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第十八章:遺物の導き
374.獣狩りの魔術師 【南1】
しおりを挟む「《おい、何をしてやがる!! 早く強化を俺に!》」
シーニャと南地区に入ってすぐのこと。
こちらの姿を捉えたと思しき人影が見えたと思っていたら、そこから慌てたような叫びが聞こえて来た。
南地区は建物が多いものの、他の町への玄関口となっている為に広い道になっている。よほど物陰に隠れなければ、どこに誰がいるのかすぐに分かる場所だ。
雪山トンネルの十字路地区よりも敵が多く残れる地形なわけだが、今の時点で姿がはっきり見えているのは声を張り上げている男のみで、他には見えない。
強化と聞こえたが、どうやら予想よりも早く現れてしまったということだろうか。
「ウニャ? アック、人間が一人しか見えないのだ。他にもいるのだ?」
シーニャも拍子抜けをしていて、何度も首をかしげている。その仕草に思わず撫でたくなりそうだが、今は戦闘に向けて神経を研ぎすまさなければならない。
「確実にいるだろうね。今見えている男は仲間を呼んでいるはず。シーニャはいつでも戦える準備を」
「もちろんなのだ!」
声を張り上げた男を含めて戦闘態勢を整えようとしていると、一人だけで向かって来るのが見える。声を張り上げられた対象の仲間は姿を現わしていないが、相当な自信があるようだ。
おれたちとしても好都合ということで、だだっ広い道の中央付近で男が近づいて来るのを待っていた。
すると、どこかで見覚えのある格好の男であることに気付く。
「――ん? 灰褐色のローブ……どこかで?」
「ウウゥゥ……!! アック、あの人間は危険なのだ!」
「全体がはっきり見えないな。魔法防御力のせいか?」
一人だけでおれたちの前に近づいて来る男は、いつかどこかで出会っている。それがどこだったのかいまいち思い出すことが難しいものの、シーニャがここまで警戒しているのは珍しい。
外見は灰褐色のローブ、ぼやけて見える顔の目の付近には切り傷がある。髪は伸ばしっぱなしで整えていないが、眼光は遠くからでも鋭い。
武器は今のところ手にしていなく、脅威となりそうな攻撃力は無さそうだ。
そして男はおれたちに対峙を果たす。
「あぁん? あいつの言った通り、お前だったか! 俺はてめえの顔は忘れてねえが、てめえらは見当がつかない表情をしていやがる」
「ウガゥゥッ!!!」
「――おぉ、危ねぇ! 獣の方は覚えていやがったか」
隣に立つシーニャがかなり興奮状態になっていて、風圧を起こす程度の振り下ろしを見せた。おれのことを覚えていて待ち望んだような顔を見せているということは、一度は戦っているということだ。
目立った特徴は特に無いが、シーニャを見下す目つきはどこかで見ている。
「ここに来ることが分かっていたようだな? おれはアック・イスティだ。あんたは?」
男はおれの名前を聞くと、笑いをこらえるかのように奥歯をかみしめて唇を固く引き締めた。どうやらおれのことはよくご存じのようだ。
「はっ……く、くそ、吹き出しちまう。ははははははっ!! 獣は覚えてやがんのに肝心のアックさまは俺のことを覚えていやがらねえとは、笑っちまった! 無理もねえか! アックさまが相手したのは弱っちい女だしなぁ?」
わざと「アックさま」呼ばわりする辺り、相当根深い相手か。
「――女?」
敵が女だったのはそれなりに多い。だが、弱さを感じたとなるとそれは難しい。
「ちっ……相変わらずすっとぼけた野郎だ! てめえ自身が獣になったことも忘れちまったかぁ?」
おれが獣になったのはただの一度きり。その時一緒に戦っていたのはシーニャだ。
――ということは、この男はあの時の奴か。
「獣狩りを名乗っていながら逃げ出した魔術師、ヴィレムだったか?」
「けっ、ヘルガが情けなかっただけで、俺も同じにしてんじゃねえ!!」
獣狩りパーティーと名乗った奴らとは、ラクルの近くで戦ったことがある。その時一緒にいた短剣使いのヘルガは、心を入れ替えてラクルで暮らしているはず。
あの時のおれは、獣化してフェンリルになりながら戦った。言葉が通じていたのは見事にシーニャだけで、意思の疎通に苦労した覚えがある。
シーニャの相手は魔法を多用する魔術師ヴィレムで、彼女はあの時かなり苦戦していた。魔術師ヴィレムの他に、反則的な者が近くに控えていたというのもあるが。
「いや、あんたの強さは強化者あってのものだろう? 彼女がいなければ、Sランクだとしても弱い部類に入る。どうせ近くに控えているんだよな?」
おれたちの姿を遠くから見つけ声を張り上げていたのは、恐らく強化者の彼女を呼ぶ為だったに違いない。ランクは今となっては正直意味が無いが、強化されれば勝手が違って来る。
「彼女ぉ? はっ、はははははははは!!! とことん甘ぇ野郎だぜ、ったくよぉ。とりあえずアックさまはあいつに任せるとして、獣は俺がやっちまっていいんだよなぁ?」
「……やれるものならな」
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