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第十五章:イデアベルク

271.幻霧の村からの声 前編

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「――アック様っ! アック様ー!! 起きて下さいっ! もしもーし?」

 ルティからの必死な声かけが耳元に届く。
 おれは確かシーニャの膝の上で抱き締められて、そのまま落ちたはず。

 シーニャの献身を受けたと言っても間違いじゃないが、今度はルティなのか。
 そう思っていると、ルティの他にも声が聞こえて来る。

「獣人は力の加減を知らぬのだな! 我が膝を貸す場合は、もっと――」
「オマエは黙れなのだ。オマエに聞いていないのだ!!」
「今からこんなことでは、先が思いやられますわね。エルフのあなたは、回復が使えませんの?」
「我がそう使える者に見えるか?」
「ウニャ! シーニャがやるのだ。エルフもお前もアックから離れろなのだ!!」

 ――どうやらシーニャはもちろん、ミルシェとサンフィアもいるようだ。
 全員揃っているということは、既に朝になってしまったか。

 シーニャの力で落とされたが、痛みは無くむしろ力が溢れている感じを受けている。
 これも「イスティ」を授けたことによる恩恵なのかもしれないな。

「――うぅ……ん」
「アック、起きたのだ?」
「……フン、獣人のくせにやるではないか」
「シーニャ、アックのシーニャなのだ!」

 そろそろ起きないとケンカが勃発しそうだ。
 寝かせられた場所はこぶし亭では無く、外のどこかでしかも、葉の上に置かれた感じか。

 ルティの声が聞こえて来ないが、小走りな足音が聞こえている。
 足音を探る限りでは、寝起きざまに何かを口に突っ込んで来るような――そんな勢いだ。

 ルティのことはともかく、とりあえず上半身を起こす。
 するとすぐ間近にシーニャの顔があった。

「……シーニャ、ずっと傍にいたのか?」
「ウニャ! アック、回復したのだ。シーニャ、力をもらったのだ!」

 やはり名を与えた効果が、早くも表れていたらしい。
 それにしてもシーニャの顔のヒゲやら何やらが顔に触れていて、何ともこそばゆい状態だ。

「アック様ーーーー!! さささ、グイグイグイグイっと!!」

 そんなことを思っていたら、次はルティの顔がすぐ近くにあった。
 これは覚悟を決めるしかない。

「こ、来いっ!」
「喜んでーー!」
「うぶぶぶぶ……んごっ、んぐっ……」

 覚悟はしていたが、ルティが流し込んで来た得体の知れない飲み物は、想像以上に甘かった。
 もはやこれが料理なのか、錬金術によるものなのか不明だ。

 またしても変わったスキルが得られるかと思っていた。
 しかし飲んでいる最中に、どこからともなく謎の声が聞こえて来た。

「(アック・イスティさん、お強くなられたようですので、村への立ち入りを認めますねっ! ルティちゃんと来てくださいよ? 約束ですよー!)」
「――な、何!? どこかで聞いたことのある声だな。村? 村ってどこの――」
「え? アック様? さっきから何をぶつぶつと独り言を? わたしは目の前にいますよー!」

 ルティに似た声が頭の中に響いて来たと思ったら、目の前ではルティが一所懸命に話しかけている。
 これはもしかしなくても、死ぬ間際の謎の声という奴か。

 まさかルティに飲まされたのは、猛毒性のある飲み物なのでは。

「ウゥ……ドワーフの作るものは危険すぎるのだ。今すぐアックを回復するのだ」
「本当に危険すぎますわね。あの頃を思い出すと、身の毛がよだって仕方ありませんわ……」

 シーニャもミルシェも、ルティの料理にはトラウマがあるから仕方が無いか。
 当のルティはおれに飲ませまくった瓶を片付けているようだ。

 それにしても頭の中で聞こえた声は、幻聴なんかでは無さそうだが何だったのか。

「おい、貴様! 我が傍にいながらにして、幻を味わっていたな?」
「――ん? 幻? 味わうって……」
「我には分かる。我は幻惑魔法が使えるのだからな! あの娘から何を飲まされたのか、言え!」
「そんなこと言われてもな。サンフィアは、あれが何なのか分かるのか?」
「見くびるな! ならば、我を同行させろ! 我なら貴様の助けが可能だ」

 サンフィアは元から連れて行くつもりではあるが、あの声を聞いた限りでは恐らく――。
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