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第十六章:エンシェント・エリア
283.魔石彼女たちとの戦い ⑤
しおりを挟むシーニャも元通りになったし、おれも元の姿に戻る――いや、シーニャの記憶は戻ってくれるのだろうか。おれが人の姿に戻ってしまえば、どうなるんだ。
「アックさん、それが獣化ですか。フェンリルだなんて、凄いものですよね~」
驚きもせずに近付いて声をかけて来るとは、曲者にも程がある。
スキルの解放でこの姿でも人の言葉を話せるとはいえ、リリーナさんはまるで動じていない。
「リリーナさん。そんなことより、シーニャを戻してくれますよね?」
「……すでに戻っているのでは?」
「今のシーニャは、獣化のおれに従っているだけですよ。いつもの彼女とは違いますよ」
魔石によって人の姿のおれに対し、攻撃を一切止めなかった彼女だ。
獣化でボスとして君臨したことになったから大人しくなったが、人の姿に戻ってしまえば攻撃をして来るのではないだろうか。
当のシーニャは、いつもはしない獣っぽい仕草でおれの言葉を待っている。
おれと話すリリーナさんに対して、敵対心を高めながら警戒している感じだ。
「それでしたら心配ありませんよ。獣化で従えたのでしたら、人の姿に戻った時点で、彼女は以前よりもアックさんに服従を誓うはずです」
「服従って……」
「シーニャさんにとって悪い意味ではありませんから、戻られては?」
「――分かりました」
にわかには信じがたい言葉だが、この姿のままではミルシェと戦うことが出来ない。
この人を信じるしか無さそうだ。
「……ウニャ?」
シーニャは獣化が解けていくおれに気付き、虎耳をぴんと立てている。果たしてどうなるのか。
「ふぅぅ……」
獣化から解く方が体力を消耗するようで、やはりあまり使い勝手のいいスキルでは無い事が分かる。
無敵状態を維持するということは、そういうことなのだろうが。
「フニャウゥ……アック、アックなのだ? シーニャ、アックを待っていたのだ」
「おれのことが分かるのか?」
「ウニャ? アックはアックなのだ! シーニャのボス、シーニャのアック……シーニャの主人なのだ! ウニャッ!」
ああ、そうか。おれに対する彼女の心は、ボス以上のものになっていたから問題は無かったわけか。
これはおれに対する試練というより、魔石に刻まれた彼女たちも強化されるということのようだ。
「アックさん、この村の意図に気が付かれましたか?」
「まぁ……質が悪いですけどね」
「何も問題が無かったようですので、最後の試練を始めましょうか」
ルティの母親といい、リリーナさんといい、何て厄介な人たちなのか。
先を見通せる力を有しているのかもしれないが、もう少しこう――。
そう思っていたらこの場には、すでにおれとミルシェの姿しか見えなくなっていた。
シーニャもせっかくおれと再会したのに、また霧で隠されることになるとは思ってもいないだろう。
「あら……? あなた、ラクルの冒険者じゃない? 確か名前はアック!」
やはりミルシェの記憶も、水棲怪物の時にまで戻っているのか。
しかし彼女の場合は、おれに対する忠誠心というものは無かったはず。
そうなると更なる覚醒を果たした場合の力は、どういうものになるというのか。
「ああ、そうだ。きみは水棲怪物スキュラ……だよな?」
「ねえ、宝珠をちょうだい? くれるんでしょ? くれないとどんな目に遭うのか、想像したくないと思うんだけど?」
「……宝珠か。そういや、そうだったな」
あの時の彼女は魔石に魅了されて、おかしくなっていた。しかし魔石は今、彼女の近くで精神支配をしている。
そうなると、手持ちの魔石だけを使ってガチャを引くことになるが、それをしたからといって彼女がいい方に動くとは限らない。
迂闊にガチャをしてはいけない気がするが、どうするべきなのか。
「ねえ、まだなの? 宝珠が欲しいって言ったじゃない! ほら、早く~」
「……ちょっとだけ時間をくれ」
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