261 / 577
第十五章:イデアベルク
261.ギルド街区と獣人娘 イデアベルク再建編②-3
しおりを挟む「う……ごめん」
遊び歩いていたわけでは無く、ミルシェを探しに来ただけなのだが。
しかし言い訳はしないでおこう。
「アックさまは頭を下げなくてもいいのですわ。どうせ、ルティが誘ったのでしょう?」
「まぁな。あの娘はどこかに行ったけど」
「とにかく、今はとても忙しいのですわ! ギルド街区は工事の最中。さっきまでネコ族がくだらないことで揉めていましたけれど、他の作業に行ってもらいましたわ」
ミルシェのおかげだったのか。彼女に国のことを任せていたら、上手くまとまりそうだな。
「お前も遊んでばかりいるのだ! お前もアックを手伝うのだ!! ウニャ」
「いや、シーニャ。それは違――」
「虎娘の頭では分からないことですのね! いいですわ。ギルドのことも話したいし、じっくりと話し合おうじゃない!!」
「ウニャ!!」
ミルシェを怒らせてしまったようだ。
そうなると、おれだけで問題を片付けに行くしか無い。
「あ、アックさま。問題人物は、エルフ自治区で暴れていますわ! 恐らく、アックさまの言うことならあれらも命令を聞くと思いますわ」
「サンフィアの所か。分かった、行って来る」
シーニャとミルシェの話し合いが長引きそうだ。
ここは黙って行くしかない。
◇◇
イデアベルクは滅亡する前に、いくつもの区が存在していた。
子供の頃はほとんど居住区しか行き来したことが無く、隅々まで見たことは無い。
しかし一部の貴族連中が、立ち入りを許可しなかった場所が見つかった。
魔導兵が量産されていた場所がそこにあたるが、おれはそこを全て破壊して更地に変えた。
貴族がいた場所、卑しい人間がいた痕跡を消したことに多くのエルフたちは安堵した。
そしてサンフィアを始めとしたエルフたちは、そこを自分たちの区にしたいと訴えて来た。
その結果、今はエルフ自治区として認めたという経緯がある。
エルフ自治区の位置は森林区に近く、居住区からは遠い。
森林区にはグライスエンドから連れて来た竜を放っているので、竜の姿を見ることが多い場所だ。
そこで問題を起こしているということは、あの男に違いない。
歩いて行くのは面倒なので、あの男に教わった移動魔法で飛ぶことにする。
◇◇
「キャァッッ!?」
移動魔法で飛んだが、真っ先に聞こえて来たのは女性の悲鳴だ。
またしても失敗したのだろうか。
「――へっ?」
「もしかして、イスティさま!?」
「キミは確か……」
聞くまでも無く、竜人でしかも女性が目の前にいる。かろうじて裸では無いが。
どうやら全身を拭いている所に飛んで来たようだ。
グライスエンドから連れて来た竜の一人になるが、そのほとんどは、竜もしくは精霊竜だった。
その中には人化出来る者がいて、彼女、彼らのことを竜人と呼んでいる。
「もうすぐ拭き終わるからあっち向いてて!!」
「わ、分かった」
竜の翼とツノを見せている以外は、ほぼ人間と変わらない。
もちろん人化を完璧に出来る竜人は、ごくわずかだ。
「イスティさま、こっちを向いてもいいよ!」
「おぉ……?」
「そ、そんなに見つめられたら、咬みつくからね?」
「いっ!?」
ついつい見つめてしまったが、咬みつかれても困る。
それにしても竜人の姿に、全く違和感を感じない。
シーニャは獣人で違いないのに、竜人を人間と言っても差し支えない姿をしている。
「冗談だよ。イスティさまに咬みついても美味しくなさそうだもん。それにあの子が泣きそう」
「――泣きはしないと思うが。キミは精霊竜人の――アヴィオルだったかな?」
「うん、アヴィって呼んでね!」
ルティに精霊竜がついた時の竜が、ここにいるアヴィオルである。
竜の時は真っ赤な竜だったのに、人化すると外見が全く違うのには驚いた。
ミルシェとも違う、何とも整った顔つきの女性だ。
長い髪をしているが、赤では無く白い髪をしていて神秘的な雰囲気がある。
言葉遣いもルティより子供っぽいが、特に気にはならない。
ここに移動して来たということは、森林区には飛べたということだ。
「ところで、キミらはあの男とは仲良くしているのか?」
「ウルティモのこと? 相手にしてないよ。それよりも、せっかく来てくれたんだから遊ぼうよ~!」
「いや、先にエルフの所に行かないと駄目なんだ。また今度遊ぶから」
「え~つまんない~!!」
言葉だけ聞いていれば子供っぽいが、年はかなり上のはず。
とにかく今は、ウルティモがいるはずのエルフ自治区に行かなければ。
「じゃあ、そういうことだから――」
「イスティさま! それじゃあ、一緒に行く!!」
「アヴィも? う~ん……まぁいいか。くれぐれもエルフに襲い掛からないでくれよ?」
「うん、いいよ~! イスティさまは、どうせすぐ外に行くことになるし~」
「――何だって?」
何か気になることを言い放ったアヴィオルだったが、特に意味は無いだろう。
とにかく今は獣人というか竜人娘を連れて、エルフ自治区に向かうことにする。
0
お気に入りに追加
567
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました
遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。
追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。
やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~
桜井正宗
ファンタジー
元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。
仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。
気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。-俺は何度でも救うとそう決めた-
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング第1位獲得作品】
---
『才能』が無ければ魔法が使えない世界で類まれなる回復魔法の『才能』を持って生まれた少年アスフィ。
喜んだのも束の間、彼は″回復魔法以外が全く使えない″。
冒険者を目指し、両親からも応援されていたアスフィ。
何事も無く平和な日々が続くかと思われていたが事態は一変する。母親であるアリアが生涯眠り続けるという『呪い』にかかってしまう。アスフィは『呪い』を解呪する為、剣術に自信のある幼馴染みの少女レイラと共に旅に出る。
そして、彼は世界の真実を知る――
---------
最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
♥や感想、応援頂けると大変励みになります。
完結しておりますが、続編の声があれば執筆するかもしれません……。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
空想の中で自由を謳歌していた少年、晴人は、ある日突然現実と夢の境界を越えたような事態に巻き込まれる。
目覚めると彼は真っ白な空間にいた。
動揺するクラスメイト達、状況を掴めない彼の前に現れたのは「神」を名乗る怪しげな存在。彼はいままさにこのクラス全員が異世界へと送り込まれていると告げる。
神は異世界で生き抜く力を身に付けるため、自分に合った能力を自らの手で選び取れと告げる。クラスメイトが興奮と恐怖の狭間で動き出す中、自分の能力欄に違和感を覚えた晴人は手が進むままに動かすと他の者にはない力が自分の能力獲得欄にある事に気がついた。
龍神、邪神、魔神、妖精神、鍛治神、盗神。
六つの神の称号を手に入れ有頂天になる晴人だったが、クラスメイト達が続々と異世界に向かう中ただ一人取り残される。
神と二人っきりでなんとも言えない感覚を味わっていると、突如として鳴り響いた警告音と共に異世界に転生するという不穏な言葉を耳にする。
気が付けばクラスメイト達が転移してくる10年前の世界に転生した彼は、名前をエルピスに変え異世界で生きていくことになる──これは、夢見る少年が家族と運命の為に戦う物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる