたちが先に進んだ方がよろしいのでは?」
「んー……関係は分からないけど、魔法耐性を考えたらそうした方がいいかもな」

 ミルシェは氷属性を好まないが、耐性はそれなりだ。
 自然の脅威に関係無い人選で先へ進むか。

 フィーサには人化したままにしてもらって、進むことにする。

「あっ、アックさまっ! お避けになった方が!」
「んっ――?」

 ミルシェから注意を促されたものの、いきなりすぎて反応出来なかった。
 背中から聞こえて来たのは、ぼふっ、とした音だ。

 しかも気のせいか濡れている。
 
「ウニャウニャウゥ……濡れてて気持ちが悪いのだ」
「……何だ、シーニャか」
「顔中の毛が濡れて乾かないのだ……何とかして欲しいのだ」
「水分がまとわりついてるのか。どれどれ……」

 背中に体当たりして来たシーニャを離し、彼女の顔を正面から見てみた。
 確かにヒゲや虎耳も含めた顔一面がずぶ濡れ状態になっていて、乾くのに時間がかかりそうだ。

「取れないのだ、取れないのだ!」

 ただの水なら放っておいても問題無いが、魔法によるものなら厄介なことになる。これに関してはミルシェやフィーサが詳しいので、彼女たちに見てもらうことにした。
 
「……あら? これは……!」
「シーニャの顔から魔力を感じるなの。ただの吹雪じゃなかった予感がするなの。イスティさまはシーニャの顔を撫でて見れば分かるなの!」

 魔力感知に関してはフィーサの方が優れている。
 彼女に従ってシーニャの顔を撫でてみることにした。

「フニャウゥ~くすぐったいのだ。でもちょっとだけマシになって来た気がするのだ」

 治療的なものは基本的に出来ないが、火属性を手に宿して撫でることは出来る。
 それが効いたのか不明ながらも、シーニャの顔の一部が少しずつ乾いて来た。

「アック様、アック様っっ! わたしもお願いしますですっ!」
「何だ、ルティ。お前も顔が濡れてたのか?」
「……とにかくお願いしますっ!」

 シーニャは騒いでいたが、ルティは何ともなかったはず。
 それなのに時間差で水が出るものなのか。そう思いながらルティの顔を撫でたが……。

「んん? 特に何とも無さそうな……」

 ルティの顔には水に濡れた感じでは無いが、せいぜい汗を掻いてるくらい。頬から額……ついでに前髪くらいまで撫でたものの、全く問題は無さそうに見える。

「えへへへ……アック様からの愛情を感じますです」
「…………」

 甘やかしてる余裕は無かったが、今回はそのままにしといた。

「マスタァ!! 何をサボっているなの! シーニャを何とかしないとまずいことになるなの!!」
「アックさま……。そういうのは時と場合がありますわよ? 今はそれどころではありませんわ!」

 ルティにしていたことを、他の彼女たちは冷めた眼差しで見ていたようだ。
 シーニャの様子を見てみると震えは収まっているが、元気が無いように見える。

「シーニャ、大丈夫か?」
「ウゥニャ……変なのだ、おかしいのだ……魔法が使える感じがしないのだ……」
「魔法が?」

 ルティは魔力が無いから問題になっていない。
 だがシーニャは回復が使えるだけの魔力があって、時々使うことがある。

 吹雪に何らかの封じ魔法が含まれていたとすれば、思いきり影響を受けたことになるが……。

「――アハハハ! それは《サイレントストーム》を受けたからさ! ようやく会えたね、アック・イスティくん!」

 シーニャを心配していたおれたちの前に、いけ好かない奴が洞窟トンネルから姿を見せた。
 迎えに来ると言っていたが、やはりこいつの仕業か。
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