346 / 577
第十八章:遺物の導き
346.リオング・メイズ② サンフィアパート
しおりを挟むサンフィアは、精霊の力と剣の強さを過信していた。
そのことに気付かされたのか、しばらくうつむいてしまう。
「……幻術こそ我の得意としているもの。落ち着けば簡単に現状の苦しさから抜け出せる……。そういうことか」
独り言を呟いた後、サンフィアは神剣フィーサをミルシェに手渡す。
そして、神経を集中させることにしたようだ。
「……似合わないことをしても、小娘が従うはずが無い。そのことにようやく気付いたようね。そうでしょう、フィーサ?」
ミルシェは手元に戻された神剣に向かって、そう言い放つ。
すると沈黙していた彼女が口を開いた。
「小娘は余計な一言なの! 相変わらず性格が悪すぎなの。……それで、あのエルフはこの空間から抜け出せるなの?」
「風の精霊……フフッ、精霊だって落ち着いた状態なら、力を思いきり出せるんじゃない?」
「それは暗に、あのエルフが口やかましいと認めているようなものなの」
「あなたこそ、どうして力を貸そうとしなかったのかしら?」
「……? 力って、何の力なの?」
アックたちと道が分かれた時、ミルシェは事前にフィーサと話し合っていた。
性格的に面倒なサンフィアをどう扱うべきなのかと、思い悩んでいたようだ。
「決まっているわ。あなた、魔法剣としても動けるはずでしょう? 彼女にも魔力があるのに、どうしてただの両手剣の動きしかしなかったの?」
元々多少の魔力を有するサンフィアに対し、フィーサは全く動こうとしなかった。
ミルシェは、そのことが気になっていた。
「そんなの、決まっているなの。イスティさま並の魔力とは、まるで比べ物にならないからなの」
「ふぅん? やはり小娘はその程度の剣ということかしら?」
「分かってないのはおばさんの方なの! そもそも魔法剣は、ちょっとの魔力ごときで魔法剣になれるほど、甘くないなの」
「――おばっ!? し、失礼なことを言うものね……あなたこそ何百年以上と生きているくせに!」
「そんなの知らないなの!!」
仲間として協力していたはずの二人の仲は、やはり良くなかったようだ。
「おいミルシェ! 我は風の精霊を使って、まやかしなる空間を破る! 貴様はその剣を大事に抱えて、衝撃に備えることだな!」
ミルシェとフィーサが密かに争っていると、行き止まりの壁を見つめるサンフィアの姿があった。
どうやら精霊を使う準備が整ったらしく、壁の手前で何かを呟き出し始めた。
「……嫌だけど仕方ないなの。あのエルフの言うとおりにしてやるなの」
「それはあたしのセリフだわ。とにかく、あたしの傍から離れないことね」
「ふん!!」
サンフィアに言われた通り、ミルシェはとりあえずフィーサを抱えて防御態勢を取った。
そして――
「我はエルフの賜りを備うる者。我の声を聞き、正常なる場所へと導け! 《シルフィード》!!」
サンフィアによって、上位の風精霊が姿を現わした。
精霊の姿はアックが呼び出す霊獣に似た妖精のようで、少女のようにも見えている。
サンフィアの周りを飛び回ったように見える妖精は、少しして吹き荒れる激しい風を起こし始めた。
すると行き止まりだった空間が、みるみるうちに崩れていく。
その直後、まるで黒い霧が払われるかのように、本当の光景が露わとなった。
「橋があちこちに……確かに違う光景だわ」
「やっぱり幻の影が悪さをしていたなの」
ミルシェとフィーサの眼前には、一本道の水路が見えている。
水が流れている水路には変わりはないものの、至る所に架かる橋の姿が広がっていた。
「……はぁっはぁっっ……ふん、これで満足か? ミルシェ。それと、我をたぶらかした神剣の小娘……」
「あ、あら? あなたいつの間に気付いて……」
「魔力はともかく、エルフも中々やるなの。でもでも、上位精霊なんて使ったらしばらくは何も出来なくなるなの!」
フィーサの言葉通り、精神力や体力を消耗したサンフィアは苦しそうにしていた。
「小賢しい小娘め。それを知りながら我を煽ったのだろう? ならば、この先からは貴様たちだけで何とかしろ! 我はしばらく剣も持てぬのだからな……ふぅっ……」
そう言うとサンフィアは息を切らせ、膝に手を付きながら疲れを見せている。
「――むふふ、しょうがないなの。ここからは、わらわが先頭に立って活躍してやるなの!」
フィーサはサンフィアをけしかけることに成功。
それに機嫌を良くしたのか、人化して急にやる気を出しているようだ。
「呆れるわね……でもこれで、アックさまたちに近付けることが出来そうだわ。面倒だけれど、防御魔法で彼女を守るしか無さそうね」
人化のフィーサを先頭に、サンフィア、ミルシェはようやく前へと歩き出した。
0
お気に入りに追加
565
あなたにおすすめの小説
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました!
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーのララクは、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
ララクは、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
妻を寝取ったパーティーメンバーに刺殺された俺はもう死にたくない。〜二度目の俺。最悪から最高の人生へ〜
橋本 悠
ファンタジー
両親の死、いじめ、NTRなどありとあらゆる`最悪`を経験し、終いにはパーティーメンバーに刺殺された俺は、異世界転生に成功した……と思いきや。
もしかして……また俺かよ!!
人生の最悪を賭けた二周目の俺が始まる……ってもうあんな最悪見たくない!!!
さいっっっっこうの人生送ってやるよ!!
──────
こちらの作品はカクヨム様でも連載させていただいております。
先取り更新はカクヨム様でございます。是非こちらもよろしくお願いします!
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~
いとうヒンジ
ファンタジー
ある日、イチカ・シリルはパーティーを追放された。
理由は、彼のレベルがいつまでたっても「1」のままだったから。
パーティーメンバーで幼馴染でもあるキリスとエレナは、ここぞとばかりにイチカを罵倒し、邪魔者扱いする。
友人だと思っていた幼馴染たちに無能扱いされたイチカは、失意のまま家路についた。
その夜、彼は「カミサマ」を名乗る少女と出会い、自分のレベルが上がらないのはカミサマの所為だったと知る。
カミサマは、自身の不手際のお詫びとしてイチカに最強のスキルを与え、これからは好きに生きるようにと助言した。
キリスたちは力を得たイチカに仲間に戻ってほしいと懇願する。だが、自分の気持ちに従うと決めたイチカは彼らを見捨てて歩き出した。
最強のスキルを手に入れたイチカ・シリルの新しい冒険者人生が、今幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる