上 下
368 / 577
第十八章:遺物の導き

368.氷雪都市防衛戦線 【北】

しおりを挟む

 サンフィアの弟分であるロクシュ率いるエルフの若者を引き連れ、ヒューノストに接近する。
 イデアベルクから感じていた気配を追ってのことだったが、はおれを待つつもりなど無かったらしい。 

 氷雪都市から感じた気配の多くは、すでに都市を攻め出していたようだ。

「アックのダンナ、煙が上がってんのはもしかして?」
「いや、あれは暖を取る為のものだ。敵の襲撃じゃないはずだ」

 この場には回復が可能なミルシェと回復が使えるエルフが一人、そして近接攻撃主体のエルフたちを連れて来た。

 そしてヒューノストには、ある程度のレベルには耐えられる騎士団が常駐している。
 ザーム共和国からの敵だとしても、住民が危険に陥ることは多くないはず。

 だが敵の中に高ランクが紛れていれば、話は違って来る。

「アックさま。敵の中に術者の気配がありますわ。騎士団では厳しいのでは?」

 おれと同様に、ミルシェも敵の気配を感じていた。彼女は水棲怪物としての力を取り戻しただけでなく、呪術のスキルも得られた。

 防御に長けているとはいえ、よほどの強者でなければ負けることは無くなったと言える。
 そしてサーチスキルも上昇したおかげか、敵の詳細も掴めるようになった。

「あのルーヴが怠けていなければ、問題無い。少なくとも守るだけなら」

 おれと再会するまでの白狼騎士団は、残念ながら守護するレベルには達していなかった。
 だが武器防具を与えてから、そこそこの魔物と戦闘を繰り返していたのを聞いている。

 奴の故郷でもあるイデアベルクには、常に脅威が迫っていたことを奴自身も学んでいたからだ。

「ですけれど――」
「おい、ダンナ! トンネルの先から嫌な風を感じるぜ! すでに攻め込まれてるんじゃねえのか?」
「分かるのか?」
「自然のことを感じられんのも、エルフの役割ってことだぜ?」

 敵のサーチはともかく彼らを連れて来た狙いは、まさに自然のことを感じられるからに他ならない。
 これに関してはロクシュだけではないようなので、敵以上に活かせそうだ。

「このまま突っ込む。ミルシェは彼らに防御系統の魔法を!」
「分かりましたわ!」

 いつもならシーニャやルティが先導するが、今回は勝手が違う。
 多くの人間が暮らす氷雪都市においては、知っている者が導く必要がある。

「先に行く。ロクシュたちは防御魔法がかけ終わり次第、続いてくれ!」

 雪山トンネルをくぐり抜け、一足先にヒューノストの北側にある宿が見えた。
 ここはイデアベルクに近い位置にあり、騎士団の連中しか足を運ばない場所だ。

 特に異常は感じられない。
 ――そう思っていたが、遠目から見える光景からは、そうも言っていられない動きが確認出来た。
 
(あれはルーヴ!? まさか、ここで防衛線を敷いているっていうのか?)

 ヒューノストの住民の多くは、他の町に近いトンネルの南側に多く暮らしている。
 それだけに、北に位置する所には近づくことはほとんど無かった。

 だが、騎士団の後方には数人程度の人の姿が見えている。
 怯えている様子は無く、つるはしやスコップを持っているようだ。

「――むっ!? ここに近づくのは何者だ?」

 騎士団の姿は無く、ここにいるのはルーヴただ一人のように見える。
 イデアベルクに近い側だからなのか、警戒心は相当に高い。

「ルーヴ・イスティ! おれだ、アックだ」

 イデアベルクに戻って以降、彼とはほぼ会うことが無かった。
 敵の襲撃があるくらいは伝えた気がするが、おれのことは覚えているだろうか。

「何? アック? 雪山に来る装備をしていないではないか!! そういう無謀な奴は――」
「おれしかいない! だろ?」
「そのとおりだ! もしかして救援に来てくれたのか?」
「そんなところだ」

 正確にはヒューノストにいる敵を排除しに来たわけだが、同じことだ。
 ここに来ている敵を倒さなければ、イデアベルクが危なくなる。

 ルーヴの後方にいる数人は、住民の中でも屈強そうな男たちばかり。
 ある程度のことが出来る者たちを揃えた感じだ。

 北に位置するここには宿の他に騎士の詰所があり、一時しのぎしか出来ない場所になる。
 ここにいるということは、すでに南は落とされたということになるが――

「それならアック。騎士団が誘導している他の住民たちを、ここに連れて来て守ってやってくれないか?」
「それは南か?」
「いや、東と西に多くいる。南区画はすまんが、すでに敵……ザーム共和国の支配下にある」
「ザーム共和国! やはりそうだったか」

 ヒューノストの南区画は、隣接する町から近い所にある。
 転送魔法を使わずに来ることが可能ではあったが、ここを落としに来ていたとは予想よりも早い。

 氷雪都市を攻め落としてしまうつもりだったのだろうが、思い知らせてやるしかなさそうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

HP2のタンク ~最弱のハズレ職業【暗黒騎士】など不要と、追放された俺はタイムリープによって得た知識で無双する~

木嶋隆太
ファンタジー
親友の勇者を厄災で失ったレウニスは、そのことを何十年と後悔していた。そんなある日、気づけばレウニスはタイムリープしていた。そこは親友を失う前の時間。最悪の未来を回避するために、動き始める。最弱ステータスをもらったレウニスだったが、、未来で得た知識を活用し、最速で最強へと駆け上がる。自分を馬鹿にする家を見返し、虐げてきた冒険者を返り討ちにし、最強の道をひた進む。すべては、親友を救うために。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...