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第十八章:遺物の導き

376.アンデッド上位種の反攻 【南3】

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「ま、まずい……、シーニャ!! 攻撃を今すぐ止めるんだっ!」

 シーニャの一撃の強さと素早さに疑いは無く、どんな敵でも問題無い。
 だが――

「フーフウゥゥー……ハァッハァッ、ウ、ウニャ……」

 おれの呼びかけはすでに遅く、シーニャは息を大きく乱し始めていた。攻撃を受け続けていたヴィレムは一見するとダメージを負っているように見える。

 しかし、奴から聞こえて来るのは不快な笑い声のみだ。攻撃したシーニャが弱っているということは、奴が何かしたということに間違いない。

 そうなるとここはひとまず、シーニャを下がらせる必要がある。そう思いながら彼女に近付こうとすると、奴が動きを見せて来た。

 その動きに素早さは感じられないが、がおかしい。
 
「ひーひひひひひひっ!! 獣は単純でいいぜぇ~! そう思うだろぉ? アック・イスティさんよぉ」

 ヴィレムに注意を払いながらシーニャを見ると、どう見てもさっきまで攻撃をし続けていた姿には見えないほど弱々しいものとなっている。

「シーニャに何をした?」

 ヴィレムの姿にこれといった変化は見られない。しかし奴から感じる魔力のよどみは、遭遇当初よりも極端におかしなものとなっている。
 
「何にもしてねえよ? 獣が勝手に動いて、勝手に弱くなった……それだけのことだろうぜ?」

 魔術師ヴィレムがしたことはまだつかみ切れていない。しかし奴が纏う空気の流れを探ると、人間から感じるではないような感じがある。

 ローブを着た何の変哲の無い魔術師――そう思っていたが、この男の気配はアンデッドの気配だ。

「では質問を変えるが、あんたはアンデッド……死霊術師か?」

 シーニャは暗礁域で何度もアンデッドと戦っている。アンデッドは物理攻撃に対しかなり脆いが、すぐに復活するという厄介な特性があった。

 ヴィレムから感じられるのは、その時戦ったアンデッドに近いものがある。

「クククッ!! フヒヒヒ……俺は人間だぜぇ? 死霊術師でもなければ、最弱なアンデッドでもねえ……アックさまはどう思う~?」

 少なくともラクル周辺で出遭った時は、間違いなく人間だった。だが今の気配はどう考えても、何かが混ざっている状態としか思えない。

 しかしここでくだらない答えを迷うよりも、もはや立ち上がることさえ困難になっているシーニャを傍に戻す必要がある。

「……すぐに答えを出してやる」

 すでに奴の関心はおれにあるのか、シーニャの付近に対し攻撃の意思は見られない。おれは試しの一撃を奴に向けながら、彼女の元に近づくことにした。

「――ヒヒヒヒッ、拳圧で俺に当てて来るとはやるねぇ! さすがアックさまだぜ~」

「大したことじゃないけどな。あんたの正体は彼女を回収してから聞いてやるよ!」

「それなら早いところお得意のバフを与えてやった方がいいぜぇ? そうじゃねえと、その獣は弱って行くだけだからなぁ!!」

 拳で圧縮した空気の塊を飛ばし、相手にぶつけて命中させた。空気の塊の重さは魔法による攻撃よりも遥かに重く、すぐに効果が表れるからだ。

 もっともこんなのは一撃必殺には程遠いものであって、敵にダメージを与えるものではない。今は一刻も早く奴からシーニャを引き離すだけに尽きる。

「……なるほど。弱体で反攻したわけか」

「アックさまのお得意な弱体だぜぇ? まぁ、俺のは《デバフ・ブラスト》って技だけどよぉ。勝手に攻撃して来て、知らずに弱体をその身に受けてるってこった! クククッ!」

 アンデッドに連続で攻撃を仕掛けたところで、致命的なダメージを与えることは難しい。それこそルティのように、粉砕の拳に何かのバフが加わっていない限りは。

 ともかく、まずはシーニャを回復させてからだ。

「……ウ、ウニャ。アック、アック……シーニャ、どうしたのだ?」
「もう大丈夫だ。シーニャに霊獣の守りを施したぞ。ここでゆっくりと体を休めててくれ」
「フニャ……分からないのだ。シーニャ、たくさん攻撃を当てたのだ……どうしてこんなことになってしまったのだ」
「大丈夫、大丈夫だぞ」

 奴が強いのではなく、シーニャの攻撃を上手い具合に吸収して弱体効果として返したに過ぎない。奴自身から感じられる強さの程は、それほどでも無いからだ。

 そうじゃなければ、強化を求めることなどあり得ないだろう。

「――相変わらず獣びいきなことだねぇ。俺も獣は好きなんだぜぇ? 何も考えずに突っ込んで来るだけのもんだからなぁ!」

「魔術師ヴィレム・バロシュ……半分人間で、半分アンデッドか。……いつからだ?」

「強いて言えば、強化を受けまくった辺りに人間をやめたカナァ……クク、俺は高位アンデッド……いや、アンデッドの頂点に位置するヴァンピールさぁ!」

 高位アンデッドを仕向けて来るとは、ザーム共和国も本気を出して来たということか。
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