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第十七章:遺跡群

327.イグニスダンジョン 上層攻防戦④

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 彼らの視線がおれから外れた隙に、最初に言ったとおりバフの重ねがけを開始する。
 
 これ自体に特別な意味は無いが、見せつけることによって彼らの最後のあがきを見れるかもしれない。そのことを期待しているに過ぎない動きだ。

 おれが装備しているものに特にバフを可視化させるスキルは無いが、これについては、属性魔法を組み合わせて表現することにした。

「――《ウォーターウォール》、《アイスシールド》、《フレイムスパイク》」

 他には雷と風、光と闇などがあるものの、三属性だけでも十分に対応出来るだろう。
 氷と炎には仮に相手の攻撃が命中しても、すぐにはね返す効果がある。

 水は溺れさせ、体内の水を奪う効果が含まれているが、そこまでは到達出来ないはずだ。

 対する彼らの手元からはすでにデバフ効果の武器が消え、武器が無い状態に陥っている。
 その状態でおれに反撃して来るとは考えにくいが、傭兵であれば捨て身の攻撃も備えているはず。

 彼らの後方にリーダーの男が立ち尽くしていて困惑しているが、すぐに命令を出すのは間違いない。

「き、貴様らーー!! 今すぐあいつに向かって拳で突っ込め!!」

 やはり自分からは動かずに、後ろの方で声を張り上げている。
 魔剣に武器を喰われたことで放心状態だった彼らは、リーダーの声で落ち着きを取り戻したようだ。

「そ、そうだ、武器が通用しねえなら、拳があるじゃねえか!」
「よし、こうなりゃあ、ぶん殴ってぶっ飛ばすしかねえ」
「――ガキの狙いは初めから武器の強奪だった。そうなれば、己の武器でやるしかねえ!」

 どうやら話がまとまったらしく、拳を鳴らして体勢を整え始めた。
 しかし、すぐに異変に気付いて声を上げている。

「なっ、何だありゃあ!?」

 おれに向き直ったところで、バフの存在に気付いたようだ。
 分かりやすく展開しているにもかかわらず、威力が無いと思っているのか余裕そうにしている。
 
「……バフの重ねがけをさせてもらった。これを一つでも突破出来たら、助けると約束しよう!」

 おれから攻撃して命を取るつもりは無いが、恐らく突っ込んで来た時点で終わる。

「ハッタリ野郎がーーー!!」
「属性魔法の防御なんざ、怖くなんかねえんだよ!!」
「おおおおおおお!!!」

 握り拳を作って、予想通り彼らは突っ込んで来た。
 突っ込んで来た男たちは、炎と水の壁に近付く前にあっさりと全身を凍らせて、意識を閉ざした。

 炎に焼かれるでも無く、溺れるでもなくあっさりと戦いが終わりを告げる。
 やはりランク無しの傭兵連中では、まるで話にならなかった。

 残るは短刀持ちの男だけとはいえ、何もしないで逃がすのは彼らの為にもならない。本隊連中のところにたどり着いた時に発動する、デバフでも付けておくことにする。

 そう思っていると、短刀持ちの男の後方からシーニャが駆けて来た。
 どうやらあっさりと魔導士を倒したらしい。

「アック、アックー! 終わったのだ」

 嬉しそうにして、シーニャがおれの元に近づいて来る。 
 そう思っていると、短刀持ちの男がシーニャを止めて捕まえていた。

「くははは! 油断したな!! 傭兵どもを倒していい気になったようだが、お前の仲間を捕まえたぞ! 仲間を殺されたくなければ、大人しくしろ!」

 これは予想外の展開になる。
 この男だけでも残してわざと逃がすつもりだったのに、このままだとすぐにでもやられそうだ。

「……ウゥゥ!」
「獣人相手に手荒な真似はしたくは無いが、お前の返答次第じゃ――」
「アック以外の人間……シーニャに触れた、触れる……許さない!」
「な、何だ……!?」

 このままではまずいことになってしまう。
 彼女を止めてどうにかしなければ。

「ガウゥッ――!!」
「うぎゃあああーー!」

 ――という間に、短刀持ちの男は爪で吹き飛ばされていた。
 ついつい忘れがちだったが、シーニャはワータイガーな上、おれ以外の人間には全く近付かない。

 そして容赦なんてするはずも無く。

 本来なら傭兵連中がどんなに雑魚でも容赦なくやるべきだったのを、一人だけ逃そうとしたおれの油断が、シーニャの怒りを誘ってしまった結果だ。

 遊びが過ぎた形になってしまった。
 シーニャは息を荒くして興奮状態になっているが、大丈夫だろうか。

 耳も尻尾も警戒した状態になっている。
 もしかすれば、我を忘れて襲い掛かって来る恐れがありそうだ。
 
「シーニャ! おれのことが分かるか?」

 襲って来ても問題は無いが、一応声をかけた。
 すると――

「ウニャン! アック、アックが無事で良かったのだ!」
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