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第十四章:鳴動の大陸

254.ルティと精霊竜の導き

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「アック様~!!」
「ウニャアァァァァァ!」
「な、なんっ――うげげっ、わぶぶぶっ!?」

 ウルティモを氷に閉じ込めた直後、急に視界が閉ざされる。
 もしかしてカウンター攻撃でも発動したのかと思っていると、ルティとシーニャに挟まれ羽交い絞めにされていた。

 息苦しさがある正面にはシーニャ、背中にはルティがくっついている。
 肌に感じる感触はモフッとした毛ざわりがあり、恐らく彼女の胸元に顔が埋もれていてそこから全く動かせない。

 背中にはルティの温もりと膨らみ、そして腰には彼女の力強い両腕が回されている。
 フィーサはどこにいるのかと顔を動かそうと試みるも、シーニャが離してくれない。

「もががっ、まっ、待った……シーニャ、こ、こら――!」
「ウニャウウ……!! アック、無事! アック生きているのだ~!! フニャァ!」
「ル、ルティも、ち、力を弱め……ぐげげげ」
「一時はどうなることかと思っ……ううっぐすっっ」

 駄目だ、どっちも押さえつける力が半端ない。
 せっかくウルティモを制したのに、このままでは彼女たちによって意識を失いそうだ。

「しょうがないなぁ。イスティさま、一つ貸しだからね?」
「……んぶふっ!?」

 近くからフィーサの声が聞こえて来たかと思えば、二人を強引に引き剥がすかのような突風が吹き荒れた。

「はぇっ!? と、飛ばされるぅぅ~!!」
「ウウウ……邪魔するな、なのだ!! フィーサ!」
「駄目だよ、シーニャ。イスティさまが死んじゃうよ?」
「ウウゥニャ……」

 フィーサからの厳しい声があったのか、シーニャは名残惜しそうにおれから離れた。
 ルティは結構吹き飛ばされたらしく、後方の地面で放心状態になっている。

「わ、悪い、フィーサ」
「本当だよ~! イスティさまが負けるわけないと思っていたけど、すぐ気を抜くところが弱点だと思うの。わたし抜きで倒しちゃうなんて、さすがだけどねっ!」
「そうだな、反省しとくよ」
「……ウニャ。アック、ごめんなのだ」
「――ん? あぁ、問題無いぞ。心配してくれたんだよな、シーニャ! よしよし……」
「フ、フニャ……」

 すでにたっぷりとモフッてはいるが、しょんぼりとしたシーニャの頭を撫でて元気づけた。
 
「アック様~!! 私も私もお願いしますです!!」
「……あ、あぁ」
「え、えへへへぇぇぇ~」

 何故かシーニャと争いたいらしく、駆けて来たルティの頭もついでに撫でた。
 フィーサだけは人化したままのせいか、大人びた態度を崩していない。

 ◇◇

 ウルティモが氷漬けのまましばらく経った。
 他の戦闘魔導士はシーニャたちが追い払い、アジトとされる所に逃げて行ったらしい。

 アジトとされる小屋は、岩肌にへばりつくようにして建っている。
 しかし人はおろか、獣の気配すら感じられない。

「あの小屋に逃げて行ったってことで間違いないか?」
「ウニャッ! きちんと見たのだ!」
「うん、そうだよ~」
「……しかし――」

 シーニャは耳を立てて自信を持っているし、フィーサも力強く頷いている。
 全く気配を感じないが、小屋に侵入するべきなのだろうか。

「――あああ~!!」
「な、何だ? どうした、ルティ」
「感じます、感じますよ~! 小屋の奥から、精霊竜さんの声が聞こえて来ています~」
「小屋の奥から? しかし岩しか見えないが……」
「こうしちゃいられないですっ!! 今すぐ助けに行かないとっっ!」
「あっ、こらっ――!!」

 止める間もなく、ルティは勢いそのままで小屋に入って行ってしまった。
 岩肌にへばりついている時点で、小屋の奥も何も無いと思われるが。

「イスティさま、たまには小娘を信じてみるのもいいんじゃない?」
「疑っているわけじゃないが……」
「ウニャ、ドワーフだけを先に行かせるのは駄目なのだ! 早く進むのだ!!」

 小さな小屋にもかかわらず、ルティは外に飛び出して来ない。
 そうなると彼女の言う通り、小屋の奥に何かがあるということになる。

「――ウルティモをこのままにして行くということになるが……」

 奴は息絶えたわけでは無く、動きを止めただけだ。
 どこかに潜んでいる仲間に助けられれば、必ず追って来る。
 
 そう思うと、うかつにここを離れてはいけない気がしてならない。

「……イスティさま。わたしが見張ってようか?」
「ん? フィーサだけでか?」
「他に誰がいるの? わたしに任せて!」
「シーニャは――」
「アックと一緒に行くのだ!! ウニャッ!」
「だよな……」
「大丈夫! わたしだけで何とか出来るから、イスティさまは早く小娘を追いかけて!!」
「悪いな、フィーサ。よし、シーニャ行くぞ!」
「ウニャッ!」

 人化しておれの手元から離れてから、フィーサだけに任せることが増えてしまった。
 彼女の実力なら、たとえ他の魔導士が襲って来ても問題無いはずだ。

 シーニャを連れて、おれは小屋の中に急いだ。

「――イスティさまが戻って来るまでに、戦闘魔導士は全て消しといてあげなきゃ……」
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