上 下
302 / 577
第十六章:エンシェント・エリア

302.予感の遭遇

しおりを挟む

「……どうしてこんなことになっているなの?」
「どこででも食べられるって幸せすぎるー! 剣であるあなたは食べないんだっけ?」
「必要無いなの。そうじゃなくて! こんな朽ち果てた城で、どうして呑気に料理が作れるなの!?」

 旧バラルディア王国の城は、すでに廃れた城と化していた。
 しかしルティは料理の材料を持って歩いていることもあり、廃城に関係無く料理を作れる。

 ――ということもあり、張り切って鍋を振り始めていた。

「まずはお肉ですよー! アヴィ、お待ちくださいねー」
「はーい!」
「呆れて何も言えないなの……」

 呑気に料理をするルティに呆れ、フィーサは廃城の中を一人でうろつくことにした。
 竜人娘が気付いていない何かの気配を、一人で探る為でもあるからだ。

 廃城内部は昼間でも薄暗く、壁や柱の所々に大きな亀裂が走っている。

 しかし元々は、巨大な岩山を精霊などがくり貫いて造った城だ。
 それだけに大きく崩れずに残っている強固な造りで良かったのだと、フィーサは思うしかなかった。

「むぅー、落ちても平気だけど、床の穴には落ちたくないなの」

 精霊が多く暮らしていたバラルディア王城は、外界からの侵攻や攻撃を防ぐ為に、岩を固めて頑強に作られている。

 いつ滅びてしまったのかは不明だが、食料や武具、魔石の備蓄場所として、古くから侵攻に備えていたような痕跡が残されているようだ。

 外観と城の内部は大きく崩れておらず、崩れているのは底に抜けた床ばかり。
 足下を気にして、フィーサは一人だけで気配の感じた場所へ突き進むことにした。

「出っ来上ーがり! 溶岩焼きステーキが出来ましたよ! 召し上がれー!!」
「わーい!」
「さてっ、お次はフィーサの為の油スープを……あれっ? フィーサは?」

 料理に夢中だったルティは、ようやくフィーサがいないことに気付いた。

「もぐ……どこか行ったんじゃないの?」
「えぇ!? アック様がいないのに、また怒らせた!? でもでも、どこを探せばいいの~」
「人間じゃないんだし、心配いらないと思うけどね~」
「はぅぅぅ……」

 ルティの心配をよそに、フィーサは居住塔と呼ばれる所にまで進んでいた。
 痕跡を感じたようで、そこには種族に関係の無い居住空間があったらしい。

「興味深いなの。銀製の水差し、黒檀こくたんの机……ふむむ、身分の高い者もいたなの?」
 
 宝剣として幾多の人間に使われて来たフィーサも、古代王国には来たことが無い。
 それだけに、部屋中のあらゆる物に夢中になるのは無理も無かった。

「ふかふかなクッションまであるなんて、信じられないなの……なのっ!?」

 そこで彼女の油断をついて、どこからともなく一本の矢が放たれた。
 古代の城にふさわしくないクッションに命中した矢は、明らかにフィーサを狙ったもの。

 その気配に何となく気付いていたフィーサは、矢を放った何者かに向けて声を張り上げる。

「やっと出て来たなの? わらわには、矢なんて効かないなの! こそこそしてないで、とっとと出て来ればいいなの!!」
「――ちぃっ! 誰が来るかと思えばお前か」
「えっ? どこかで聞いたことがある声なの」

 フィーサの言葉を聞き、矢を放った者はすぐに姿を見せた。
 その姿に、フィーサも驚きを隠せない。

「ふん、人化の両手剣の娘が我を迎えに来るとはな。霧の村の奴らめ……我を陥れたつもりか」
「えーと、イスティさまについていたエルフの~……?」
「関わりが少なかったとはいえ、我の名を言えないとは……アックめ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...