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第十四章:鳴動の大陸

249.ルティと炎の目覚め!?

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 おれの返事に対し、ウルティモがどう動くか。そう思っていたが、すでに戦闘は始まっていた。

 奴との会話の最中、他の連中から感じられた気配は、いつ動いてもおかしくない状況にあった。
 そして予想通り、交渉決裂の気配を醸し出すと同時に動き出した。

 静寂を打ち破り最初に飛び出したのは、向こうの集団からだ。
 こちらもすでに各自で戦闘態勢になっていたが、シーニャが真っ先に動いている。

「シーニャに任せるのだ! ウニャ!」

 戦いに意気込んでいたシーニャが、ニ、三人の魔導士の動きをかく乱。

 少人数で向かって来た敵のふところにすぐ到達したシーニャは、自前の爪による前方直線型攻撃で奴らの動きを一瞬にして封じた。

 ――虎人族の動きじゃないぞ!?
 ――馬鹿な……っ!?
 ――く、くそっ……!

 どの程度の強さを想定していたのか、三人は面食らったようだ。
 さらにシーニャの攻撃は、向かって来る奴らに対し反撃カウンターを喰らわせている。

 彼女の強さは以前にもまして凄まじく、少なくとも相手の不意打ち攻撃でもない限り傷を負う心配は無さそうだ。

 ウルティモを含め、連中とは一定の距離がある。
 動くシーニャに対しわざわざ向かって来ているのは、ウルティモの指示影響を受けない単独行動によるもののようだ。

 奴の思惑はどうあれ、想定通りに動かされた感じがある。

「おいアック! 虎娘に任せきりでいいのか? 我も動くぞ」
「サンフィアはしばらく様子見で頼む。敵もそんな感じで動いているから」
「……あの男がボスなのだろう? 自らは動かずに周りを動かすだけとは……我は好かん! その点、アックは堂々としているから好きだぞ」

 彼女の言う通り、ウルティモは一歩も動いていない。
 奴はこちらがすんなりと条件を呑まないことを、初めから分かっていたようだ。

「アック様っ、ローブ姿の人間が沢山動き始めましたっ! ど、どうしましょう?」
「――ということは、遠隔魔法を集中的にぶつけてくるようだな」
「そ、そうなると、アック様の出番ですかっ?」
「魔法なら全て無効に出来るから、相手をしなくても――って、ルティ。お前、その髪はどうした!?」
「はぇ?」
「ちょっと触るぞ」

 ルティの赤毛は元々燃えるように真っ赤なのだが、さらに色濃くなっている気がする。
 戦いの最中でも、それは確かめておく必要があるだろう。

 撫でる以外に彼女の髪に触れることは無いのだが、指で髪をすくってみた。

「……はわぅっ」
「すぐ終わるから大人しく」
「は、はぇぇ……」
「うっ!? ――ってぇぇ! な、何だ、噛まれたのか!?」

 何か違和感があったわけじゃないのに、ルティの髪から指を噛まれた。

「アック様、もしかして私の髪に何か……?」
「分からん。でも明らかに痛みを感じたぞ」

 もう一度すかそうと思ったが、サンフィアたちが睨んでいたので手を引っ込める。
 どうしたものかと思っていたら、から姿を現わした。

 ルティの髪色よりも真紅色に光り、小さいながらも翼を広げて空に浮かぶ。
 その姿はどう見ても、竜に見える。

「あれれ~? 真っ赤な竜さんですよ~! 私の頭の上に住んでいたんでしょうか?」
「いや、そいつは精霊竜だな。そういえばルティに火神アグニの印を授けていたような……」
「おぉ~! ついに私も魔法が使えるようになったってことですね~!!」
「どうだろうな。さっきから魔導士軍団が遠くで詠唱しているし、やってみてもいいぞ」
「はいっっ! よぉし、よぉぉし!!」
「とりあえず何も考えずに自然と――」

 そんなことを言おうとしていたら、すでに精霊竜の口から炎のブレスが吐き出されていた。
 遠隔魔法を放とうとしていた連中も含め、奴らがいる一帯に爆炎が上がっている。

「え? ええぇ? わ、私まだ何も~」

 どうやら自分の意思とは別に、精霊竜が攻撃を放ったようだ。
 ルティ自身が火属性魔法が使えるわけではなく、何らかの意思で精霊竜が動いたことになる。

「び、びっくりしたのだ!! いきなり地面が爆発したのだ!」
「シーニャ、無事か?」
「急いで戻って来たから平気なのだ。尻尾が少しだけ焦げてしまったのだ」
「はぇぇ……シーニャ、ごめんなさぁぁい」
「何だ、ドワーフの仕業なのだ? それなら早く止めるのだ!!」
「ど、どうやって止めれば~……」
「ウニャ、そんなのシーニャが知るわけ無いのだ!!」

 ルティの動揺をよそに、煙と炎が空一面にまで及んでいる。
 もはや戦闘魔導士集団の姿すら確認出来ない。

「二人とも落ち着け!」
「ウ、ウニャ……」
「はへぇぇ」
「とにかく、おさまるまで待つしか無いだろ」
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