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第十九章:帝国の望み

380.隠れドワーフの生き残り

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「よしておくとしましょう。もとよりワタクシは、あなたさまのお力がどこまで上がっていたかを確かめたかっただけですから」

 やはりそうだった。ヴァンピール族とつるんでいた割には、助けるそぶりをまるで見せなかった。ヴィレムに協力していたようでそうでは無かったようだ。

「――本当の目的はおれか?」

 頷きも見せないピティラスは、森の奥の方を気にしているだけでこちらに見向きもしない。
 かつてのグライスエンドに何が残っているというのか。

 ピティラスと名乗るこの女の狙いが分からず悩んでいると、二人が戻って来た。

「ウニャ、もう戦わないのだ? あの女は何なのだ?」
「アック様アック様、あれ? 戦いはどうなったんです?」
「敵かどうか……、そこにいるだけでどうなるか分からないな」

 呪術をかけた者がすぐそこにいる。それなのに、おれの返事に対し答えが返って来ない。森の奥の何を気にしているのかさっぱりだ。

「ウニャニャ……さっぱり分からないのだ」

 シーニャと同様におれも首をかしげるばかりで、どう話を進めればいいのか見当がつかない。

「ルティ。森の奥に何があると思う?」
「はぇ? 向こう側って、確か教会がありませんでしたっけ?」
「教会……そういや――よく分かんない奴と戦った気がするな」

 よく思い出せないが、そのことなのかとピティラスに近付こうとすると、すでに姿は無く、森の奥に向かって歩き出しているようだ。

「あれれ? どこかに向かってますよ? どこに行くんでしょうか?」

 どう考えても、教会に来いと言われているようなものだろう。

「罠なのだ! そうに決まっているのだ」
「ん~……このまま帰るわけにも行かないし、罠に引っかかるしかないかもしれないな」

 心配そうな表情を浮かべるシーニャに対し、ルティは――

「アック様アック様~! 小さな小屋ですよ! 何かあるかもしれないですよ~」

 どういうわけかいくつかある小屋に近寄って、何かを探しているようだった。

「……アック、ドワーフは放っておいて罠に引っかかりに行くのだ! あんなのをいちいち気にしてたら駄目なのだ! ウニャッ」

 シーニャの言うとおり、毎度のことながらルティが気にしていることに注意しても大したものは得られないと思われるが、小さな小屋のことは何となく気になる。

 小屋もそうだが、ピティラスが向かった先も気にしなければならない。
 優先すべきは教会があるとされる場所へ向かうことだ。

「しょうがない、シーニャもルティの遊びに付き合ってやってくれ」
「アックはドワーフに甘すぎるのだ……」

 そう言いながらも、一人で教会に向かおうとせずに素直に言うことを聞いてくれた。ヴィレムとの戦いでデバフを喰らいまくった反省なのか、シーニャが大人しくなった気がする。

 小さな小屋は岩にくっついている作りになっていて、出入り口は扉では無く岩の隙間を通って入るようだ。興味を示すルティじゃないが、何かが潜んでいそうな気配がある。

「いました、いましたよーー!! アック様、アック様ー! 入口がありますよぉぉ!」

 シーニャと一緒に同じ所を見て回っていたら、ルティの甲高い声が聞こえて来た。

「ドワーフはいちいちうるさいのだ」
「ま、まぁまぁ。とにかく行ってみようか」

 ぶんぶんと手を振り回しながら、ルティがおれたちを呼んでいる。
 見ていた小屋から少し離れた岩の窪みに、それらしき入り口が見えた。

 一体何の穴かと思っていると、そこから姿を見せたのはどう見ても――

「ドワーフが小さなドワーフを見つけたのだ!!」

 小さな小屋からでは無く岩の窪みからになるが、ルティに手を握られて姿を現わしたのは、小柄なドワーフの少女だった。

(小屋はカモフラージュだったのか)

 何故人のいなくなったグライスエンドに棲みついていたのか、それが気になるところだが。

「アック様、思い出しました! きっとこの子がそうなんじゃないですか?」
「うん? 何が?」
「ですからぁ、教会で面倒な敵と戦ったじゃないですか~! その敵が言っていたドワーフがこの子なんですよ、きっと!」
「…………んん?」

 ルティの方が良く覚えているようだが、おれには全く思い出すことが出来ない。

 怯えているでも無いドワーフの少女はルティのような赤毛では無く、灰色の髪をしている。各地にいると言われるドワーフとはまた違った特徴だ。

「教会、教会……魔法、魔法を使う、使う……」

 口が利けないかと思えば、何か同じことを呟いているように聞こえる。

「アック様、教会ですよきっと!」
「罠に決まっているのだ」

 先にいなくなったピティラスのこともあるし、教会に向かうしか無さそうだ。
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