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第十六章:エンシェント・エリア

306.ルティとザヴィ・デ・イーク境域

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 シーニャがルティに対し怯みを見せているのも珍しいが、一刻も早く声をかけてやらねばならない。
 ――かと思っていたら、ミルシェが止めに入った。

「アックさま。少しお待ちを!」
「何でだ? あの声は間違いなくルティだぞ。あのまま放置すればまずいことになるぞ」
「……イデアベルクに置いて来たあの子が、何故いきなりここにいるのか説明がつきませんわ。もしかしたら魔石の罠かもしれませんわ」
「泣いているルティが? うーん……それにしては」

 人工通路の魔石で浴びた光からは、特に悪い効果を感じることが無かった。
 しかしミルシェが拾った魔石の影響で人型機械が暴走したのは、不明すぎる問題だ。

 採石場の崩落も魔石が影響を及ぼしているとしたら、あのルティも罠の一つと考えねばならない。
 ならないが、彼女の周りにはディルアと記された人型機械がいくつも倒れている。

 そう考えると、魔石が生み出した幻だとは考えにくい。
 ミルシェの言うことも理解出来るが、ここはおれが何とかするしか無さそうだ。

「どうされますか?」
「君はシーニャとここで控えててくれないか? 罠や幻に関係無く、ルティはおれが確かめる」
「……分かりましたわ。その前に、一応この辺りをサーチしては?」
「そ、そうだな」

 ミルシェと話している間にも、ルティの泣き声がずっと聞こえて来る。
 近づくのは簡単だが、まずは一帯を調べることにした。

 【ザヴィ・デ・イーク境域 ディルア・グレイヴヤード墓場

 やはりここは、遺跡の中で間違いないようだ。
 しかも人型機械の墓場とか、採石場で動いていたものと関係があるのか。
 
 【ルティシア・テクス 彷徨いのドワーフ 弱点:アック・イスティ】

 そしてついでに見れてしまったが、やはりルティ本人だった。
 おれが弱点になっているのが何よりの証になる。

 後ろの方でシーニャとミルシェが様子をうかがっているし、すぐにでも解決してやらなければ。
 声を張り上げればすぐ気付きそうだが、まずはルティに近付くことにする。

「びぇぇ……ふえぇぇ、アック様、アックざばぁぁ……ぐすんぐすん」

 どうやら遺跡を彷徨い続けて、ここにたどり着いたようだ。
 たどり着いたのが人型機械の墓場だったようだが、お構いなしに破壊しまくったか。

「ルティ、おれだ。アックだ! 泣くのをやめておれの――うぉっと!」

 泣きまくるルティの前に姿を出したが、彼女はすぐに攻撃を向けて来た。
 シーニャが感じていたのは、どうやらルティの尋常じゃない威圧感だったとみえる。

 向かい合っているだけなのに、いつもと違う鋭い眼光に加えルティの赤い髪からは、強い警戒を感じてしまう。精霊竜はいないようだが、いつ攻撃が飛んで来てもおかしくない。

「――またアック様の声と姿に変わるなんて、絶対許さない!! 何度でも破壊するんだから!」

 どうやらディルアを使っておれに見せかけ、何度か騙されているようだ。
 魔石のいたずらにしては度が過ぎているが、戦って信じさせるしかない。

「こら! ルティシア! おれの話を聞――」
「しつこいっ!! このぉっ!!」

 完全に混乱している状態だが、繰り出して来る拳圧は本物だ。
 破壊されたディルアの他に、攻撃しなくてもいい岩壁まで粉々になっている。

 このまま放置するのは遺跡全体の為にもまずい。
 あまり得意じゃないが、ミルシェ仕込みの麻痺魔法を放つことにする。

「……これで目を覚ませ! 《パーライズ》」
「わぎゃっ!?」
「全身を強く痺れさせた。無理にでも動けば、麻痺はいつまでもお前の……ぬっ?」
「こんなのっ、全然効かないんですっっ!! ふんぬー」

 麻痺したはずのルティは、近付いたおれの後頭部に手を近付けた。
 そうかと思っていたら、そのまま勢いをつけておれは激しく地面に叩きつけられていた。

「――ウニャ!! アック、アック!」
「アックさま!? 大丈夫ですか?」

 離れた所からシーニャたちが声を張り上げたが、痛みなどは無い。
 ルティがどういう攻撃をして来るかと様子を見ていたら、回転させられていただけのことだ。

 どんな攻撃か分からなかったが、一瞬体を浮かせられたような感じだった。
 やはりルティは、近接戦闘に特化しているということが分かっただけでも収穫だ。
 
 痛くは無いが、彼女を正気に戻すにはどうするのがいいのか。

「シーニャとミルシェさん……? ま、まさか、まさか……アック様?」
「はは、やっと気付いたか」
「ひ、ひぃえええぇぇぇ!! わたしったら、何てことをををを!!」
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