273 / 577
第十六章:エンシェント・エリア
273.ネーヴェル村と消えたエルフ 1
しおりを挟むイデアベルクからネーヴェル村へ向かうには、間欠泉の村から歩いてしか行けない。
出発前にルティからそう聞かされてしまった。
「え、歩きでしか行けないのか?」
「そうなんですよー」
ルティの話によると、空からでは霧が深すぎて村にたどり着くことが出来ないのだとか。
それどころか霧に呑まれてしまって、抜け出せなくなるという。
ネーヴェル村へは、おれとルティ、そしてシーニャ、サンフィアとミルシェの五人で行くことになった。
精霊竜であるアヴィオルはイデアベルクで留守番だ。
ネーヴェル村の用が済んだら、またイデアベルクに戻り、そこから連れて行くことにした。
そうなると後はフィーサだけになる。
「――さてと、部屋に戻ってフィーサを……」
「ええっ!? フィーサは駄目です!」
「ん? フィーサがどうかしたのか?」
「え、えーとですね、えーとえーと……」
フィーサはおれの部屋でずっと眠ったままだ。
部屋に戻っていないので、彼女がどうなったのか分からない。
しかしルティが何か慌てた様子を見せている。
「フィーサはまだ眠ったままだが、連れて行くのは問題無いんだよな?」
「そ、そのぅ、ネーヴェル村は武器は駄目でして……」
以前は村に入ることすら許されなかった。
しかし今回は向こうから招待されたわけだが、武器が駄目だとすると魔法だけで対応することになる。
「……む。それも村の厳しい掟みたいな奴か?」
「そ、そうですそうです!」
ルティの慌てぶりはそれだけでは無いように思えるが、まぁいい。
フィーサを置いて行くのは仕方ないとして理解した。
しかし、武器を持てないことにサンフィアは納得していないようだ。
「――何? 槍も駄目なのか?」
「フィーサが駄目ということは、あなたが持つ槍も駄目ということになりますわね。危険は無いようですし、大人しく置いて行くべきでは?」
「気に入らぬな! ドワーフの村に行くだけなのに、護身用すらも拒まれるとは……」
ミルシェもついて来てくれるから助かるが、サンフィアの自尊心の高さはこの先不安になりそうだ。
「アック、まだ着かないのだ?」
「おれも道が分からないからなぁ。ルティに頼るしかない。シーニャも不安か?」
「……ウニャ。ドワーフに頼るのが不安なのだ」
「ま、まぁ……」
そんなルティだが、蒸気が噴き出す間欠泉をものともせず、豪快に進みまくっている。
そして時間にして数時間経った辺りで、目的地に着いたことを知らせる声が聞こえて来た。
「アック様、アック様!! ネーヴェル村です! ここです、ここ!! こっちへ来てくださーい」
ルティの声ははっきりと聞こえて来るが、辺りはすっかり濃い霧に覆われている。
かろうじておれにくっついているシーニャの姿は見えるが、ミルシェとサンフィアは見えない。
「ミルシェ!! サンフィア! 村はすぐ先だ。おれの傍に来てくれ!」
「かしこまりましたわ!」
ミルシェの声は聞こえるが、サンフィアから返事が来ない。
しかし迂闊に動くわけには行かないので、ひとまずルティの所に向かう。
「何も見えないのだ。ウニャ」
「ああ、そうだな。おれにしっかり掴まっているんだぞ」
「ウニャ」
シーニャは、おれの腰にがっちり掴まりながら歩いている。
この霧だ。後ろの二人にもそうするべきだったかもしれない。
間もなく、手を振りまくるルティの姿が見えて来た。
「アック様!! お待ちしていましたよーー!」
「あぁ、結構かかったな」
「あれれ? シーニャやミルシェさんたちは?」
「よく見てみろ。シーニャならおれの腰に――」
シーニャの虎耳や尻尾が嬉しそうな動きを見せているが、中々おれから離れようとしない。
村に入るのに急いでもいないので、しばらくそのままにしておくことにした。
「アックさま!! 大変ですわ!」
ルティに気付かせようと思っていたら、追い付いて来たミルシェが声を張り上げている。
何かあったか。
「あっ! ミルシェさん!! あれ? サンフィアさんは?」
「だから、これからそれをアックさまに言うのですわ! あなたは少し落ち着くべきですわ」
「そ、そうでした」
全く何をやってるんだか。
ルティは嬉しさを露わにしているが、かなり落ち着きがない。
ミルシェは焦りを見せていて、ルティの相手をするどころじゃなさそうだ。
「――どうした? サンフィアは一緒じゃなかったのか?」
「ええ。途中まではいましたわ。ですけれど、霧でお互いが見えなくなったと思ったら、いなくなっていました。声も聞こえ無くて、どこへ行ったのか……」
「いなくなった? 一体どこに……」
0
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
神とモフモフ(ドラゴン)と異世界転移
龍央
ファンタジー
高校生紺野陸はある日の登校中、車に轢かれそうな女の子を助ける。
え?助けた女の子が神様?
しかもその神様に俺が助けられたの?
助かったのはいいけど、異世界に行く事になったって?
これが話に聞く異世界転移ってやつなの?
異世界生活……なんとか、なるのかなあ……?
なんとか異世界で生活してたら、今度は犬を助けたと思ったらドラゴン?
契約したらチート能力?
異世界で俺は何かをしたいとは思っていたけど、色々と盛り過ぎじゃないかな?
ちょっと待って、このドラゴン凄いモフモフじゃない?
平凡で何となく生きていたモフモフ好きな学生が異世界転移でドラゴンや神様とあれやこれやしていくお話し。
基本シリアス少な目、モフモフ成分有りで書いていこうと思います。
女性キャラが多いため、様々なご指摘があったので念のため、タグに【ハーレム?】を追加致しました。
9/18よりエルフの出るお話になりましたのでタグにエルフを追加致しました。
1話2800文字~3500文字以内で投稿させていただきます。
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させて頂いております。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~
ゆさま
ファンタジー
新作ゲームアプリをテストプレイしてみたら、突然ゲームの世界に転送されてしまった。チートも無くゲームの攻略をゆるく進めるつもりだったが、出会った二人の美少女にグイグイ迫られて…
たまに見直して修正したり、挿絵を追加しています。
なろう、カクヨムにも投稿しています。
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される
鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。
レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。
社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。
そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。
レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。
R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。
ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
追放の破戒僧は女難から逃げられない
はにわ
ファンタジー
世界最大の力を持つドレーク帝国。
その帝国にある冒険者パーティー中でも、破竹の快進撃を続け、今や魔王を倒すことに最も期待が寄せられると言われる勇者パーティー『光の戦士達』。
そこに属する神官シュウは、ある日リーダーであり勇者として認定されているライルによって、パーティーからの追放を言い渡される。
神官として、そして勇者パーティーとしてそぐわぬ素行不良、近年顕著になっていく実力不足、そしてそんなシュウの存在がパーティーの不和の原因になっているというのが理由だが、実のところは勇者ライルがパーティー内で自分以外の男性であるシュウを追い払い、ハーレム状態にしたいというのもあった。
同じパーティーメンバーである婚約内定者のレーナも既にライルに取られており、誰一人として擁護してくれず失意のままにシュウはパーティーを去る。
シュウは教団に戻り、再び神官として生きて行こうとするが、そこでもシュウはパーティー追放の失態を詰られ、追い出されてしまう。
彼の年齢は20代後半。普通の仕事になら就けるだろうが、一般的には冒険者としては下り坂に入り始める頃で伸びしろは期待できない。
またも冒険者になるか?それとも・・・
拠り所が無く、愕然とするシュウはだったが、ここで一つのことに気が付いた。
「・・・あれ?これで私はもう自由の身ということでは!?」
いい感じにプラス思考のシュウは、あらゆる柵から解き放たれ、自由の身になった事に気付いた。
そして以前から憧れていた田舎で今までの柵が一切ない状態でスローライフをしようと考えたのである。
しかし、そんなシュウの思惑を、彼を見ていた女達が許すことはなかった。
※カクヨムでも掲載しています。
※R18は保険です。多分
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる