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第十七章:遺跡群
340.リオング水路 ③
しおりを挟む「あれ? アック様、向こうに見えているのってミルシェさんたちじゃないですかっ?」
「ん? どこだ?」
「橋が架かっている先の方に後ろ姿が見えるです!」
道の先の方まで見通せるという力に関しては、ルティの方が能力が高い。これも親譲りということになるのだろうか。
「ウニャ? どこなのだ? シーニャには全く見えないのだ」
敵や動くものについてはシーニャの方が優れているわけだが、さすがに範囲外までは見えないようだ。
「一本道で迷うことも無いだろうし、先に行って声をかけて来てくれるか?」
「はいっっ!」
最下層にまで降りて来た水路は、水が枯れているところが多くあって、濡れる心配が無い。足下に不安定さを感じないのはありがたい場所だ。
さっきまでいた場所も含めて見上げると、何層にもなっていることが見て分かる。
迷いはしないが、そう簡単なダンジョンではないように思えてならない。
「ふぇぇぇ! どうして~!? ああぁっ! ミルシェさーん待ってくださーい!!」
ルティの報告を待っていると、先の方からルティの泣き声が聞こえて来た。
ミルシェたちに会えなかったのだろうか。
「アック、アック! シーニャたちもドワーフのところに行くのだ!」
「そうだな、行こう」
どこにいても声が響くので、ルティを先に行かせても行方を見失うことが無い。
しかし何も無かった時でも大騒ぎをする傾向があるので、注意が必要だ。
水の無い水路は歩きやすく、すぐに橋のところにたどり着く。
橋は木製で頑丈そうな欄干が見えている。
ルティは橋の中央付近に立ち尽くしているようで、そこから動けずにいるらしい。
橋を歩き始めてすぐに気付いたのは、橋の下には巨大な川が流れていたことだ。
最下層に来たはずなのに、まだ深い所があるとは。
「ルティ! そんな中途半端なところで何やってんだ? ミルシェたちには会えたのか?」
「アックの言うとおりなのだ。この先にフィーサが見えるのだ?」
「ああぁっ! アック様っ!! おかしいんですよ、駄目なんですよぉぉ」
「……うん?」
ルティが立っている所を見ても、特におかしな点は見られない。
しかし、中央部から先の方へ進もうともしていないのは妙だ。
「い、いいですか、よぉく見ててくださいよぉ」
「……ウニャ?」
「何だ、一体……」
橋の中央に留まっているルティが、気合いを入れて何かをしようとしている。
シーニャとおれは、ルティがやろうとしていることを黙って見守ることにした。
すると――
「とおおぉりゃぁぁぁぁ……!!」
ルティは握り拳を作り、そのまま橋の中央部付近に突いて見せた。
辺りからは、ドドーンといった鈍い音が響くものの、何かが起こった感じには見えない。
「ウニャニャ!? な、何が起こったのだ? ドワーフは何をしたのだ!?」
いきなりのことでシーニャはかなり驚き、耳がピンと立っている。
シーニャには見えなくて当然だが、ルーンが反応したようだ。
橋の中央部から浮かび上がったのは、【リオング・ゲート】なる表示だった。
向こう側が見えていて通れないということは、ここを通るには何らかの条件があるということなのだろうか。
ルティの拳でもびくともしないとなれば、力でどうにか出来るものでは無いことになる。そうなると考えられるのは、適正の属性による攻撃を試すしかないのだが。
「アック様、見ての通りでして~……さっきまでこの先で、ミルシェさんたちが見えていたんですよぉぉ! でも進めないしどうにも出来なくて……はうぅぅ」
「ミルシェたちはルティに気付いていたか?」
「振り向いてくれました! でも、わたしを見たというより、後ろを確かめただけだったような感じで……」
おれたちが最下層に降りる直前までは、ここにいたということか。
ミルシェたちがこの橋の中央付近を通り過ぎたことで、何らかの罠が作動したということもあり得そうだが、断言は出来ない。
「……おれがやってみてもいいか?」
「もちろんです! アック様なら、打ち破れますよっ!」
ルティが立っている辺りに近付こうとすると、確かに透明な壁のようなものに遮られている感覚があった。
「――む、これは……」
感覚としては物理無効の壁のような感じがする。そうかといって魔法制限がかかっている状態で、どうにかなるようには思えない。
「あああぁっ!! アック様、アック様!」
「ん? どうした?」
「ミルシェさんたちが向かって行った先から、大勢の人間たちが向かって来ていますよ!! 遭遇しちゃってたんでしょうか!? どうしよう、どうしますかぁぁ!!」
「落ち着け、ルティ」
こっちの身動きが取れない時ばかり、何かに遭遇するようになっているのか。
敵とは限らないが、シーニャの耳は立ったままだ。
そうなると――
「ウウゥゥ……アック! 何だか嫌な感じがするのだ」
「――敵ってことか」
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