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第十五章:イデアベルク

263.エルフ自治区 イデアベルク再建編③

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 竜人娘であるアヴィオルとともに、おれは森林区に歩いて行くつもりだった。
 だが外に出た所で彼女はいきなり竜に姿を変えて、そのままおれをくわえて空に飛び上がっていた。

「う、うおっ――!?」
「咬みつかなかったよ、偉い?」
「全身を咬まれたらシャレにならないだろ……」

 すぐ外に出ると言っていたのは、まさしくそういう意味だった。
 竜人であるアヴィオルは人間のように二足歩行が出来るらしいが、恐らく歩くことにまだ慣れていない。

 だからこその変身なのだろう。そうだとしても、竜の口に咥えられるとは想像もしなかった。
 エルフ自治区は歩いてもさほど遠くは無いが、歩いて向かうよりも上空から行くのとでは遥かに違う。

 竜の背に乗っているわけでは無いものの、イデアベルクの全景を見るのは初めてのことだ。

「どう? イデアベルクが見られて嬉しい?」
「こんなみっともない格好をさらけ出すとは、思わなかったけどな」
「じゃあ背中に乗せたら、連れて行ってくれる?」

 アヴィオルが言うことに深い意味など無さそうだが、ルティの精霊でもあるし素直にしとこう。

「連れて行かれるのは俺の方だが、背中に乗れるならどこでも行くぞ」
「わぁ~いっ!!」
「――へ?」
「あっ、イスティさまっ――!? ああぁぁぁ!!」 

 竜人の時と同様に口を開いて会話していた彼女が喜びを表したことで、思いきり口が開いてしまった。
 このままだとおれは、間違いなく地上へ落下する。

 丁度真下にエルフ自治区のエリアが広がっているのだが、風を使うか迷う。
 再建するにあたって、エルフたちは新しく植樹をしている。
 そこに風を起こして着地してしまうと、せっかくの植樹が意味を為さなくなりそうだからだ。

 そのことを考えた結果、おれは地面に叩きつけられることを選択した。
 幸いなことに物理耐性は相当高いので、致命傷を負うことはまず無いだろう。

 出来れば被害を与えたくないが、落下速度に勢いがありすぎる。
 せめて誰かにぶつからないようにすることだけは、しておかなければならない。

 ◇◇

 誰もいないことを確認した上で、おれは地面に叩きつけられた。
 ――かと思われたが、ぶつかった衝撃と反動が生じていないように思える。

「――! フフ、そうか来たのか」

 どうやらおれの全身は、とても逞しい腕に支えられているようだ。
 抱えられているその姿を想像するに、母親に抱っこされた赤ん坊のように見えているに違いない。

「…………うむむぅ」

 それならばと、抱えている相手に対し思いきって甘えてみることにした。
 エルフ族の女性であれば、優しく撫でてくれるはずだ。

 女性はおれを自分の胸元に抱きよせ、強い力でさらに抱きしめて来る。
 身体の動きを封じられても困るので、おれも感謝の気持ちを伝える意味で女性を力強く抱きしめた。

「フン、ようやく我を正妻と認めたか。それならば好きなだけ掴み、揉みしだくがいい!」
「はっ……?」
「――どうした? 遠慮するな! 我に死ぬ気で会いに来たのであれば、行為にひるむ必要は無かろう」

 どうやらおれを受け止め、抱っこした女性は彼女だったようだ。
 この声と口調はどう考えても、誇り高すぎるエルフの彼女しか見当たらない。

 そしておれの両手は現時点で所在無いのだが、触れてはならない位置にあるのは明白だ。
 このままでは正式に認めてしまいかねないので、惜しいが解放してもらう。

「サンフィア。悪いが、おれを降ろしてくれ」
「ここまで攻めて来ておきながらか? いつから軟弱な男に成り下がった? 見損なうぞ、アック!」

 おれにとってまだ踏み入れてはならない領域だろうし、やめておくのが無難だ。
 それにエルフに手を出すのは、あまりに迂闊すぎる。

「見損なってもいいから、立たせてくれ」
「……ちっ、竜に免じて預けておくぞ、アック」

 おれとサンフィアのやり取りの最中、周りには他のエルフたちの姿があった。
 
 単純に注目を集めていただけだと思っていたが、どうやら精霊竜であるアヴィオルがエルフたちに対し、畏怖を与えていたらしい。

 アヴィオルのことはまだ説明をしていないだけに、エルフたちは相当な怯えを見せている。
 自治区として認めておいてこれはさすがにまずいので、急いで説明をすることにした。
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