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第十九章:帝国の望み

385.入国の条件

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「ファイトーファイトー!! アック様~!」
「アックなら出来るはずなのだ! ウニャッ」

 ルティとシーニャが離れた所から声援を送っている。
 彼女たちの共通点は、魔法を放つことが出来ないこと。シーニャは回復メイン、ルティは魔法不可。

 そしておれのすぐ近くには、ミルシェと人化したフィーサが控えている。
 二人にはおれが試し撃ちしてからやってもらうことにした。

「わらわなら余裕なの!」
「よく言うわね、ずっと隠れていた小娘の分際で……」
「ま、まぁ、フィーサも寂しかったわけだし、みんな揃ったから許してやってくれないか?」
「お甘いことですわね。それに魔法でしたら、小娘にも引けは取りませんわ!」

 さかのぼること三十分前。

 魔石の名前が見当たらなかったフィーサだったが、彼女はずっとおれの背中に魔石ごと隠れていた。
 ミルシェはイデアベルクで呪術騒ぎがあった時に気付いていたらしく、放置していたらしい。

 隠し事はずばり、おれにばれないようにしてこっそり魔石の中に隠れていたことだった。
 
 長いこと剣の姿で生きて来たフィーサは、自由自在に形や大きさを変えることが出来るということを、誰にも教えずにここまで来たようだ。

 しばらく一人でイデアベルク居住区で眠っていたらしかったが、飽きておれにくっついていたらしい。

「イスティさまってば、魔剣ばかりひいきして使ってばかり……わらわにだって使い道はたくさんあるなの!!」

 確かにフィーサの言うとおり、魔剣ルストばかり使って来ている。
 魔剣の場合魔力を必要としない剣ということもあり、斬撃がしやすい利点があった。

 フィーサは基本的に魔法剣として使うことが多い。
 それだけに、最近はその機会があまり無かったのが影響していた。

 そしてその機会の予感があったらしく、隠れるのをやめたらしい。

「――アックさん。ガチャによりお味方は揃われましたでしょうか?」

 ミルシェのすぐ後にフィーサが姿を現わした。
 そのタイミングで、ピティラスが声をかけて来た。どうやらフィーサのこともお見通しだったようだ。

 ――そして、すぐ後。
 教会の隠し扉から奥に進んだおれたちを阻んだのは、魔法扉だった。

「ワタクシとドワーフの少女はお先に行かせて頂きます。皇帝にお伝えせねばなりません……」
「あんたらが戻って来るまで、ここで待てばいいんだな?」

 特に抵抗の無いドワーフの少女は、ピティラスに付き従っている。
 ドワーフが帝国へ行く為の証という言葉は、間違いじゃなかったようだ。

 そうして扉を開けた彼女について行こうとすると、ピティラスが妙なことを言い出した。

「イイエ。ワタクシたちは入れますが……アックさん。アナタたちが帝国に入る為には条件をクリアしなければなりません……」
「条件?」
「宮廷道化師の言葉を覚えていませんでしょうか?」

 宮廷道化師……かつてグライスエンドを攻略していた時、無関係な男が戦いを挑んで来た。
 教会で戦った後、スフィーダという男は去り際におれを帝国に勝手に招待。

 帝国に行くには、ドワーフに聞けば分かるとか魔法を放てば迎えに来るとか言っていたわけだが……。

「ドワーフはその子で合ってるんだよな?」
「そうでございます」
「魔法を放てば迎えに来るってのは?」
「ワタクシたちが扉を閉めた後、アックさんが魔法を放ち認められれば扉は開き、迎えが来ることでしょう」

 迎えを寄こすということは、あの男だろうか。
 魔法を扉に放つという条件がよく分からないし、面倒なことをさせられるわけだが。

「魔法の実力、強さ、正確性……全てを命中させれば、開かれましょう! それでは、帝国でお待ちしています……」
「…………魔法、魔法……当てる、当たる」

 案内するだけして、二人は扉を閉ざした。
 ピティラスとドワーフの少女がいなくなったことで、ルティが張り切って動き出す。
 
「アック様、ここから入ればいいんですね? お先に行きますよぉ~!」
「あっ、待てっ――!」

 閉じられた扉はさっきまで手をかける所があった。
 それが無くなっている状態だったが、ルティがお構いなしに強引にこじ開けようと手を近付ける。

「ふんぎゃぁぁぁ!? し、痺れがあぁぁぁ……」

 閉ざされる前の扉は、何の模様も特徴も無かった。
 だが閉ざされた直後に、見たことの無い模様に変わっていて扉の形状も変化していた。

 そして力を込めただけのルティでは開けられないという事実を、目の当たりにしたのである。

「……魔法以外では開かない仕掛けが施されていますわ」
「なるほど、どうりで」
「わらわと、イスティさま。それと年増のミルシェでやるしかないなの!」
「――年増じゃないわ、小娘!!」

 どうやら攻撃性の魔法が使える三人でやるしか無さそうだ。

「ファイトーですよー!」
「ウニャー!」
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