上 下
369 / 577
第十八章:遺物の導き

369.氷雪都市防衛戦線 【北2】

しおりを挟む

「……ところでアックよ。お前のその剣……」
「変色はしてるが使えるから心配いらない。ルーヴこそ腕は上げたのか?」

 実兄であるルーヴと住人の視線が、魔剣に注がれているのを感じていた。装備がしっかりしているだけに目立ってしまったようだ。

 不安に思うのは勝手だが、少なくとも騎士の剣やつるはしとは比べ物にならないだろう。

「む? 腕か……他国の騎士のことは知らないが、守れる騎士としては自信があるぞ!」

 ヒューノストの白狼騎士団は、ガチャによって得られた装備を身に着けている。防具に潜在されたスキルまでは分からないが、守りだけは信用出来そうな感じだろうか。

 守りきってもらえば、ザームの連中もそう何度も攻め寄せて来ないはずだ。

「それは、後ろの人たちを含めてか?」
「……そこまでは厳しいのだが、お前さえ良ければ彼らの為にガチャ……いや、駄目だな。イスティの力は大っぴらにするべきではないはずだ」

 つるはし片手の屈強な住人たちにもきちんとした防具を与えておきたいが、ルーヴの言うとおり軽々しく与えるのはあまり良くないことになる。

 落とされた"南"については、おれ一人だけで何とかするしかない。

「それならルーヴは北に留まって、逃げて来る人たちを守ってやってくれ」

 守りに長けているならそれに専念してもらった方が楽だ。しかし氷雪都市は陥落寸前。一度でも狙われてしまった時点で、長くは持たない。

 そうなると、後は住人を導くしかないのか。

「西と東はお前が守ってくれるんだな? しかし敵に狙われてしまった以上、守り続けるのは厳しいぞ」
「どっちも交戦……いや、防戦中か?」
「そのとおりだ。残念だが、戦いに転じることは厳しい。どうするべきなのか分からんのだ……」

 まさか自分たちが攻められるとは思ってもみなかったはずだ。イデアベルクに近かったことが災いしたとはいえ、巻き込んでしまったことに変わりはない。

「……騎士団含め、希望する者はイデアベルクに避難を開始してくれ」
「何? しかしそれは……」

 イデアベルクの住人のほとんどは獣人、そしてエルフだ。人間はごく一部しかいない。
 
 そこに人間が来るとなれば滅亡した頃を思い出すことになりかねないが、氷雪都市の人々は数が少なく外を知らない者たちばかり。

 意思に任せるしか無いが、それを決めてもらう時が来たようだ。

「アックさま~! お待たせしましたわ!!」

 悩む時間は無い――そう思っていた所で、ミルシェが追い付いて来た。目に見える防御魔法で安心しきっているわけでは無いが、エルフたちの表情は明るい。

 ルーヴと男たちに気付き、エルフたちは警戒して一定の距離を保っているのが見て取れる。こんな状態で避難させるのは厳しく思えるが、やるしかないだろう。

「早速で悪いが、ミルシェに頼みがある」

 人間嫌いのシーニャを含め、ミルシェも嫌がりそうだが頼むしかない。

「あら、アックさまらしくありませんわね」
「え?」
「頼まれずとも、あなたさまに命令されたらみなが喜びますのに! ――つまり人間たちを連れて行けばいいですのね?」 

 まだ一言も告げていないのに様子で察したらしく、エルフの一人に指示を出し始めている。彼女は反対じゃないのだろうか。

「あ、あぁ。イデアベルクに……いいのか?」
「あたしはこう見えても、王女に成り代わっていましたのよ? 人間がどうということはありませんわ。エルフや獣人に問題があっても、区画さえ分ければいいのでは?」

 再建途中のイデアベルクには、まだまだ廃墟が多い。彼女の言うとおり、区画を分けて住まわせることは可能だ。

 後は棲み分けさえ出来ればいいだけのことになる。

「あなた、ロクシュだったかしら。あなたは人間についてどう思っているの?」
「――お、俺? 俺は特には……どっちかというとサンフィアが問題なだけで、大したことないけど」

 ここに連れて来たエルフは若者ばかり。ロクシュも含めて、そこまで重苦しさは感じられない。

「……ということみたいですわ。アックさま、この先の戦いはあなたさまにお任せしてあたしたちは撤退させることに専念しますけれど、それで構いませんわね?」

 さすが片腕的役割を果たしているだけのことはある。彼女の決断は素早かった。

「そうしてくれ。この先の西と東は防戦中みたいだから、守りは任せる」
「承知しましたわ! フフッ、アックさまもようやく自覚がおありになってくれて喜ばしいことですわ!」

 何やら興奮状態のミルシェとロクシュ率いるエルフたちを連れて、東地区に進むことにする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移

龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。 え?助けた女の子が神様? しかもその神様に俺が助けられたの? 助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって? これが話に聞く異世界転移ってやつなの? 異世界生活……なんとか、なるのかなあ……? なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン? 契約したらチート能力? 異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな? ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない? 平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。 基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。 女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。 9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。 1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~

ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて… たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。 なろう、カクヨムにも投稿しています。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

悪意か、善意か、破滅か

野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。 婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、 悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。 その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

追放の破戒僧は女難から逃げられない

はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。 その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。 そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。 神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。 同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。 シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。 彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。 またも冒険者になるか?それとも・・・ 拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。 「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」 いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。 そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。 しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。 ※カクヨムでも掲載しています。 ※R18は保険です。多分

処理中です...