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第十八章:遺物の導き

365.イデアベルクの急変 1

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 魔力を補ったおかげで、おれたちはイデアベルク居住区に到着した。
 ダークエルフの大所帯はサンフィアの言葉に従い、ぞろぞろと森林区へと移動して行ってしまった。

 到着した場所がちょうど居住区だった為、行き交う者の姿が無く静かだ。

「アック様! こぶし亭に行って来ていいですかっ?」
「シーニャもお腹が空いたから行きたいのだ!!」
「うーん、そうだな。その前に、ルティ。首飾りを預かっておくから渡してくれ」
「はいっっ、どうぞ!」

 エラトラリングとチャルカの首輪は遺物だ。
 今すぐどうこうなるものでも無いので、手元に置いておく方がいいと判断した。

 それはそうと、イデアベルクに帰って来たのはかなり久しぶりだ。
 彼女たちは相当嬉しそうにしているようなので、少しだけ滞在することにする。

「アック! 早く早く行きたいのだ!!」
「分かった、行って来ていいぞ」

 お腹を空かせているのを駄目とは言えない。
 すぐに移動するわけでも無いので、今は自由時間にして解放しておく。

「アック様。わ、わたしはお腹じゃなくてお店の……、わわわっ、引っ張らないで~!」

 急かすシーニャに引っ張られながら、ルティたちはこの場からあっさりいなくなった。
 この場に残ったのは、人化済みのフィーサと怪物の力を取り戻したミルシェだけだ。
 
「イスティさま。わらわも小娘たちの所に行って来るなの!」

 少女の姿をしたフィーサだが、今ではすっかりルティたちの面倒を見るようになった。
 魔剣から離れたいのもあるようなので、ここは行かせることにする。

 そうすると残ったのは彼女だけだ。

「とりあえず歩きながら話すか?」
「そうですわね」

 水棲怪物時代の守護獣である狼が彼女の腰に巻きついている。
 しかし以前のような軟体生物に戻ったわけでは無いせいか、動きづらそうだ。
 
 結果として狼たちは毛を膨張させ、装飾品【スキュラの毛皮】として落ち着いてくれた。

 ミルシェも困惑していることだ。
 今は追求しないで落ち着かせる方がいい。

「ふぅ……不思議な感じがしますわ。あたしであって、あたしじゃないような……」

 無理も無いことだ。
 不意に地下深くに落ちたうえ、海底に沈んで眠りについてしまったのだから。

 ミルシェの内在的な強さを探ると、最初に出会った時よりも強い感じがある。
 ダークエルフが言っていたように古代の大昔から棲息していたのは、間違い無いだろう。

 恐らくフィーサよりも――

「そうかもな。おれと戦ったのは覚えているのか?」
「ええ。氷属性は本当に勘弁して欲しいですわね。アックさまには敵わないと知りながらも、昔の力で通用するか試してみたかったですけど……」
「理性が戻ってから怖くなった?」
「……そうですわね」

 属性や強さに関係無くなる前のおれであれば、多分負けていた。
 今でこそ魔力減少の心配も無いが、封じ込めをしなければ厳しかったはずだ。

「なるほど。まぁ、徐々に慣れると思う」
「あぁ、そうそう……魔石をお返ししますわ」
「――あれ? 傷が消えてる」

 シャドウドラゴンからドロップした呪印の魔石は、無数の傷がついていた。
 それ自体に何らかの意味がありそうではあった。

 ミルシェに衝突させ、記憶変化の彼女を戻すことが出来た魔石ではあるが――
 ――解呪を果たしたのか、呪印としての効果は失せたように見える。

 この状態であれば、魔力があるだけの石だ。
 ルティが望んでいたガチャが出来そうではある。

「その魔石に封じられていた呪いの印……得られた気がしますわ」
「呪いの力を?」
「ええ。水に特化しただけの力だけではなく、新たな力を感じています」
「――ということは、弱体魔法も特化したってことになるのか」

 単なる解呪効果だけでは無かった。
 彼女自身を取り戻し、さらに呪いの力を得ることが出来たとは。

 これなら水属性で守るだけでなく、彼女自身も戦いに転じられそうだ。
 もっとも、再出発の時に一緒に行動するかは未定だが。

「……アックさま。力を得たついでですけれど、呪術がかけられた所がありますわ」
「えっ? ここで?」
「恐らく。アックさまが長く不在にしたことで、急変が起きているのでは?」

 イデアベルクのことは、エルフたちや時空魔道士のウルティモに任せている。
 特にウルティモであれば、何らかの異変に気付いてもおかしくない。

 古代遺跡群ばかり気にしていたが、何か起きているとすれば問題だ。
 ミルシェとともに見て回るしかない。
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