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第十六章:エンシェント・エリア

273.ネーヴェル村と消えたエルフ 1

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 イデアベルクからネーヴェル村へ向かうには、間欠泉の村から歩いてしか行けない。
 出発前にルティからそう聞かされてしまった。
 
「え、歩きでしか行けないのか?」
「そうなんですよー」

 ルティの話によると、空からでは霧が深すぎて村にたどり着くことが出来ないのだとか。
 それどころか霧に呑まれてしまって、抜け出せなくなるという。

 ネーヴェル村へは、おれとルティ、そしてシーニャ、サンフィアとミルシェの五人で行くことになった。
 
 精霊竜であるアヴィオルはイデアベルクで留守番だ。
 ネーヴェル村の用が済んだら、またイデアベルクに戻り、そこから連れて行くことにした。

 そうなると後はフィーサだけになる。

「――さてと、部屋に戻ってフィーサを……」
「ええっ!? フィーサは駄目です!」
「ん? フィーサがどうかしたのか?」
「え、えーとですね、えーとえーと……」

 フィーサはおれの部屋でずっと眠ったままだ。
 部屋に戻っていないので、彼女がどうなったのか分からない。

 しかしルティが何か慌てた様子を見せている。

「フィーサはまだ眠ったままだが、連れて行くのは問題無いんだよな?」
「そ、そのぅ、ネーヴェル村は武器は駄目でして……」

 以前は村に入ることすら許されなかった。

 しかし今回は向こうから招待されたわけだが、武器が駄目だとすると魔法だけで対応することになる。

「……む。それも村の厳しい掟みたいな奴か?」
「そ、そうですそうです!」

 ルティの慌てぶりはそれだけでは無いように思えるが、まぁいい。
 フィーサを置いて行くのは仕方ないとして理解した。

 しかし、武器を持てないことにサンフィアは納得していないようだ。

「――何? 槍も駄目なのか?」
「フィーサが駄目ということは、あなたが持つ槍も駄目ということになりますわね。危険は無いようですし、大人しく置いて行くべきでは?」
「気に入らぬな! ドワーフの村に行くだけなのに、護身用すらも拒まれるとは……」

 ミルシェもついて来てくれるから助かるが、サンフィアの自尊心の高さはこの先不安になりそうだ。
 
「アック、まだ着かないのだ?」
「おれも道が分からないからなぁ。ルティに頼るしかない。シーニャも不安か?」
「……ウニャ。ドワーフに頼るのが不安なのだ」
「ま、まぁ……」

 そんなルティだが、蒸気が噴き出す間欠泉をものともせず、豪快に進みまくっている。
 そして時間にして数時間経った辺りで、目的地に着いたことを知らせる声が聞こえて来た。

「アック様、アック様!! ネーヴェル村です! ここです、ここ!! こっちへ来てくださーい」

 ルティの声ははっきりと聞こえて来るが、辺りはすっかり濃い霧に覆われている。
 かろうじておれにくっついているシーニャの姿は見えるが、ミルシェとサンフィアは見えない。

「ミルシェ!! サンフィア! 村はすぐ先だ。おれの傍に来てくれ!」

「かしこまりましたわ!」

 ミルシェの声は聞こえるが、サンフィアから返事が来ない。
 しかし迂闊に動くわけには行かないので、ひとまずルティの所に向かう。

「何も見えないのだ。ウニャ」
「ああ、そうだな。おれにしっかり掴まっているんだぞ」
「ウニャ」

 シーニャは、おれの腰にがっちり掴まりながら歩いている。
 この霧だ。後ろの二人にもそうするべきだったかもしれない。

 間もなく、手を振りまくるルティの姿が見えて来た。

「アック様!! お待ちしていましたよーー!」
「あぁ、結構かかったな」
「あれれ? シーニャやミルシェさんたちは?」
「よく見てみろ。シーニャならおれの腰に――」

 シーニャの虎耳や尻尾が嬉しそうな動きを見せているが、中々おれから離れようとしない。
 村に入るのに急いでもいないので、しばらくそのままにしておくことにした。

「アックさま!! 大変ですわ!」

 ルティに気付かせようと思っていたら、追い付いて来たミルシェが声を張り上げている。
 何かあったか。

「あっ! ミルシェさん!! あれ? サンフィアさんは?」
「だから、これからそれをアックさまに言うのですわ! あなたは少し落ち着くべきですわ」
「そ、そうでした」

 全く何をやってるんだか。
 ルティは嬉しさを露わにしているが、かなり落ち着きがない。

 ミルシェは焦りを見せていて、ルティの相手をするどころじゃなさそうだ。

「――どうした? サンフィアは一緒じゃなかったのか?」
「ええ。途中まではいましたわ。ですけれど、霧でお互いが見えなくなったと思ったら、いなくなっていました。声も聞こえ無くて、どこへ行ったのか……」
「いなくなった? 一体どこに……」
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