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第十八章:遺物の導き

346.リオング・メイズ② サンフィアパート

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 サンフィアは、精霊の力と剣の強さを過信していた。
 そのことに気付かされたのか、しばらくうつむいてしまう。

「……幻術こそ我の得意としているもの。落ち着けば簡単に現状の苦しさから抜け出せる……。そういうことか」

 独り言を呟いた後、サンフィアは神剣フィーサをミルシェに手渡す。
 そして、神経を集中させることにしたようだ。



「……似合わないことをしても、小娘が従うはずが無い。そのことにようやく気付いたようね。そうでしょう、フィーサ?」

 ミルシェは手元に戻された神剣に向かって、そう言い放つ。
 すると沈黙していた彼女が口を開いた。

「小娘は余計な一言なの! 相変わらず性格が悪すぎなの。……それで、あのエルフはこのから抜け出せるなの?」
「風の精霊……フフッ、精霊だって落ち着いた状態なら、力を思いきり出せるんじゃない?」
「それは暗に、あのエルフが口やかましいと認めているようなものなの」
「あなたこそ、どうして力を貸そうとしなかったのかしら?」
「……? 力って、何の力なの?」

 アックたちと道が分かれた時、ミルシェは事前にフィーサと話し合っていた。
 性格的に面倒なサンフィアをどう扱うべきなのかと、思い悩んでいたようだ。

「決まっているわ。あなた、魔法剣としても動けるはずでしょう? 彼女にも魔力があるのに、どうしてただの両手剣の動きしかしなかったの?」

 元々多少の魔力を有するサンフィアに対し、フィーサは全く動こうとしなかった。
 ミルシェは、そのことが気になっていた。

「そんなの、決まっているなの。イスティさま並の魔力とは、まるで比べ物にならないからなの」
「ふぅん? やはり小娘はその程度の剣ということかしら?」
「分かってないのはおばさんの方なの! そもそも魔法剣は、ちょっとの魔力ごときで魔法剣になれるほど、甘くないなの」
「――おばっ!? し、失礼なことを言うものね……あなたこそ何百年以上と生きているくせに!」
「そんなの知らないなの!!」

 仲間として協力していたはずの二人の仲は、やはり良くなかったようだ。

「おいミルシェ! 我は風の精霊を使って、まやかしなる空間を破る! 貴様はその剣を大事に抱えて、衝撃に備えることだな!」

 ミルシェとフィーサが密かに争っていると、行き止まりの壁を見つめるサンフィアの姿があった。
 どうやら精霊を使う準備が整ったらしく、壁の手前で何かを呟き出し始めた。

「……嫌だけど仕方ないなの。あのエルフの言うとおりにしてやるなの」
「それはあたしのセリフだわ。とにかく、あたしの傍から離れないことね」
「ふん!!」

 サンフィアに言われた通り、ミルシェはとりあえずフィーサを抱えて防御態勢を取った。
 そして――

「我はエルフの賜りを備うる者。我の声を聞き、正常なる場所へと導け! 《シルフィード》!!」

 サンフィアによって、上位の風精霊が姿を現わした。
 精霊の姿はアックが呼び出す霊獣に似た妖精のようで、少女のようにも見えている。 
 
 サンフィアの周りを飛び回ったように見える妖精は、少しして吹き荒れる激しい風を起こし始めた。
 すると行き止まりだった空間が、みるみるうちに崩れていく。

 その直後、まるで黒い霧が払われるかのように、本当の光景が露わとなった。

「橋があちこちに……確かに違う光景だわ」
「やっぱり幻の影が悪さをしていたなの」 

 ミルシェとフィーサの眼前には、一本道の水路が見えている。
 水が流れている水路には変わりはないものの、至る所に架かる橋の姿が広がっていた。

「……はぁっはぁっっ……ふん、これで満足か? ミルシェ。それと、我をたぶらかした神剣の小娘……」
「あ、あら? あなたいつの間に気付いて……」
「魔力はともかく、エルフも中々やるなの。でもでも、上位精霊なんて使ったらしばらくは何も出来なくなるなの!」

 フィーサの言葉通り、精神力や体力を消耗したサンフィアは苦しそうにしていた。

「小賢しい小娘め。それを知りながら我を煽ったのだろう? ならば、この先からは貴様たちだけで何とかしろ! 我はしばらく剣も持てぬのだからな……ふぅっ……」

 そう言うとサンフィアは息を切らせ、膝に手を付きながら疲れを見せている。
 
「――むふふ、しょうがないなの。ここからは、わらわが先頭に立って活躍してやるなの!」

 フィーサはサンフィアをけしかけることに成功。
 それに機嫌を良くしたのか、人化して急にやる気を出しているようだ。

「呆れるわね……でもこれで、アックさまたちに近付けることが出来そうだわ。面倒だけれど、防御魔法で彼女を守るしか無さそうね」

 人化のフィーサを先頭に、サンフィア、ミルシェはようやく前へと歩き出した。
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